スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
*Edit TB(-) | CO(-) 


転げ落ちた後で<7> 

昼休みの質問攻めも、仕事も手は抜かない。
その一方で、どうやったら、週末に渥美を誘い出せるかを、風見は考えていた。
「渥美課長、ちょっといいですか?」
「おう。風見、お前最近頑張ってるそうじゃないか」
「はい!」
渥美はどうやら、機嫌が良さそうだ。こうさせたのが、自分だと思うと、気分がいい。
「近藤課長が褒めていたぞ。俺の仕込がいいってな」
「もちろんです! もっと頑張ります!」
嬉しくて、満面の笑顔でうなずいた。
女たちが、カッコいいけど、子供みたいで可愛いと云う表情だ。
「ところで、何だ?」
「渥美課長。週末、付き合っていただきたいんですが。確か、テニスお得意でしたよね?」
「ああ。身体が動くかどうか解らんが」
渥美はこう見えて、結構スポーツマンである。学生時代にテニス同好会に入っていたと、風見は聞いていた。
「週末にテニスの試合があるんです。と云っても、俺の通ってるスポーツクラブの連中が集まってるだけなんですけど。俺とダブルス組んでた奴が、先月から海外赴任しちゃって。俺もカン狂ってきちゃってるんですよ。で、ちょっと相手してくれないか、と」
「何だ。同じクラブの連中はいないのか? 俺みたいなオヤジ誘わなくても」
「半ば遊びみたいなものなんで、組む相手は、みんな決まっちゃってるんですよ。お願いします! 次の相手見つけるまででいいんです!」
風見は大げさに頭を下げる。女を誘う訳ではないから、映画とか食事などと云う手は使えない。頭を絞った結果がこれだった。
海外赴任した仲間がいるのも、そいつとダブルスを組んでいたのも、嘘では無い。
ただ、いつもダブルスを組んでいた訳ではないが。
「仕方が無い。週末、土曜か? 場所は何処だ?」
「ありがとうございますッ!」
引き受けてくれた渥美に、風見は抱きついて感謝の意を示す。
「おい、子供じゃないんだぞ」
「へへ」
風見の頭を、渥美は軽く拳で叩くと、いたずらっこのようにぺろりと舌を出した。
これも、女を落とすときに良く使う仕草だ。
畳み掛けるように、日時と場所を伝える。断る隙を与えない為だ。
「楽しみにしてます!」
極上の笑顔で付け足すのも忘れない。とにかく、平日は鈴木が一緒だ。鈴木のいない場所で会わなければ意味が無かった。


「週末?」
「ああ。緑地公園のテニス場。お前、どうする?」
渥美のマンションのベッドの上。気だるげな仕草で髪をかきあげた女王様に、渥美は冷たいスポーツドリンクを差し出した。ミニのペットボトルだ。一気に飲み干すとさらされた喉元がごくりと動く。
渥美はそれに口付けを落として、鈴木の手からペットボトルを取り上げた。
「またやったら、同じだろう?」
ベッドで一汗かいた後に、シャワーを浴びて、冷たいドリンクで一息ついたところだ。
「ちょっと色っぽかった。味見だ」
「まったく」
何でもかんでも色っぽいとか、可愛いとかに変換されるらしい。変った男だ。十数年前の綺麗な鈴木ならばともかく、今の鈴木にそういうことを云うのは、目の前の男だけだ。
「で、どうする?」
「週末か? 本でも読んでるよ。俺、暑いの苦手」
「寮には帰るなよ。ちゃんと日曜には送るから」
「金曜の夜に、送ってくれればいいだろう?」
週末に、風見にテニスに誘われていると云うと、いつも通りのあっさりとした返事が返ってくる。
それならば、夜だけでも一緒に過ごしたいという渥美の気持ちなど、お構いなしだ。
大体、独身寮になど帰したら、出て来ないことは確定だ。女王様は、究極の面倒くさがり屋である。
かといって、毎週、独身寮に上司が迎えになど行ける訳が無い。金曜の夜にお持ち帰りするのが一番なのだ。
どうせ寝ているだけなのだから、社員寮の硬いベッドより、渥美のマンションのクッションの効いたダブルベッドの方がいいに決まっている。
ぐるぐるとそんな埒も無いことが頭を巡り、どうやって説得しようかと考えていると、鈴木がクスリと笑った。
「仕方ないな。いてやるから、楽しんで来い」
そして、鈴木が触れるだけのキスを渥美に贈ってくれる。
それだけで有頂天になれる自分を、渥美は安上がりだと思いながらも、鈴木が珍しく自分からしてくれたキスの味を噛み締めていた。

週末のテニスコートに現れた渥美に、隣のコートの奥さん連中までもが、色めき立つ。
高級国産車から降り立った渥美は、すらりとした体躯を無造作にトレーニングウェアに包んで、にっこりと風見に微笑む。
風見は、そのあまりのカッコよさにボーっと見とれてしまった。
「おはよう、風見」
あまりにボーっとしていたのが不審だったのか、覗き込むように挨拶をされる。
「あ、渥美課長! お、おはようございます!」
はっとして、ベンチから勢い良く立ち上がる姿が、まるでばね仕掛けの人形のようで、渥美は思わず笑いを誘われた。
「休日なんだから、もっと楽にしていいぞ。そんなに緊張するなら、上司なんか誘うんじゃ無い」
「いえ、あんまりカッコいいんで見とれてただけです…」
素直に思ったままを口にする。これも、女には有効だが、渥美にはどうだろうか。
――――でも、ホントにカッコいいよなぁ。渥美課長。
男らしくて、仕事が出来て、カッコよくて、最高の男前だ。
――――うん、やっぱり、あんな男には、渥美課長はもったいない!
鈴木の痩せて不健康そうな顔を思い浮かべて、風見はやはり作戦実行を決意した。


NEXT

BL小説ランキング
FC2 Blog Ranking

スポンサーサイト
*Edit TB(-) | CO(-) 


Back      Next

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。