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転げ落ちた後で<8> 

「ね、もう一軒行きましょうよ。いいバーがあるんですよ」
テニスの後に呑みに行くのに、否応無しに巻き込んで、まず一軒。それから、もう一軒、渥美の好きそうなタイプのスタンドバー。
だが、渥美が酔う様子はまるでない。
車であることを考えて、呑んでいないのかと疑ったが、渥美はキツイショートカクテルを幾杯も重ねている。
「いい店を知ってるな。酒もいい」
「でしょ? ここは誰にも教えてないんです。渥美課長が始めてですよ」
こっそりと囁かれたそれに、渥美がクスリと笑った。
「そういう台詞はいい女に囁かれたいもんだな」
「え~、俺じゃ駄目ですか?」
低い声で、カクテルを傾けて、スタンドバーのテーブルに肘をつく姿は、さすがに元モデルと云う噂が出るのもうなずけるほどにキマっている。
思わず、風見も見とれてしまった。
「お前こそ、女でも連れて来い」
「ここは女には教えてないです。渥美課長にしか」
まっすぐに瞳を覗き込む。渥美がふっと微笑んだ。
「まったく、俺相手にタラシのテクニックを披露しても何も出ないぞ?」
風見の精一杯のアタックは、年の功でするりとかわされる。風見は頬を膨らませた。
「本気なのに」
「そうなのか? じゃあ、本気で考えてみよう」
さりげなく、ではあるが、告白を受け止めてくれたことに、風見はびっくりして瞳を見開いた。
「え? あの、渥美課長?」
「本気なんだろう? 考えてみるさ。返事は今度でいいか?」
隣の客に聞こえないように小声で、だがはっきりと云われて、風見はかぁっと頭に血が上るのを感じる。
「本当に?」
「ああ。嘘は云わん」
風見の疑わしそうな視線をまっすぐに受け止めて、渥美が囁いた。ますます、風見は自分が真っ赤になっていくのを自覚する。
渥美の方が、余程タラシだ。
誤魔化すように、手の中の酒を煽る。アルコール度数の高い液体が喉を焼いた。
「おい、悪酔いするぞ」
腕に置かれた手が冷たい。それが心地良かった。
覗き込んでくる渥美の、品の良い甘さの無い顔が自分を見ているだけで、浮かれるのが分かる。
やっぱり、あんな男には勿体無い。
男ならば、せめて自分ぐらいのルックスじゃなければ、渥美の隣には相応しくない。そう、風見はほくそ笑んで、その腕に寄りかかった。
「酔ったのか?」
「少し」
甘えるような上目使い。
「じゃ、足に来ないうちに帰ろう。送るぞ」
だが、渥美はにっこりと笑って、腕を取った。肩透かしを食らった風見は、呆けた顔で見上げてしまう。
――――そこは、何処か行こうか? とか云うもんじゃ無いの?
告白した相手に対して、本当に考える気があるのかと思ってしまう素っ気無さだ。
「アパートでいいな?」
タクシー乗り場に向かって歩く。支えてくれる腕は優しいが、有無を云わせない雰囲気があった。
せっかく二人きりになれたと云うのに、このまま帰らされては堪らない。平日になれば、また鈴木が渥美とべったりくっ付いている。
風見は態と足の力を抜いた。
いい加減に酔っ払っているので、それだけで本当に足がふらつく。
「大丈夫か?」
「はい…」
身体を渥美に持たせかけ、一緒にタクシーに乗り込んだ。
そのまま、睡魔に身を任せる。これで、渥美は自分の家か、風見のアパートに送ってくれるかしかない。
そんなことを考えているうちに、風見は本当に眠り込んでしまった。


自分の身体が揺れているのに気付いて、覚醒を促された。
目を開けると、コンクリートの地面が揺れている。広い背中に担がれているらしい。
門を開けられ、ドアの前に立つ。
エントランス付きのマンション。多分、かなりの金額だろう。
どうやら渥美は風見のアパートでは無く、自分のマンションへ連れてきてくれたらしい。
風見は踊りだしたい気分だった。
ソファへと身体を下ろされる。
「渥美、課長?」
「目が覚めたか? 酔っ払い」
ぼーっとした定まらない焦点のまま、渥美を見上げる。女を色っぽいと思う時の顔だ。
「ほら」
だが、渥美にはどうやら色っぽいと思ってはもらえなかったらしい。素っ気無く水の入ったコップを手渡された。
こくりと一口飲む。喉元を見せ付けるようにゆっくりと飲み干したが、それでも渥美が動く様子は無かった。
「泊まっていくだろう?」
「はい」
頬を染めてうつむいてみせるが、渥美の反応はココでも余り無い。
「ベッド作るから退いてくれ。立てるか?」
どうやら、風見が座らされたのはソファベッドのようだ。
立ち上がるときにちょっとよろめいてみせると、渥美の腕がさっと支えてくれる。
切なげに眉を寄せ、渥美の首に腕を廻して、キスを強請った。
その風見の後頭部を、ぱこんと音がする程、殴られる。
「え?」
いきなりの衝撃に振り返った。
そこには、雑誌を手にした男が立っている。
手の中にある丸めた雑誌で殴られたのだと、推察は付いた。
「俺の男に手ぇ出してんじゃねぇよ」
「あんたの、男?」
渥美が、ニヤリと笑う。
「何だ、義彦。少しは妬いてくれたのか?」
「妬かせる為に連れてきたとか云ったら、只じゃ置かないぜ?」
目の前で繰り広げられる痴話喧嘩に、風見は渥美の首にしがみついていた腕を外した。
「ま、そんな器用な性質じゃねーか。懐かれて仕方なく連れ込んだんだろ?」
スレンダーなボディに陰影の目立つ鋭い顔つき。態と剃っていないのだろう、顎には薄く無精髭かある。切れ長の目で睨まれて、慌てて居住まいを正した。
「酔いが冷めてからにしようと思ったんだが、今のほうが良さそうだ」
渥美が云うのが、告白の返事だと判った。
「つまり、駄目ってことですね?」
「悪いな。風見」
諦めたようにため息を吐いた風見の横から、もう一人の男が声を掛ける。
聞き覚えのある声に、風見はようやく相手が鈴木だと気付いた。
いつもの顔を隠すようなメガネが無いだけで、随分と切れ長の瞳に見える。
「どうした?」
「いえ」
部屋着だか、寝間着だか分からないスウェットは、鈴木の痩せた身体にぴったりとフィットしていて、ここに鈴木がいつもいることを示していた。
「帰ります」
入り込む隙なんか無いんだと、今更ながらに思い知らされる。
「え? おい、風見」
止める渥美の声を無視して外へ出る。そのまま、ずるずるとエントランスに座り込んだ。
「あんなの卑怯だ」
『俺の男』と云われた時の、渥美の幸せそうな顔。
あれを見たら、誰も割り込めない。割り込める筈なんか無い。

しばらくの間、膝を抱えていた風見がおもむろに立ち上がった。
エントランスに座り込んでいた為に、ついたほこりを払う。
そのまま、エレベーターへ向かって歩き出した。


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