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番犬の憂鬱<5> 

「で、どうする?」
聞かれて、首を捻った。
何が、どうする?
「もう寝るが、お前にベッドを譲り渡して、俺が真幸と寝るか。それともお前が真幸と寝るかって話だ。生憎、ウチにはそれ以外の寝具は無い」
ベッドはこの人のなんだから、譲り渡すも何も無いと思うんだが。
「もっとも、俺も酒呑んだ真幸と寝て、一晩何もしない保障は無いが」
「俺が課長と一緒に寝ます!」
反射的にそう云っていた。
何で?と自分に問い掛けても上手く答えは出ないんだが、とにかくこの人と課長を一緒に寝かせるなんて嫌だった。セックスなんて、もっての他だ。
この人が課長の恋人でも何でも無いなら、余計に。
「はいはい。じゃ、服は脱いで寝ろよ。俺の服を貸してやってもいいが、お前じゃ横はともかく縦が足りん」
そりゃそうだろう。姿勢が良いので気付かなかったが、意外と身長は低い。まぁ、それは俺や課長に比べてという意味で、日本人男性の平均身長はちゃんとクリアしてはいるが。
ヒロさんが、さっさとベッドへと潜り込むのに、俺も右に倣った。


目が覚めると、課長のどアップが目の前にある。
俺はびっくりして飛び起きた。
いや、飛び起きようとして果たせなかった。
何故なら、俺の胸の上には課長の柔らかい髪が掛かっていた。腕枕ならぬ、身体枕状態。
課長の顔は今にもくっつきそうな勢いだ。
メガネを外した課長は、長い睫が目の下にくっきりと影を落して、目元に泣きボクロがある。
俺は、それに触れてみたくて、そっと指を伸ばした。
「おい、目ぇ覚めたか?」
がらりと開いた襖に、俺は手を伸ばしたまま固まる。
その俺を見て、いきなりヒロさんが噴出した。
次いで、ゲラゲラと笑い出す。
「それじゃ、起きられない訳だな」
ひとしきり笑ったヒロさんは、俺にもたれかかった課長の頭をひょいと退けた。
俺は安心して身体を起こす。
「いい身体してるな。スポーツは何を?」
「自転車です。ロードレースの方で」
言い添えたのは、自転車をやっていると云うと、すぐに競輪を想像されるからだ。
「道理でな。とりあえず、起きろ。寝汚い真幸に付き合っていると、すぐに昼になっちまうぜ」
身を翻して、襖を綺麗に閉める。
俺は、今まで身体の上にあった頭の重さが無くなったことを惜しむように、しばらく横に並んだ課長のそれを眺めていたが、そんなことをしていても仕方が無いと、もぞもぞと服を着替えて起き上がった。


シャワーを借りて、居間へと顔を出すと、焦げ臭い匂いが鼻をつく。
「すまんな、こんなモンしか無ぇ」
目の前には、トーストと、ベーコンの焦げた目玉焼きがのった皿があった。成程、料理は苦手と見た。
「あの、良ければ、台所と材料をお借りしても?」
無料で泊めてくれたんだ。やっぱり、それなりの礼はいるだろう。
「まぁ、使ってくれても良いが、ロクなモンは無いと思うぞ」
「ありがとうございます」
そんなことは百も承知だ。男やもめの一人暮らしで、野菜や肉が揃っている訳が無い。少なくとも大学や予備校時代の友人にはそんな奴は一人としていなかった。
揃ってたら、まず、女がいると見て間違いない。
ただ、ベーコンと卵を出してくれたということは、それはある訳だ。後は何か野菜の切れ端でもあれば…。
と思っていると、昨日の残りらしい野菜サラダがあった。
「ヒロさん、このサラダは使ってもいいですか?」
「ああ。昨日、飯の途中で呼び出されちまって。残り物はあるはずだぞ」
確かに、惣菜の袋とベーコン。野菜サラダに、缶詰のコーンとツナ。後はビールだけ。
パンがあるのが奇跡だ。
俺は、野菜サラダとコーンを鍋に入れ、牛乳と塩コショウで味を調えた。
焦げたベーコンを細かく刻んで入れる。
惣菜の残りはかき揚とメンチカツ。それを冷蔵庫でくったりしたそれをカリカリに焼いて、皿にのせた。横には目玉焼きと新たな卵とツナで、厚焼き玉子を作る。
サラダ油なんて気の利いたものは無かったので、バター焼きだ。
トーストを半焼きにして、バターを塗ってから、もう一度焼く。こうすると、口の中にバターがじょわっと広がるジューシーなトーストが出来る。
その間に、ヒロさんが見事な手付きでコーヒーを煎れてくれた。香り高いという奴?
昨日も御馳走になったが、これは美味かった。
「何か、すげぇいい匂いすんだけど?」
襖の開く音で、課長が起きだしてきたらしいと、振り向いた俺は、またしても固まった。
「お前、何か着て来いっつーんだよ」
「え~、シャワー浴びるのに、面倒くせぇ」
ヒロさんがあきれ返った声を上げる。そう、課長は素っ裸だったのだ。
「ほら、何か出しといてやるから、とっととシャワー浴びて来い!」
ヒロさんの手が、音がするくらいに課長の白い尻を叩く。
「Hくせぇ」
「毎度、迷惑掛けといて、云う台詞はそれか!」
「何なら、お礼Hでもいいけど?」
課長が色っぽく流し目を送った。シャワールームの開いたドアにしなだれかかって、腕と足を絡ませている。
俺は、朝の挨拶もしないで、その姿に釘付けだ。
「お礼なら、俺を抱いてくれよ」
そのドアに手をついて、誘うようにヒロさんが課長の顔をのぞき見る。
「それは俺も遠慮したいかなー?」
「だったら、くだらないこと云ってないで、さっさとシャワー済ませて来い。せっかくの上総のメシ、俺が全部食っちまうぜ?」
「え? そうなのか? 道理で美味そうだと思ったぞ」
俺を見た課長の顔は、一瞬のうちに仕事中の切れ者の顔になった。
俺は壊れた人形みたいに、カクカクと首を振るしかない。
続いてのシャワーの音で、俺はようやく現実に戻ることが出来た。


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