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番犬の憂鬱<11> 

「おい、上総」
週末、真幸さんに声を掛けられる。
バイトが終わり、俺はこれから帰るところだ。時刻はとっくに八時を廻っている。
「お前、帰るのは自転車か?」
「はい」
俺は、会社に買ってもらったバイト用のコンフォートで、ここへ通っていた。今日も当然それで帰るつもりだ。
「そうか。じゃ、乗せろってのは無理だな」
ロードバイクなので、当然乗せるような機能は無い。悪戯っぽい真幸さんの笑いを見るまでもなく、冗談だというのは判った。
いくら、工場ばっかりの埋立地にある会社だと云っても、男が二人で自転車に乗って帰る図は遠慮したい。
「途中まで一緒に帰ろう」
にっこりと笑う真幸さんに、俺はうなずいた。
エレベーターで階下へと降りる。人事部は本来二階だ。わざわざ、四階の営業部まで上がって来てくれたのが嬉しかった。
明りの落ちた廊下を歩く。ほとんどの社員が帰宅した後だ。
表の受付はとっくにカギが閉まっている。
裏口の警備員に挨拶して、外へ出た。そろそろ初夏へと移る頃合なのに、埋立地の所為か、夜になると吹く風が冷たい。そっと、真幸さんへと手を伸ばして、人の気配に気付いた。
裏口は駐車場だ。
目を凝らすと、薄暗い駐車場の片隅に車が一台止まっているのが見えた。横に男が二人いる。
「お、」
「シッ!」
お疲れ様です。と声を掛けようとした俺の口を真幸さんが塞いだ。
片方の細すぎるシルエットは、顔が見えなくても、鈴木さんだと判る。
もう一方の男の顔は、月明かりの逆光の所為もあって、まったく見えなかった。その男が鈴木さんの手を取って、まるでファンタジー映画の騎士が姫にするように優雅な仕草で手の甲に口付ける。
妙なエロさを感じさせるそれに、俺が硬直していると、真幸さんがひそめた声を上げた。
「おい、行くぞ。知らないフリしてろ」
促されるまま、俺はロードバイクを押してその場を離れた。
どうやら、気付かれなかったらしく、振り向くと、男が鈴木さんに助手席のドアを開けてやっているのが見える。鈴木さんは頭も下げずに乗り込んでいた。


「お子様には刺激が強かったか?」
「そ、そんなことは無いですが…」
からかうような物言いだったが、俺がショックだったのは、ああいう場面を目にしたことよりも、自分たち以外の男性カップルを目にしたことがデカい。
「まさか、鈴木さんが…」
「渥美部長が鈴木の下僕だってハナシは本当らしいな。俺もまさかと思っていたが」
「え…?」
あれって。
バス停に向かって、歩道を歩く俺たちの横を、お高そうな国産車が通り過ぎる。街灯に照らされた運転手の顔は、確かに渥美営業部長だった。
「渥美、部長だったんですね?」
「お前、見えてなかったのか?」
意外そうな顔をされたが、あれで見えてる方がどうかしていると思う。鈴木さんだけは体型で判ったが。
「とりあえず、内緒にしとけよ」
「解ってます」
業務上でみたこと、知ったことは、絶対に社外へ漏らさないこと。というバイトの契約条項を思い出して、俺はむっとした。
そんなに口が軽いと思われていたのだろうか。
「いや、そうじゃなくて、な」
俺が気分を悪くしたのを悟った真幸さんが、口元を抑えて困った顔をした。
「お前が、妙に生真面目なのを忘れてたよ」
真幸さんの台詞に、俺は頭が?で一杯になる。だが、それは一瞬だった。
「鈴木さんと、渥美部長のことは、当人にも云いませんよ」
「ああ。そうしてくれ。本人たちは隠してるつもりかもしれん」
隠しているつもりと口にすると云うことは、総務には噂が流れてきているということだろう。
「まぁ、そういう意味でかんぐってるのは俺だけだと思うがな」
そこは同類のカンという奴だと、真幸さんが笑った。
バス停に近くなったところで、バスが俺たちを追い抜いていく。
この路線のバスは、本数が少ない。慌てて、真幸さんが走り出した。
「後で、メールする!」
振り返り様に、それだけ告げると、全力疾走でバスを追う。
その、野生動物のようにしなやかな走りを見ながら、俺は振り向いた真幸さんの視線に、動けなくなっていた。


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