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転げ落ちた後で<9>完 

高層階に位置する渥美の部屋からは、マンションの入り口が良く見える。
肩を落として歩いていく風見の背中は寂しそうな気配を色濃く漂わせていた。
「いいのか?」
見下ろしてた渥美が、カーテンを閉めたのを見て、鈴木が眉を寄せる。
「何が?」
「可愛かったんだろ?」
「確かにな。アイツがああいうつもりで追いかけてきたとは思わなかったし」
一心に慕ってくれる可愛い部下。
『一緒に仕事がしたいんです』
そう云った、真っ直ぐな瞳。それを好ましいと思わなかった訳では無い。
「正直、妬けるな」
「え?」
聞いた言葉が信じられなくて、渥美は呆けた表情で鈴木を見返してしまった。
「俺には出来ない真似だ」
くすくすと笑って、鈴木は渥美の首に腕を廻す。
その表情には、口で云う程の焦りや嫉妬の影は見えなかったが、誘われるままに、渥美はその細い身体を抱き締めて口付けた。
幼い頃から仕えるものがいる生活に慣れている女王様は、何事においても怠惰な方だ。こんなに積極的に出てくれる機会を逃す馬鹿はいない。
「ん…ッ」
絶え入るような喘ぎが鈴木の口元から漏れた。
そのまま、口付けを深くする。絡んだ舌が熱い。渥美は熱くなるままに、鈴木へと覆いかぶさる。
細い腕が、それでも男の力強さを備えて、渥美の背を抱いた。
冷え性の鈴木のために用意した、肌触りのいいスウェットをたくし上げる。
肌に舌を這わせると、鈴木が身悶えた。
「感じるか?」
「当たり前のこと、聞いてんじゃねーって」
感情を隠そうとするとき、口が悪くなるのは、女王様の癖だ。
濡れた瞳が渥美を見上げる。
どうしようもなく、高まる自分を感じて、渥美の理性は焼き切れた。


自棄酒を煽り、玄関先でごろりと横になっていた風見は、インターフォンの音にのろのろと顔を上げた。
昨夜、コンビニで山のように酒を買い込み、靴を脱ぐのも面倒で、玄関先でひたすら酒を煽る。
あんな奴が、渥美の隣に相応しくないからだと思っていた。
あんな奴より、俺の方が相応しいという自負だと感じていた。
だけど、違う。
こんなにフラれて落ち込んでるだなんて。風見は、自分の気持ちを持て余して酒に逃げ込んだのだ。
もっと、自分は要領がいい男だと思っていた。いい男より、安心できる楽しい男を演じてきたし、皆に可愛がられてきた。
渥美も可愛がってくれた。
それでも――――。

もう一度、ドアフォンが鳴る。

「面倒くせえ」
早く出て、さっさと追い返そうと身体を起こした。

「よお。風見」
無言でドアを開くと、そこにいたのは、ぼざぼざの短髪と大き目のメガネと無精髭に覆われて、あまり人相の解らない何時も通りの鈴木がそこにいた。
「入ってもいいか?」
聞いてはいるものの、鈴木の身体は、半ば玄関へと踏み込んでいる。
「何だよ? 喧嘩でも売りに来たのかよ?」
腕を組んで、そんな虚勢を張ってみるが、いい加減酔っ払って、身体を支えるのもキツかった。
「まぁ、そうかな」
だが、鈴木に余裕で受け流されて、本気でムッとしてしまう。
「可愛いわんこちゃんと、オジサンはちょっとオハナシアイがしたいんでございますが、どうでしょうかね?」
「あんた、俺を馬鹿にしてんのか? 何がオジサンだ」
「まぁまぁ。若い子は威勢がいいねぇ」
まるで、何処かのエロオヤジのような言い草に、何がしたいんだと風見はいぶかしがった。
勝った鈴木が、風見に何の話があると云うのだろう。
「そう怖い顔で睨みつけるなよ」
後ろ手にドアを閉め、メガネを外した鈴木は、その切れ長の瞳があらわになっただけで印象が違う。男っぽい硬質な感じの鋭い顔。それなりにいい男で通るだろう。但し、身なりを、もう少し構えば、という注釈付だ。
「わんこちゃんは納得しないんだろう? 俺もこんなことで営業のホープに辞めてもらっても困るんでな」
一応、引止めに来たらしい。だが。
「わんこちゃんって、俺のことか?」
「ああ。お前、可愛いからな。なんとなく、わんこって感じじゃねぇ?」
鈴木の軽口を頭の上に、風見は玄関のフローリングにそのまま座り込む。
「辞めないっすよ。馬鹿馬鹿しい。失恋くらいで辞めてたまるかってんだ! それでいいでしょ?」
さっさと帰って欲しくて、まくし立てた。
「でも、納得は出来ないだろ?」
「出来なくても、渥美課長はアンタがいいんだから、仕方無いだろ!」
ふて腐れたようにごろりと横になった風見の瞳から、また涙が溢れる。
「質問は受け付けるぞ」
ドアへもたれた鈴木の態度は、何処か偉そうだ。渥美は確か女王陛下と呼んでいた。
「何処で知り合ったんだ?」
ホントに何処がいいんだ? こんな奴。
「大学の研究室。使いでのあるいい助手だった」
「渥美課長より、年上?」
「ああ。俺の方が4つ上だ」
しかも、年上。もうじじいじゃん。40過ぎだぜ?
「付き合う切っ掛けは?」
「この会社に来てからだな。何処がいいのか解らんが、一方的に迫り倒されたんで、付き合ってやる事にした」
ケッ、付き合ってやる? どうよ、この上から目線!
心の中で文句を並べながらも、風見は気付いていた。渥美のことを話す、鈴木の目は何処か優しい色をしている。
二人とも、何処かで通じ合っているのだと悔しかった。
どんな答えづらい質問も、軽い答えが帰ってくる。
それは二人の間を軽く見ている訳では無くて、淡々と日常の当たり前のことを話しているだけだからだ。
「おい、わんこ?」
遠くに鈴木の声を聞きながら、風見はいつしか眠りに引き込まれていた。


<おわり>

「転がり込んだ胸に」

これにて風見の失恋物語は終了です(笑
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