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番犬の憂鬱<14> 

「警戒はしなくてもいい。誰にも云わないしな」
「俺はどうでもいいが、コイツのことは黙っていてくれると助かる」
鈴木さんが、後ろを振り返るのに、シートに沈み込んだままの真幸さんが答えた。
「真幸さん、どうして…」
俺も同罪じゃないか。何で?
「そういう顔をするな。俺たちは、それなりに会社での位置がハッキリしてるし、必要な人材だろう。それなりの成果も上げてるって自負もある。少なくとも、すぐに首には出来ない筈だ。だが、お前は違うだろう」
鈴木さんが諭すように云うのに、俺は肩を落とした。その通りだ。俺が宮川課長と付き合っていたと知れて、首になるのは俺だけだ。
「宮川が心配してるのはソコだ。勘違いするな」
メガネを外した鈴木さんが、俺を睨む。切れ長で涼やかなその目は、何もかも見透かしているような感じがして、ギクリとした。
「はい」
俺は素直にうなずく。少なくとも心配してくれているのは嘘じゃないらしい。
「よし」
鈴木さんの細い手が俺の頭をゆっくりと撫でた。
その手を、ひったくるように渥美部長がつかんで引き戻す。
呆気にとられて見ていると、部長はひったくった手の甲に口づけて、そっと鈴木さんに戻した。
しかも、バックミラー越しに俺を睨みつける。
「前を見ろ」
それに気付いたのか、鈴木さんはまたしても命令口調だ。不服そうに鼻を鳴らして、渥美さんが俺から視線を外す。
今度は鈴木さんがバックミラー越しに視線を送ってくる。その顔は、どう見ても面白がっている風に見えた。
この人も、真幸さんと同じ手合いか。まったく、困った人たちだ。
振り回されている身としては、渥美部長に同情しないでもないが、大人の渥美部長には振り回されてやるだけの度量もあるのかもしれない。
余裕の無い俺は、単に振り回されているだけだ。
わがままを聞いているつもりでも、実際は掌の上で転がされている気がする。
そっと隣をみると、酔った真幸さんは、シートに沈み込んだまま、軽い寝息を立てていた。
寄り添って肩を貸すと、気配を感じたのか無意識か、真幸さんがコトンと頭を乗せてくる。
俺は腕枕をするように、頭を抱え込んだ。


「おい、着いたぞ」
声を掛けられて、俺ははっと身を起こす。
いつの間にか俺も釣られて眠り込んでいたようだ。
真幸さんの色っぽい顔が俺をまじかで覗きこんでいて、俺はびっくりして身体を引いた。
「あ。すみません、ありがとうございました」
頭を下げると、渥美部長が笑っている。
「礼儀正しいな。結構なことだ」
「うちのは血統書付だろう? ありがとう、助かった」
ニヤリと笑った真幸さんが車を降りた。今日はやたらと犬にたとえられるな。
「じゃ、会社で」
「ああ」
「じゃあな」
車から手を振る鈴木さんと渥美部長に挨拶する真幸さんの後ろで、俺は頭を下げるだけにとどめた。
車は丁寧な走りで静かに走り去る。それを見送って、俺と真幸さんはマンションへと入った。
「真幸さん、コーヒーは飲みますか?」
「ああ。貰う」
真幸さんがウチに来ることが主な為、この部屋にくることは余り無いが、コーヒーサーバーの使い方くらいは覚えた。
熱いコーヒーを手渡すと、真幸さんがベッドに背をもたせかける。
1LDKの部屋は、そう広い方ではない。特に真幸さんの部屋には本が多く、壁がすべて本棚に占領されている。
「なぁ」
自分の分のコーヒーを入れていると、真幸さんが背中越しに呼びかけてきた。
「なんですか?」
「鈴木の方が良くなったら云えよ」
「は?」
いきなり云い出されて、俺は軽いパニックに陥る。
何故? 何で? 俺が何かしたか?
「悪い。また勘違いだ」
余程情けない顔になったのか、真幸さんはすぐに頭を下げてきた。
「お前、鈴木に見とれてただろう? 鈴木も結構な美形だしな」
「美形、ですか?」
どっちかと云えば、苦手だ。見透かされるような瞳が怖い人だと思うが。
「その惚けた面見てると、違うな。お前は元々ノンケだから、どうしても気を廻すんだよ」
「綺麗な人だから、すぐにその気になる訳じゃありません!」
それじゃ、俺が真幸さんの顔しかみていないみたいじゃないか。
元々、俺が頼んで付き合ってもらっているのは判っている。俺のことを好きでいてくれるわけじゃないのも知っている。だが、いくら何でもあんまりじゃないか。
「どうせ、俺は貴方のペット扱いなんでしょうけど、俺は…」
まずい、あんまり情けなくて泣けてきた。
霞む視界を振り切るように、俺は玄関へと向かい、靴を履くのももどかしく、部屋を飛び出した。



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