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残り香<1> 

残り香ぺんイラ
                         イラスト提供 ぺんぺん草さま

【残り香】

身体の関係しか無い同僚、鮎川。だが、一之瀬はそんな関係に段々焦れてきて。

<2> <3> <4>完
<You are my Valentine> <その後編>


「一之瀬。起きろ」
掛けられる声は、結構冷たい。
「んぁ?」
俺は外の明るさに目をしばたたかせた。
「雪だ。俺は先に行くぞ」
「ええ~~~ッ」
鮎川の声に俺は飛び起きる。だが、その時既に鮎川のスリムな体躯は玄関を出て行くところで、開いたドアから冷たい風がワンルームの部屋を吹きぬけた。


「ひでぇ、つめてぇ、さみぃ……」
ホームでぶつぶつと呟いてる俺は、傍から見ればさぞかし変な人だっただろう。
だって、いくらなんでもひどいと思わねぇ? 雪降ってるのが判っていて置いていくなんて。
いや、夕べは確かに普段より寒かった。あまりに寒くて、俺は自分のアパートより会社に近い鮎川のアパートへ転がり込んだのだ。
お互いの体温を近くに感じて暖めあうのに相応しい夜。
そのまま、ひとつの布団に包まって朝を迎えることは、俺たちにとって日常だった。
だがこの東京で、雪が降るのを想定した服装で出掛けることは、まず無い。
冷たい鮎川に置いて行かれた俺は、昨日の服装のまんま、ネクタイとワイシャツだけを、勝手に借りて出社した。
田舎の祖母が送ってくると云う、鮎川の知的な細面の顔には絶対に似合わないであろうネクタイとワイシャツが、鮎川の家には常に数点ある。それを勝手に使っているのだ。

「おーす」
「はよっ」
「うわ、一之瀬。コートは?」
皆、不審な視線を向けてくる。当たり前だ。こんな朝にコートも無く現れれば、誰だって不審だろう。
「遅刻しそうで、飛び起きてきたら忘れました」
「おいおい、どうやって外回り行くんだよ?」
いつも組んでいる森本さんの目は『どーしよーもねーな、コイツ』と明らかに云っている。
「今日、何処かへ行く用事ありましたっけ?」
総務部の俺は、本来は外へ行く用事などはあまり無い。
「ハローワークの企業説明会。俺とお前で行くんじゃなかったかな?」
森本さんの言葉に俺は青くなった。しまった! 忘れてた。
「忘れてたな。お前」
その為に昨日残業して資料を揃えたと云うのに、俺は朝からの雪で、綺麗さっぱりその事実を記憶の外へ追いやっていた。
「一之瀬、使えよ」
俺の頭に、ばさりとコートが投げ掛けられる。
「鮎川。悪い」
「俺は外へ出るわけじゃ無いからな。昼は弁当頼めばいいし」
確かに、経理の鮎川はこんな時期には外出はしない。第一、今日は月初めの請求書の締め日だった。
「サンキュ」
礼を云った時には、鮎川は既に席へ戻り、眼鏡を神経質そうに直しながら、電卓を叩いていた。


ハローワークで開かれる就職ガイダンスは、年に数度行われる。
最近は、給料の額よりも、休みや厚生施設の有無を問われることが多いので、うちの様な中小企業にとっては、不利な状況だ。
説明会の後になると、ガイダンスの本番に向けて、どうやったら有利な状況を引き出せるかを、森本さんと検討する。
ある程度の検討を終えるとすっかり夜は更けていて、森本さんを先に帰らせた俺は、コーヒーカップを片付けようと立ち上がった。
給湯室に入ると、先客がコーヒーカップを片付けている。
「そこ、置いて。一緒に洗うから」
「サンキュ。そっち終わりか?」
「ああ。何とかな。新人に教えながらだとどうしても時間掛かる」
今年は高卒の新人が経理には入っている。途中入社だが、実践経験が無いので教えるのに苦労しているみたいだ。
「横で見てるだけというのも、キツイな」
「お前だったらすぐに終わるのになぁ」
「それじゃ、身に付かないだろうが」
鮎川は馬鹿?と云わんばかりに俺を見る。
へいへい。俺はどうせ、頭が悪いですよ。



「帰るぞ」
鮎川は手に合鍵を持っていた。今日は営業は直帰ばかりで、最後に残ったのは俺たちだけだ。
「へいへい」
俺は先に外へ出る。雪は止んでいたが、コートを脱ぐと風が刺すように冷たい。
ところが、外へ出てきた鮎川は、きちんと明るい紺のロングコートを着込んでいる。
「お前、何で脱いでるの? 寒いのに」
「だって、これお前のじゃねーの?」
「ああ、いつもの祖母が送ってきた奴だよ」
確かに、黒いロングコートは、鮎川にはちょっと似合わない。
「趣味は悪く無いけど、ちょっとずれてるよな。お前のばーちゃん」
「多分、父に買っていたのと同じものを送って来るんだと思うが」
コートを着込んで、並んで歩き出した。
「飯は? どっかで食うか?」
「そうだな。久我山はどうだ?」
久我山というのはおばちゃんが一人でやってる定食屋だ。ジャンボメンチカツ定食が500円と云う、俺たちみたいな安月給のサラリーマンにはありがたい店でもある。
私鉄の駅に近く、そこからだと鮎川の家には私鉄一本で帰ることが出来る。久我山を選んだ時点で俺は半ば、今日も鮎川の家に泊まる気になっていた。



久我山で熱燗片手に食事を済ませ、俺と鮎川はそのまま鮎川のアパートへ向かう。
扉を開けた鮎川の後をついて部屋へ入った。
入り口のスイッチを押し、明かりを点ける。
「鮎……」
俺はそのまま後ろから鮎川を抱きしめた。
「今日もかよ?」
鮎川が呆れたように呟くが、俺の腕を振りほどく訳では無い。
「駄目か?」
「勝手にしろ」
聞く俺に応える声は、呆れかえった響きがある。
俺はそのまま、朝、片付けることを忘れた布団へ鮎川の身体を押し倒していった。



荒い息。汗ばんだ躯。
ぐったりと俺は鮎川に覆いかぶさっていた躯を離す。
鮎川の上気した肌がいつもの冷たい感じとは違って、壮絶に色っぽい。
「お前、明日は帰れ」
「ちぇッ、終わった途端に冷たいんだな」
枕元の眼鏡をかけると、鮎川は髪をかきあげた。普段は社会人らしくきちんとセットされている髪が、激しい行為の所為でひどく乱れている。
目の悪い鮎川は、ワンルームの浴室までの距離でも、眼鏡が無ければ心もとないらしい。
立ち上がるとさっさとシャワーを使いに行った。


鮎川と俺の関係はそろそろ3年になる。
最初は同期の友人として、愚痴の言い合いや、週末の酒盛りを楽しんでいた。時には一緒に合コンに行ったり。
そんな俺たちの関係が変わったのは、俺が数年付き合っていた彼女と別れた時だ。
30前で、そろそろ結婚を考えていた相手だ。珍しくやけになって呑みまくった。べろべろだったし、おそらくひどい絡み酒だったという自覚はある。
だが、夜が明けると、俺が抱きしめて眠っていたのは鮎川だった。
目が覚めたとき、相手が鮎川だったことに驚きはしたが、不思議と嫌悪は無かった。
それから、ずっと続いている。
恋人では無いだろう。鮎川は俺が好きじゃ無い。単なる情と云うのが一番正しいと思う。
だが俺は、そろそろそれでは物足りなくなってきているのは確かだ。
でも、決定の権限は俺では無く、鮎川が握っていた。


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