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夏休み<後編> 

ドアを開けると、出て行ったときのまま、外を眺めている鈴木の姿が目に入る。
「葛西と笠置はどうした?」
「渥美を着替えさせに行った」
俺が声を掛けると、ぼうっとした切れ長の瞳がこちらを向いた。
切れ長の瞳が見透かすように真っ直ぐにこっちを見るのに、一瞬、どきりとする。
本人にその気が無いのが判っているだけに、目の毒だ。
この容姿で、こんな目で見られたら、その気のある男ならたまらないだろう。
「お前は何もしないのか?」
「俺が手を出さなくても、周りのほうが上手くやる」
成程、手を出さなくても済むところには手は出さない、か。普通は落ち着かないものだが、さすが、こんなお屋敷が別荘なお坊ちゃんは、慣れているようだ。
「ご主人様な発言だな」
「そういう訳じゃない。俺が手を出しても、碌なことにはならない」
肩肘ついて優雅に足を組んだ姿は、ともすれば怠惰にも見えるが、育ちの良さが滲み出ていて、威厳すらかもし出している。
自らは動くことなく、相手に任せる傲慢なくらいの信頼。
「いや、ホントに女王様だな」
俺の呟きは、鈴木には聞こえなかった筈だ。鈴木は、ぼぅっとした視線を庭に向けたまま、渥美の目覚めを待っているように見えた。

回鍋肉とサラダ。きゅうりの高菜炒め。当日の夕飯は簡素ではあったが、充分に腹を満たすものだった。
「これって、きゅうりと高菜を炒めただけですか?」
「ああ。うちで部活の連中が呑むときとかに作るんですよ。それに、これならおかゆにも添えられるし」
大きな目を丸くして葛西が聞くのに、上総が答える。
「おかゆ?」
「ええ。渥美部長に」
「部長に食わせるなら、俺がやろうか?」
そうか、そこまで考えて作ってくれたのか。気の利く奴だ。後片付けの間に、俺が手伝えることはやろうかと思ったのだが、硬い表情で上総は首を振った。
「いえ、いいです。それより、真幸さんには後片付けを…」
「後片付けなら、俺と笠置でやるよ。ね? やっちゃん」
おそらくは、渥美部長から遠ざけようとしたのだろう上総の思惑は、目を見合わせる葛西と笠置によって打ち砕かれる。
「じゃ、俺たちも二人で行くか?」
悪戯っぽく笑いかけると、上総が渋々と立ち上がった。
鈴木も立ち上がったが、俺たちの後を付いてくることは無い。そのまま、居間へと姿を消した。

「部長、美味いでしょ?」
ぶすっとした上総の代わりに、俺が自慢してやる。
ホント、可愛いんだからな。料理上手で、ついでに床上手でもあるが、それはさすがに口には出せん。
「ああ、上総は本当に料理が美味いんだな」
「部長だって、鈴木には作ってあげているんでしょう?」
「まぁな。女王様は?」
やっぱり、顔は出してないみたいだな。
「居間にいますよ」
そ知らぬふりで答えると、部長ががっくりと肩を落とした。
「呼んできましょうか?」
「いや、いい。こんな身体じゃ、アイツの世話も焼けん」
そんなことを鈴木は求めてないと思うけどな。
まぁ、いい。今夜くらいは大人しくしていてもらおう。
その方が、きっと鈴木もありがたみも増すってもんだ。

「上総?」
ドアを閉じても、ぶすりとしたままの上総に呼びかける。
「何ですか?」
「健二」
振り向こうともしない上総の耳元で、囁くように滅多に呼ばない名前を呼んだ。
途端に硬直した上総の手から、部長に食べさせた皿を受け取りざまに、掠めるようなキスをすると、上総の顔が真っ赤に染まる。
「ま、真幸さんッ!」
悲鳴のような声を上げた上総を笑いながら階段を下りた。
「真幸さん、今の、」
キッチンへと入ろうとした俺に追いついてきた上総が、肩を掴むのに振り返る。
「俺を信じろよ。俺が好きなのは、健二、お前だけだ」
もう一度、触れるだけのキスを送ると、しばらく呆然となった上総の顔が、やがて輝くように笑った。
「真幸さん、俺も、ですから」
「うん。知ってる」
俺の手から皿を受け取り、上総は鼻歌でも歌うような勢いで、キッチンのドアを開いた。


