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転げ落ちた後で<1> 

転げ落ちた先にの続編です。
なんとなく、恋人っぽい生活を続ける渥美と鈴木。
そんなとき、渥美の元部下が転職してきた。
下僕な上司と、女王さまな部下の端から見た様子は?

<2> <3> <4> <5> <6> <7> <8> <9>完
<転がり込んだ胸に> <小春日和の中で>  <お返し> <初日をのぞむ>
<過ごしたとき> <お守り> <上巳> <収まるべきところ>
<鍵> <交わす瞳と唇> <綺麗な男>




【転げ落ちた後で】


「義彦。起きろ」
「うん?」
声を掛けられて、鈴木義彦は、30の坂を越してから、めっきりだるさが勝るようになった身体を起こす。
さらりとした前髪は短めにカットされ、大き目のキツイ目付きが痩せた顔をシャープに見せている。整った顔立ちは、昔はさぞ美形だっただろうとうかがわせるが、顔色の悪さが災いして、それを目立たなくさせていた。
「おはよう。メシの用意出来てるから、シャワー浴びて来い」
鈴木を起したのは、会社の上司兼一応恋人の渥美サクヤだ。
イケメンで、体格も引き締まってはいるが、ひ弱さはまったく感じさせない。誰が見ても、完璧な美丈夫ぶりである。
ふらふらと、まだ夢の中にあるような足取りで、鈴木はバスルームへと向かった。低血圧で末端冷え性の気のある鈴木は、寝つきが悪く、したがって朝に弱い。
キチンとした、広めの1SLDKのマンションは、一人暮らしには充分すぎる広さと設備が整い、鈴木が泊まっても、十二分のスペースがある。
シャワーを浴びて、しゃっきりさせた頭を振って、鈴木はダイニングへと顔を出した。
平日の朝の為、趣味は料理だと云ってはばからない渥美も、さすがに料理はしない。並んでいるのは、近くの美味いと評判のパン屋のサンドイッチとクロワッサンだ。
大き目のマグカップには、エスプレッソマシーンで入れたカフェオレがたっぷりと入っている。
美味そうなそれをたいらげようと、テーブルに着いた鈴木の横合いから伸ばされた手が、鈴木の細い顎を掴んだ。
すくい上げてキスをする唇には逆らわない。唐突にそんなことをしたがる癖が渥美にあるのは承知の上だからだ。
「何だよ?」
「ああ。うん。ちょっとな」
「早くメシ食わせろ」
「ああ」
キスをした唇を尖らせて文句を云う鈴木に、渥美はにっこりと笑って、うやうやしくサンドイッチを差し出した。
「どうぞ、女王陛下」
それに鈴木は、無言で不遜にうなずくのみである。
鈴木義彦には、学生時代から「女王さま」というあだ名がある。類まれなる中世的な容姿と肢体と天才的な頭脳を天から与えられた鈴木は、幼い頃から、母親を始めとする周囲の期待に見事応え続けたため、いつも大勢の取り巻きが鈴木のご機嫌を取る為に列を成していた。
鈴木も、扱いを間違えるとどうなるかは、幼い頃の経験で解っていたため、気を逸らさない程度に、適当にあしらう癖がついている。
かくして気位の高い女王陛下の出来上がりだ。
渥美は、当時、鈴木の助手を勤めていて、唯一鈴木を特別扱いしなかった相手である。
年を取り、病気もして、容姿の衰えた今では、これまた唯一「女王様」扱いしてくれる相手だ。
掛け値なしに、愛情を捧げてくれる恋人と云ってもいい存在だが、それは今のところ、渥美には云っていない。


「渥美部長!」
フロアの入り口で掛けられた声に、鈴木と渥美が振り向いた。
企画課では、朝のミーティング後に、課長の渥美が前日の仕事の進行具合と、周囲の仕事との調整をしながら、仕事の割り振りを行う。
声が掛かったのは、最後の鈴木が書類を受け取っている最中だ。
振り向いた先にいるのは、営業課のエース・香坂と、知らない男だった。営業部一のイケメンだと女性社員の評判の高い香坂と並んでも遜色の無い、人目を惹く華やかな容姿の男だ。
思わず上げてしまったらしい声に、口元を押さえているが、それでも瞳は嬉しそうに輝いている。
「ちょっと、待て」
どうやら、渥美の知り合いらしかった。片手を上げて制すると、鈴木に向き合って、仕事の説明を始める。
「こっちのデータが、HPにUPする分だ。今日中に総務部へ廻してくれ。それと、こっちは、香坂がパテント化を進めている、オール電化システム用の玄関灯」
「はい。解りました」
鈴木がファイルを受け取り、渥美の机を離れると、待ちかねたように男が走り寄ってくる。

「渥美部長! お久しぶりです!」
嬉しそうに走り寄ってきた相手は、渥美の前に来ると、ぺこりと頭を下げる。
「久しぶりだな、風見。どうした? お前、菱友は辞めたのか?」
「はい! 部長がいらっしゃらなくなってから、どうにも仕事がつまらなくて。今更ですが、部長が俺たちをよく見てくれていたんだと云うのがわかりましたよ。それで、やっぱり、もう一度部長と一緒に働きたくって」
「部長は止めろ。俺はここではまだ課長だ。まぁ、俺の下じゃないのは残念だが、頑張れよ」
「はいッ!」
まるで犬の子にするように頭を撫でる渥美に、鈴木が眉根を寄せた。
「何だ? ありゃ?」
「渥美課長の元部下だそうです。挨拶したいって云うんで」
鈴木との打ち合わせついでに連れてきた香坂が、そう囁いた。
「ふん。おい、香坂。ここ解りづらいな」
「そこの表現に迷ってるんですよ。それで鈴木さんにお知恵を」
「調子がいいな。お前は」
オール電化のシステムとあれば、導入の主導権を握るのはその家の主婦だ。より解りやすい表現でなければ、飛びついてこない。後は…。
「とりあえずは金額だな。どのくらい他のシステムより得なのか。実際はオール電化の場合は、余程こまめな人で無いと、あんまり差額は出ないんだよ。それよりも安全面と、ガスと変らない出力が望めるかどうか。『地球に優しい』は結構、受けるキャッチフレーズだぞ」
「やっぱり安全性と、環境に配慮で攻めるしかないんですね。俺、苦手なんですよ」
香坂の戸惑いは、鈴木にもよく解った。大抵の女性が重要視するそれを、男はあまり理解できない。故にそこを強調すると、どうしてもとってつけたようなものになってしまうのだ。
「そうだな、そこに嫁が住むと思って考えればどうだ?」
香坂は、つい先日、企画課の女性社員と結婚した。鈴木の言葉に、ちょっと香坂が考えこむ。
「ああ。うん。なんとなく、解かりました」
「じゃ、直して来い。午後まで待つぞ」
何事か思いついたらしい香坂が、立ち上がった。それを期に、鈴木もパソコンへと向かう。
香坂が直し終わるまでに、総務へのデータは送っておきたい。
「はい。鈴木さん」
打ち合わせが終わったのを見計らったらしい女子社員が、鈴木の下へと珈琲を置く。渥美の指示で、鈴木に入れられる珈琲は、牛乳たっぷりのカフェオレだ。
胃が半分しかない鈴木の健康に配慮したものになっている。
「ありがとう」
顔を上げると、渥美と視線が合った。
ちらりと鈴木を見た渥美は、にやりと自信たっぷりな笑みを浮かべる。それがまた嫌味なくらいに決まっていて、鈴木は思わず見とれそうな自分にため息を付いた。


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