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番犬の憂鬱<6> 

「うん。美味い。お前料理上手だな」
「うちは、母が働いているんで、料理は俺の当番だったんです」
ガツガツとまるで欠食児童のように、朝飯を掻き込む二人の男に、俺は半ば呆れ、半ば感心していた。
「まだ、学生バイトなんだって?」
「ああ。うちの社で雇ってるメッセンジャーだよ」
「ふーん。気が利くなぁ。うちの新人に見習わせたいくらいだぜ」
「そっち、最近どうだ?」
「総務はなぁ。気が利かないと何とも」
ヒロさんが、コーヒーを一口含んだ。やっと落ち着いたらしい。
「お前、今年主任だっけ?」
「女ばっかりだからなぁ。男みたいに怒鳴りつける訳にもいかんし」
「苦労してそうだな」
その目の前で、しゃべり続けながら、宮川課長が俺にちらちらと目線を送っていた。目の前の料理は無くなったが、依然、箸を置く様子が無い。
「ヒロさん、パン、もう一枚頂いてもいいですか?」
「ああ。構わん」
期待が篭もった視線で見られると、ただ、焼いただけでは駄目だろうと、フレンチトーストにした。幸い必要なものは揃っていたのだ。
俺が皿を置くと、待ちかねた宮川課長は、まるで子供のような顔でフレンチトーストにかぶりつく。
ヒロさんと、俺はそっと目配せをして、同時にため息を吐いた。
仕事が出来るカッコいい年上の男のイメージは、昨日から狂いっぱなしだ。
ゲイで、色っぽくて、酒癖が悪くて、節操が薄そうで、大食らい。
でも、きっとどっちも、本当の宮川課長なんだろう。
フレンチトーストを頬張る課長を、俺はじっと見つめてしまった。
「どうかしたか?」
いきなり、じっと視線を向けられて、俺はどきっと心臓が跳ね上がるのを感じる。
「いえ、美味そうに食うなぁと」
「美味いぜ? お前、ホントに料理美味いな」
まぁ、小学校の頃から、オフクロの代わりに作っているから、大抵のことはこなせる自信はあった。でも、そう美味そうにしてもらえると、嬉しいもんだ。弟たちなんか、当たり前って顔だしな。
「毎週でも食いたい味だ」
「毎週作ってもいいですが…」
にっこりと笑って云われた言葉に、俺は素直にそう答える。いや、こんなに美味そうに食ってくれるんなら、ホントに作ってもいい。
「あははは。冗談だよ。さすがにそれは不味いだろう?」
声を立てて、思いっきり笑う、宮川課長の晴れやかな顔に、俺は軽いジョークだったことを悟り、がっかりして肩を落とした。

軽い電子音に、俺は顔を上げる。
あれ、携帯何処に仕舞ったかな?
ごそごそと胸やポケットを探る仕草をしていたのは、ヒロさんも同じだった。
「俺のだ」
どうやら、同じ機種だったらしい。ヒロさんが携帯を開く。
「何だよ? は? 今から? 無理だろ。どう考えても。俺は、お前と違って、仕事があるんだよ」
携帯を開く前から、妙な表情を浮かべたヒロさんは、相手に対する言葉も辛辣だった。
「昨日はお前に会いに行った訳じゃねーって。真幸? 一緒だぜ。当然」
「ちょっと、ヒロ。電話変わって!」
「おい、真幸?」
宮川課長が、ヒロさんの横から突然、携帯をひったくる。
「しつこいね、アンタも。昨日は、ヒロは俺と一緒だったの。大体、お遊びだったら、他探せっつーの!」
ちょっと子供っぽいしゃべり方だが、それだけ相手に腹を立てていることが判った。云いたいだけ云うと、ヒロさんの了解も取らずに電話を切る。
「ヒロ、君、まだ、あんな男と付き合ってたの?」
「いや、まぁ。悪い奴じゃないんだよ」
くるりとヒロさんに向き直って、激しい調子で詰め寄った。それにヒロさんはたじろいで言い訳を始める。
「悪い奴じゃ無い? いい奴でも無いと思うけど? ホントにヒロってシュミ最悪!」
「そう云うなよ。俺だって、アイツに救われた時期だってあるんだからさ」
寂しげに云うヒロさんに、ぐっと宮川課長が詰った。
「まぁ、ヒロが納得しているんなら、いいけどさ。ちゃんといい相手見つけなよ」
「ああ。そうするよ」
苦い表情で、ヒロさんに忠告らしいものをする課長の声は、何だか弟を心配している兄貴の様だ。
ああ、そうか。と俺は納得した。
身体の関係はあっても、気持ちはそういうことなんだ。と。
確かにこの関係は、『恋人』というよりも、『友達』という方が相応しい気がする。

「悪かったな、今日はつき合わせて」

ヒロさんの家は、俺の家から私鉄で一本のところだった。
同じ駅から課長と電車に乗り込む。
降りる駅は、課長の方が三つほど手前だ。
「いえ、楽しかったです」
取り澄ました大人の男だと思っていた課長のイロイロな表情は、見ていてすごく楽しかった。それは本当だ。
「そうか。懲りずに、また付き合ってくれると嬉しいんだが」
「ええ。また誘ってください」
素直にそう云った俺の目の前で、扉が閉まる。
課長はカッコいい大人の顔で、軽く手を上げて俺に背を向けた。
その背を見送りつつ、きっと社交辞令だろう誘いの言葉を、噛み締める。
俺に口止めの必要が無いのであれば、次の誘いは有り得ないだろう。


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