「はい、やっちゃん」
「杏、そっち置いて」
長身の男が二人揃って、キッチンで洗い物をしているのは、ちょっと異様な光景かもしれないが、二人が共に、互いしか見えてませんな雰囲気で、ほほえましい。
「葛西、笠置。これ頼む」
「はい!」
本当に嬉しそうに葛西が受け取った。
何をやるのも二人なら楽しくて仕方が無いという風だ。
俺と上総は顔を見合わせて、その場を二人へと任せる。

向かった先は居間だ。
二人掛けの大きなソファで、鈴木が眠りこけている。
俺はそっと鈴木の肩を揺らした。
それだけで鈴木はぱちりと目を覚ます。
普段、寝汚い方だと思ったんだが、それは信頼できる相手がいてこそらしい。
「鈴木、寝るならベッド行けよ」
「渥美の邪魔になる」
間をおかずに断言する鈴木に、俺は深いため息を吐いた。
「こんなところで寝てるほうが、部長が心配する。上行って、部長の手でも握ってろ」
「そんなことでいいのか?」
目を上げた鈴木に、俺は再びため息を吐く。部長が良くやる仕草だが、なんとなく納得した。これは脱力するしかない。
「お前な。そんなに気になるなら一緒にいればいいだろう?」
「俺がいたって、何の役にもたたない」
まっすぐにこっちを向いて発した言葉に嘘は無い。卑下している訳でも何でもなく、冷静に自分は役にたたないと思ったわけだ。
だが、恋愛にはそんな方程式なんか無いんだぜ?
「いいから、部長のそばについていろ」
鈴木の薄い身体を、ドアの向こうへ放り出す。

邪魔な奴を追い出したところで、俺はソファに腰掛けた上総の膝に座りこみ、ゆっくりと腕を上総の首に絡み付ける。
ゆっくりと唇を重ねたところで、ドアが開いた。

「宮川課長、部屋、何処か」
聞いてますか?と続けようとした、二人が、メガネの奥の瞳を丸くしている。

「笠置、葛西。お前ら、な」
怒り半分、あまりのタイミングの良さに笑い半分。

「鈴木さんの部屋の隣ですから!」
葛西が怒鳴るように言い置いて、笠置の袖を引く。
金魚のように口をパクパクさせた笠置は、素直に引きづられて、ドアの向こうへ姿を消した。

もちろん、続きは用意されたベッドの上。
夏休みは始まったばかりだ。


<おわり>

おまけ編へ続く。

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~ Comment ~

Re: 柚子季さま

ひたすら、ペットを可愛がってる真幸が好きなんですよ。
鈴木がね。どうしていいか判らずにおろおろ。でもそんな様子は見せない
だろうなと思って。
[2010/09/05 23:12] 真名あきら [ 編集 ]

はぁ~~甘甘でした~~(///∇//)テレテレ☆
カチョがワンコを愛でてる様子が堪りませんねw
そして眼鏡カプ、相変わらずwww
女王様もしっかりブチョが好きなんだなぁと伝わって来るこの不器用さ加減がまた、何とも♪
思わずにやけてしまうSS、楽しかったです!
[2010/09/04 23:56] 柚子季杏 [ 編集 ]

るかちゃん

豪華な三組でしょうか。
たまにはペット扱いではなくて、甘い夏休みを云うことで
[2010/09/04 22:09] 真名あきら [ 編集 ]

豪華な3組~~!!

もう何を言ったらよいのやら・・・。
3組まとめてのご出演に、
このまま1ヶ月この3組、別荘に閉じ込めててくれい~!
と、叫びそうです。
淡々と甘い。
しかも滲み出る甘さ~~~。
いい夏休みでした。さすが姐さんです。
[2010/09/04 12:06] るか [ 編集 ]















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