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整形美人<5> 

翌朝、俺が目を覚ますと、松平は俺の筋肉のついた腕を掴んで寝ていた。
それを外そうとすると、まだ、寝ぼけているらしい松平の抵抗に合う。
「お前、筋肉付きすぎなんだよ。せっかくの綺麗な上腕の骨格が台無しじゃないか。肩から腕にかけてのラインが絶妙なのに」
松平はすりすりと俺の腕に頬ずりすると、そのまま、またコトリと頭が落ちた。
寝ぼけていても、骨格に対する情熱だけは忘れないのが、なんとも松平らしい。
松平は、俺のこの鍛えた身体がお好みではないらしく、幾度もこの説教じみた台詞を聞かされ続けていた。
「お前はそこから離れられんのか?」
まぁ、それが好きで人間工学なんぞ似合わない学問をやっているのだろうが、俺のような俗物にしてみれば、松平の情熱は羨ましい。
俺は俗物の癖に、人との競争も嫌だという我侭な男だ。
そういう俺が適当に勤めていける職場は限られている。大学院から研究室に残ったのも、そこしか行き場が無かったからで、別にこの研究を極めたいとか云う、崇高な目的が合った訳では無い。
まぁ、今の時代、松平のような男のほうが珍しいのかもしれんが。


「おはよう!」
松平は全開の笑顔で、コンビニの扉を開けた。
途端に女性バイトが悲鳴のような声を上げる。
「お、おはようございます!」
顔だけ見れば、松平は非常にいい男だ。今時の女が好きそうな中性的な顔立ちに、今は全開のさわやかそうな笑みを浮かべているのは、何処の女であっても、騒ぐだろう。
ところが、その笑顔を向けられた当の相手の態度は、氷点下のごとき冷たさだった。
「いらっしゃいませ」
顔は確かに笑っているんだが、その笑顔は、モナリザもかくやという感じの、見事なアルカイックスマイルだ。
よく、モナリザの妖しい微笑みなどと称されるが、俺は実はあの絵が大ッ嫌いである。何を考えているか判らない、心に刃を隠しているような、そんな絵だと思っていた。
神楽くんの笑みは、それを見事に連想させるような、そんな微笑み方だった。
俺はうげっとなって視線を逸らす。
だが、単純な松平はそれをまったく感じていないらしく、棚からカツサンドとパスタサラダとコーヒーを取って、神楽くんの目の前に置いた。
「735円です」
「はい」
嬉々として松平が置いた千円札を機械的に清算すると、
「ありがとうございます」
とにっこりと微笑む。一転して全開の笑顔のように見えるそれを見て、俺はこいつは相当の役者だと思った。
微笑まれた松平は、今にも蕩けそうな顔をしている。
「ああ。また来るよ」
魂の抜けたような返事をするコイツを、俺は幾度か見てきたが、その中でも今回は完璧に嵌っているようだ。
俺はとっとと弁当とカップラーメンの清算を済ませ、フラフラと歩く松平の後を追う。
「おい、松平」
「神楽くん、今日は俺に返事してくれたよな?」
肩に手を掛けると、振り向いた松平の表情は、周囲にお花畑でもありそうな雰囲気だった。
「皮一枚の表情があんなに美しいなんて。やっぱり、骨格の良さがもたらすものだな」
「いや、あのな」
昨日の素っ気無さが嘘のような対応ではあったが、客に対する笑顔と愛想であって、それ以上でもなければ、それ以下でもない。
いや、どっちかといえば、松平に対してはそれ以下だったかもしれない。目が笑ってなかった。あの愛想が不気味な感じさえするぞ、俺には。
「背筋をピンと伸ばしていると、あの脊椎の美しさが引き立って…」
「あー、はいはい」
恋は盲目とは云うが、今の状態の松平に何を云っても無駄にしかならない。
俺はひたすらしゃべり続ける松平を促して、キャンパスへと向かった。


「おや? 殿はどうした?」
「向坂」
俺は頬張っていたステーキ肉を噛み千切り、顔を上げる。
「ずっと引っ付いてる訳じゃねーぞ、俺たちは」
「でも、一緒にいる確立は高いじゃん。殿には今、女はいないだろう?」
確かに、高校大学大学院と同じ学部で行動してきた為に、俺たちが共にいる確立は高い。
だが、それはあくまで何となくであって、意識して行動を共にしている訳ではなかった。
「女はいないけど、夢中になってる男がいるんだよ」
「へ? 男???」
向坂はびっくりした顔をする。そりゃそうだろう。松平の骨格至上主義は知られているが、まさか男でも良かったとは、晴天の霹靂ってやつだろうよ。
「そ、大学通りの角のコンビニ」
「確か、酒屋だったところだろう。あそこの店員か。ああ、えらく綺麗な男がいるって、女生徒が騒いでたな。そんなに綺麗か?」
俺は素直に首を横に振った。別に松平は顔が綺麗だから、神楽くんに惚れている訳じゃない。
このところ、朝はもちろん、昼も夜も松平はコンビニ食だ。神楽くんも客に対しての愛想は崩さないのか、非常にご機嫌なまま、通いつめている。
「神楽くんの骨格について、一日一時間近い講義を聴かされるんだぜ?」
「骨格フェチは変わらずか。殿のお守りも大変だな、家臣は」
だから、俺は松平にお仕えしてる訳じゃねーっての!
「どうせ、すぐに振られるんだろ。また、慰めてやれよ」
「その意見には全面的に同意だが、お前絶対になんか誤解してるだろう?」
経済学の助教授である向坂は、常に俺たちがセットだと考えているらしく、何かと云うと俺と松平が妙な関係であるかのようなニュアンスで話を作るのが困ったもんだ。
どっと疲れた俺は、味噌汁で残りの飯とステーキをかっこんで、学食を後にした。


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