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トリックオアトリート<身勝手な男編> 

トリックオアトリート
「身勝手な男」


「トリックオアトリート!」
古い日本家屋のドアを開けると、ガキどもが期待に目を輝かせて立っていた。
「は?」
俺はドアを押さえたままの姿勢で固まる。
ここの住人は、現在仕事の後の汗を流している最中だ。
「佐伯、すまん。冷蔵庫にクッキーが入ってる」
どうやら、俺の戸惑いは、しっかりと玄関脇に位置するシャワールームの中まで聞こえたらしい。それとも聞こえたのは、ガキどものデカイ声の方か。

冷蔵庫を開けると、珍しく俺の買って来た以外の食べ物が、綺麗にラッピングされて並んでいた。
こんな光景は、俺がこの家に出入りするようになって数年。初めてお目にかかる。
ラッピングの中身は、コンビニなどで目にするような、クッキーの詰め合わせセットだ。
「ひとり、一個だぞ。食べ過ぎんなよ。暗いんだから、早く家に帰れ」
シャワールームのドアを半分だけ開けて、久世が顔を出した。
童顔系の顔だが、逞しく鍛えられた筋肉質の身体が厳つい印象をかもし出している。
数年前にようやく手に入れた恋人だ。
びしょびしょになった短い髪をかき上げながら、そう子供たちに云い付ける。
「はぁ~い」
「うん、先生!」
口々に子供たちが元気のいい答えが返ったが、その中で一人だけ、返事をしない子がいるのが俺の興味をそそった。
だが、久世を嫌っている風ではない。むしろ、一番久世が顔を出したときに、顔を輝かせた女の子だ。
先生と呼ぶからには、久世の通う柔道場で、久世に教わっている子供たちに違いないが、ごついタイプである久世が、こんなに子供に懐かれているとは信じ難い。

「ねー、隆大センセ。この人が隆大センセの恋人?」
一番、目を輝かせていた子が、そう切り出して、俺のクッキーを渡していた手が、ぴたりと止まった。
「ああ、歩美。そうだ。俺は、嘘は吐いてないだろう?」
簡単にうなずいた久世に、俺の方が慌てた。普段、そういうことを簡単に云ってくれる男ではない。
「ホントだ。綺麗な人だねー」
「歩美の彼氏よりカッコいいだろう?」
ふふんと鼻をならして自慢をする姿など、誰が想像しただろう。俺は天にも昇る心地だった。
久世は、親しい人間には意図的な嘘は吐かない方だ。俺たちの関係もバレたらバレたときだと開き直っている感がある。
「え~、うっそだー。こんなにカッコいい人が、先生の彼氏の訳無いよー」
「お前ら、俺に対する評価が低いぞ」
子供たちと本気で云い合いを繰り返す久世は、今にもシャワールームから出てきそうだ。
例え、子供相手だろうが、久世の身体なんぞ見せたい訳が無い。
俺は、全員にさっさとクッキーを配ると、シャワールームから上半身を出した久世にバスタオルを渡し、ドアをぴたりと閉じた。
「上がるなら、ちゃんと拭いて、服着て出て来い」
背中でドアを押さえた俺は、改めてガキどもに向き直る。
「俺が久世の恋人だ。何か文句でもあるか?」
ドスを効かせてガキどもを睥睨した。
腕組みをして、玄関先で子供相手に睨みを利かせる姿は、情け無いのひと言に尽きるのだが、それでも久世が彼氏だと云ってくれた機会を逃す気は無い。
「オジサン、大人げないって云われない?」
歩美と呼ばれた子供が、大人びた仕草で首を傾げる。
「お前の可愛げの無さには負けるがな」
「子供相手に威張るな。お前は」
ガチャリとシャワールームのドアが開き、出てきた久世に後頭部を殴られた。
「ほらほら、もう好奇心は満たしただろう。早く帰れよ。お家の人が心配する」
「え~」
口々に抗議をいれるガキどもを、久世はうまくいなして、さっさとドアを閉める。

ぞろぞろと帰っていく気配が、普段は静かな路地裏に響いた。

「女の子はあの年でもマセてるからな。『先生のカレシ、歩美のカレよりカッコいい?』だと」
「なるほどね」
それを確かめに来た訳か。
「今年は、駅前の学習塾でハロウィンをやってて、参加する家を募っていたからな。あそこは、ほとんどの道場の子達が通っているんだ」
「ああ。それで」
ということは、来年も再来年もこの日はこの状態だってことだ。
「で、お前、何て答えたワケ?」
あの子は『ホントに綺麗』って云ってたぞ?
「カッコいいって云うより、綺麗だなって」
云った途端に、久世の顔が真っ赤に染まった。
俺は男の常で、この綺麗と称される顔が嫌いだったのだが、久世に云われる綺麗は嫌いじゃない。
現金なことだがな。
「なぁ。いいか?」
半ば、押し倒しかけた体制で問う。
開きかける口を、自分の口で塞いだ。
そのまま、口腔をじっくりと味わっていると、久世が首を振って俺から逃れる。
「ちょ、待てって…」
「男がこうなったら止まらないのは、お前だって承知だろう?」
そのまんま、玄関で攻防を繰り返していると、ドアホンが間抜けな音を立てた。

「トリックオアトリート!」

さっきとは違うガキどもの声が、商店街の路地裏に響く。
「もしかして、他にもいるのか?」
「当たり前だ。近所のガキどもが全員参加だぞ」
そう云えば、冷蔵庫には山のようなクッキーがあった。あれで終わりな筈は無かったのだ。
俺はため息を吐いて、久世の上から渋々退いた。

「トリックオアトリート!」
声を揃えて、外のガキが叫ぶのが聞こえる。
あられもない姿でドアへ向かう恋人を襖の向こうへと追いやり、俺はドアへと向かった。
どうやら、今日はこれが片付かなければ、何もさせてはもらえないだろう。
ちょっとだけ、御近所付き合いの理不尽さを呪いながら、俺はクッキーを片手にドアを開いた。


<おわり>


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~ Comment ~

Re: タイトルなし

商店街のよくあるイベントのひとつとして考えてみました。
アタシも貰いに行きたいかも
[2009/11/02 22:29] 真名あきら [ 編集 ]

Re: ぶはっ・・・・・・・・

わははは。嬉しい筈が、寸止めなのはお約束です。
まぁ、佐伯にあまりいい思いばっかりされても・・・。
告白ありがとうございます!
[2009/11/02 22:28] 真名あきら [ 編集 ]

久々に覗いたらSSが!読めてラッキー☆
私もお菓子を貰いに行きたいーッ

ぶはっ・・・・・・・・

おひさすぃぶりです!!!
ギャーーーー~~www
こうでなくちゃ!
嬉しさのあまり、衝動で突っ走りたいところを、おこちゃまの無邪気な声で寸止めw
やっばい!あっまい!!大好きだ!!(告白
でわ。また!!
[2009/11/01 19:02] *UTAKATA* 松谷 螢 [ 編集 ]

Re: うおお!

東京の片隅の下町のちっちゃな商店街で暮らす、ゲイカップルのフツーの日常。
こういうのが幸せの形だと思うんですよ。
[2009/11/01 11:44] 真名あきら [ 編集 ]

うおお!

大好きな「身勝手な男達」!
ssが読めて幸せです~。
久世さんに恋人だと言ってもらえて嬉しい
気持ちがなんとも言えない。
やや淡々としつつ、甘ーいこのカップル、
読んでいて心地いいのです。
またこの2人に会いたいなあ・・・!
[2009/11/01 07:43] るか [ 編集 ]















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