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番犬の憂鬱<7> 

と思っていたのは、俺の早計だったらしい。
一週間、鈴木さんの指示で忙しく立ち働く俺に、宮川課長が親しげに声を掛けてくることも無かったし、もちろん週末のお誘いなどあるはずも無かった。
心の何処かでそれを寂しく思いながらも、ふて腐れた気分で寝ていた俺の携帯が鳴ったとき、見覚えの無い番号に多少警戒しながら電話を取った。
「エルミタージュの圭です。これ、上総くんの携帯かな?」
「はい?」
何度も配達には行ったから覚えている。例のバーのバーテンの声だ。
「ごめん、あのまた君の課長さんが、すごい酔っ払いで」
云い難そうなバーテンの言葉を、俺は全部聞かないで遮る。
「すぐに行きます!」
俺は、急いで普段着の上にダウンジャケットを引っ掛け、アパートの階段を駆け下りた。


地下鉄の中でイラつきながら到着を待つ。自然と足踏みをしているのが判った。
こんな時、大人では無い自分が歯がゆい。碌な稼ぎも無い俺には、タクシーを飛ばして迎えにいく事は不可能だ。
ドアが開くのさえもどかしく、俺はホームを全力で疾走する。
足にだけは自信があった。
おそらく、俺がエルミタージュに到着したのは、今まで迎えに来た誰よりも早かったに違いない。
それが証拠に、ドアを開いて店に入ってきた俺を見て、圭くんという、まだ同年代だろうバーテンが、目を丸くしていた。
「上総くん?」
「すみません。課長は?」
「すごい早かったね。真幸さんならカウンターだよ」
圭くんが示すそこを見ると、呆れた顔をしたマスターと、カウンターに突っ伏して、今にも眠り込みそうな課長がいた。
「課長?」
肩を軽く揺すると、宮川課長が、長いまつげの瞳をうっすらと開く。
妙な色気のあるそれに、俺はどきりとして目をそらした。
「何だ? 上総?」
「か、課長。帰りましょう?」
俺を認めたものの、そのまんま眠り込みそうな課長を、俺はどうすればいいかと持て余す。だが、こんな場所には置いていけないことは確かだ。
ここは相手を求めてくる場所でもあるのだとネットで調べた。
おそらく、ここは上品な部類に入る方だろうが、それでも妙な気を起こす奴がいないとは限らない。
「ごめんね。ヒロさんに云ったら、出張中だから、君に連絡しろって」
「ヒロさんが?」
成程。俺はお眼鏡にかなったガード役と云うことらしい。
半分、眠った課長を担ぎ上げた。
地下鉄で連れて帰るとなると、げんなりとはなるが、タクシーの使えない俺には、これが最良だ。
「あの、お支払いは?」
思い出して、おずおずと申し出た。しまった。金持って来てないぞ。俺。
「ああ。真幸がこうなるのはいつもの事なんで、当然、ツケだよ。真幸に払わせるから、君は気にしなくてもいい」
深くため息を吐いてマスターが云う。
「タクシー呼んで、真幸に払わせてもいいんだぞ」
「いえ。地下鉄で連れて帰ります。ここからなら、乗り換えも一つなんで」
「かついで?」
「はい。課長なら軽いし」
思わずと云った感じで疑問を突きつけられ、俺は淡々と答えたが、どうやらそういう事では無かったようだ。圭くんが妙な顔をしていた。
「気をつけて」
脱力したような圭くんの声に送りだされ、俺は課長を肩に担いだまま、歩き出す。
さすがに、地下鉄の駅の改札に入るところで、何度か声を掛けたが、課長は完全に眠り込んでて、一向に起きる様子が無い。
さすがに二人分の切符を見せた俺が、課長を担いで改札を通ると、駅の職員に止められた。
事情を話すと同情はしてくれたが、あまり乗って欲しくは無かったらしい。
ホテルへ泊まって、上司に払ってもらえと素直に勧められてしまった。
だが、ここは新宿の繁華街から一番近い駅だ。
「男同士で?」
俺の反論に、駅員は乾いた笑いを貼り付けたまま、乗換えと降りる駅には連絡しておくからと、通してくれた。


しっかりと熟睡している課長は、結局、課長の家の最寄り駅では起きてくれなかった。
仕方が無く、狭い自分のアパートへと連れ帰り、シャツ一枚にしてから、俺のせんべい布団へと課長を放り込む。
ヒロさんの家のような、広い布団も無い。
俺はシャワーを浴びた後に、課長の隣へと、身体を小さくして潜り込んだ。
といっても、限界はある。
課長が寝返りを打つ度に、甘い吐息が掛かり、シャツ越しの身体が密着する。
俺は、課長に背を向け、硬く目を閉じた。
すると今度は、背後でするシャツの衣擦れの音や、耳元に掛かる息を意識して、余計に眠れない。
俺は、ため息と共に諦めを吐き出した。
押入れから、体力造りで山へと登っていた頃の寝袋を取り出し、潜り込む。
そうでもしないと朝まで一睡も出来そうに無かった。


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