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夏休み<中編> 

「俺と違って、コイツは繊細なんでね」
「あの、今日はお招きに…」
切れ長の視線を流す鈴木に動揺したらしい上総が、俺からぱっと離れて頭を下げる。
「ああ。親と親戚逃れだから、気にすんな。ゲイの知り合いって、俺にはお前らくらいしかいないし」
「笠置と葛西は?」
俺もそう思ったから、招きを受けたんだが、総務部の二人がいるのは聞いてないぞ。
「あれは渥美のお気に入り。カップルだとは思うが、どっちかというと、お互いしか見えてないって奴だな」
「成程ね」
確かにゲイっぽい感じはあの二人には無い。普段の恋愛対象は女だろう。
「さすがにこう暑いと、都内にいる気はしなくてな」
「確かに」
連日の猛暑で、我が社でも熱中症で倒れる社員もチラホラと出ている。営業なんぞ、帰って来た瞬間に玄関に倒れこんだのもいるくらいだ。
「義彦、降りて来てたのか?」
渥美部長が紅茶を手にして立っていた。俺が立ち上がろうとすると、顔はぶすりとしたままだが、上総がさっと立ち上がる。
「俺がやります」
受け取って、皆の前に置いた。まったく、どうしてこう渥美部長には、けんか腰なんだろうなコイツは。
「渥美部長。どうかしました?」
後を追って入ってきた葛西が部長の顔を覗き込む。笠置が距離を取っているのは、セクハラ部長にいつもケツを撫でられる所為だ。だが。
「渥美部長? ホントに顔色悪いですよ?」
「ああ」
血の気の引いた顔だ。頭を抱え込んだかと思うと、そのまま倒れこむ。
「サクヤ?」
たるそうにソファに沈みこんでいた鈴木が、慌てて近寄ってきた。
さっと、上総が屈みこむ。
頭に手をやり、腕をとって担ぎ上げた。
「鈴木さん、渥美部長の部屋は?」
「あ、俺の部屋。二階の一番奥」
渥美部長のガタイはかなり重いらしい。鍛えられている筈の、上総でも抱えあげるのが精一杯だ。
それでも何とかふんばって、階段を上る。
鈴木が珍しく、先に立ってドアを開いた。
ベッドに寝かせて、汗を拭う。
「すみませんが、氷枕か何かありますか?」
上総の問いには、鈴木は首を捻った。横で葛西が手を叩く。
「保冷剤とかでも構わない?」
「ええ、助かります」
葛西の言葉に思い当たることがあったのだろう。笠置が階下へと走り出す。
「さっき、買出しに行った時に、肉屋が付けてくれたんだ」
「冷蔵庫に、何か冷えてる飲み物ないですか?」
笑いかける葛西に、上総が尋ねた。真剣な調子に、笠置の顔が引き締まる。
「何がいい?」
「なるべくなら、アイソトニックドリンクを。ペットボトルに入れてきてもらえます?」
「了解」
てきぱきと指示を出す上総に、全員がぱっと動く。
「鈴木さん、タオルありますか? それと着替えを」
「多分、クローゼットの中に」
鈴木が立ち上がって、クローゼットを開いた。
ごそごそとやってはいるものの、中々タオルが出てくる気配は無い。
見ると、まったく見当違いの場所を探している。
俺が一番上の引き出しを開け、タオルを取り出すと、鈴木は不思議そうな目で俺を見た。
「物をしまう場所ってのは、結構決まってるもんだ。上総、どのくらい要るんだ?」
「とりあえず、二枚ください。それと、課長。すみませんが、Tシャツか何か探してもらえます?」
まずは、笠置が保冷材を片手に戻ってくる。
上総は、それをタオルにくるんで、両方の脇下へと入れた。
葛西の持ってきたペットボトルを受け取って、渥美部長のガタイを支えて飲ませようとするが、部長がぐったりとしている所為か、上手くいかない。
焦っているような上総の様子に、俺が手を貸そうとすると、横合いから伸びてきた手が、ペットボトルをひったくる。
鈴木は口に飲み物を含むと、口移しで渥美部長に飲ませた。
こんな際とは云え、人前で堂々とやるのも鈴木らしい。
幾度か繰り返すと、意識がはっきりとしてきたらしい部長の手が、ペットボトルへと伸びた。
それを制した鈴木が、もう一度口移しで飲み物を飲ませる。
「よ、しひこ?」
「黙って寝てろ!」
鈴木は怒ったような口調で、渥美部長をベッドに押さえつけた。
「熱中症ですよ。とりあえず、身体をクールダウンして、水分を取って寝ていてください」
上総の言葉に、皆にほっとした空気が流れる。
「お前、手慣れてるな」
「夏の部活には付きものですから」
なるほどね。俺などには無縁の世界だ。


休ませる為に、皆で階下へと下りる。
居間には、既に冷め切った紅茶が放置されていた。誰とも無くそれに手を伸ばす。
鈴木も、ソファにふんぞり返るようにして、冷めたそれを口にした。
「あの、本日はお招きに預かりまして」
おずおずと切り出す上総に、鈴木が鷹揚にうなずく。
「いや。逆に面倒を掛けたな」
「まぁ、渥美部長の手料理には心惹かれますけど、うちの上総の腕前も中々ですよ」
俺の言葉に、鈴木がきょとんとした顔になった。
「夕飯、部長が作るつもりだったんでしょう?」
かといって、倒れた部長を上に残して出掛ける訳にもいくまい。
「いいだろ、上総。俺も手伝うし」
「別に課長の手を煩わせる程じゃありませんが。いいんですか? 俺の作るのって、普通の家庭料理ですよ?」
幼い弟たちの面倒を見てきた上総は、料理は確かに上手いが、こんなお屋敷住まいの鈴木の口に合うのかと心配している風だ。
「大丈夫だろ。鈴木だって、何年も寮暮らしだったんだし、葛西も笠置も寮だしな」
うちの会社の独身寮が、そんなたいした食事を出してないのは、人事の俺が良く知っている。第一、俺も会社に入って数年は寮にいた。
「俺も手伝おうか?」
葛西が、丸いメガネを押し上げると、隣で笠置が首を振る。
「止めとけ。お前にやらせるくらいなら、俺が手伝う」
別に葛西が不器用な訳では無いが、全般的に手が遅いのは否めない。
「いえ、本当に大丈夫です。そんなたいした物は作れません」
「鈴木、台所借りるぞ」
声を掛けると、窓の外を眺めていた鈴木が、我に帰ったように顔を上げた。
「好きに使ってくれ」


「あの、課長。ホントに座ってて…」
「お前、何でさっきから役職で呼んでるんだ?」
磨き上げられたテーブルが配置されたカウンターキッチンに篭もった瞬間に、俺は疑問をぶつける。
「総務の人たちがいますから」
「鈴木が云ってただろ? アレもカップルだって。気にするな」
第一、あの状況を見られたんなら、今更つくろうのも馬鹿馬鹿しい。
俺はぐいっと上総の襟首を掴んで、唇を重ねる。
思いっきり翻弄してやると、上総はびっくりしたように目を見開いていたが、そのまま素直に舌を絡ませてきた。
「知られたら、知られたときだ。俺はお前と別れてやる気は無いぞ」
「はい。真幸さん」
素直にきらきらした瞳を輝かせてうなずく姿が、たまらなく可愛い。思わず、頭を撫でてしまうくらいだ。
「飯。楽しみにしてるぞ」
「はいッ!」
張り切ってキッチンへと向かった上総を背に、俺は冷たい麦茶のボトルを手にして、居間へと戻った。


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