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夏休み<おまけ> 

目を覚ますと、身体が重かった。
まだ体調が悪いのか。無理しすぎたかな。
義彦の親が、華やかな生活をしていた昔を懐かしんでか、最近の引きこもりに近いこの頃をいぶかしんでか、やたらと避暑にと別荘を勧められた。
以前も義彦は、別に喜んで別荘やパーティへ出掛けていた訳では無いと思う。おそらくは周囲が作り上げた、華やかな女王陛下のイメージに似合う生活を整えるのに乗っかっていただけだ。
素の義彦は、非常に面倒くさがりで、縦の物を横にもしない男だ。
こういう男が一人暮らしになると、どうなるかなど判りきっている。
俺が再会したころの義彦は、独身理系男の典型のようだった。
自分が身の回りを整えない理由を、非常に理屈臭く分析し、『仕方のないこと』と済ませようとする。
容姿が衰えたことも、それに輪を掛けていたようで、身の回りを整えることさえ、似合わないことだと拒否を示す。
だが、地は悪くない義彦は、ちょっと肉をつけて整えただけで見違えるようになった。常に髪はぼさぼさで、無精髭は生えっぱなし、素通しとは云え大きなメガネの下に隠されたそれなのに、嗅ぎ付ける女も多い。
油断も隙も無い。唯一の救いは、義彦が女はまったく駄目なことだ。
「渥美?」
俺を覗き込むように切れ長の目を見はる義彦の身体が、俺の上になっていて、俺の心臓が跳ね上がった。
「なるほど、重かった筈だ」
いくら痩せているとは云え、成人男性一人の体重が掛かっていれば、当たり前だ。
「重かったか?」
「いや、そういう訳じゃない」
俺は笑いながら、義彦を抱き締める。
昨日から着ていた肌触りのいいセーターのまま、俺の上にいる義彦は、多分ずっと俺のそばにいてくれたのだろう。
「心配してくれる相手がいるってのは、いいもんだと思ってな」
「馬鹿野郎…」
むすっとした顔になっても、義彦は美人だ。
引き寄せてキスをしようとした時、ドアをノックする音が響く。何故か内側から。
はっとして顔を上げると、開いたドアにもたれるようにして、宮川が立っていた。
「お邪魔だとは思ったんだが、うちの番犬の自慢の朝食が冷めるんでね」
悪戯を思いついたようなその表情は、尖ったしっぽが閃いているような、人の悪い顔だ。まったく、こんな奴がいいなんて、あの純朴そうな犬は騙されているんじゃないかと思えてならない。
「ああ。あいつの飯も美味かったな」
するりと俺の上から退いた義彦には、残念そうな感じは微塵も無い。
未練は残るが、女王様が行くというのなら仕方があるまい。俺は自分と女王様の身支度を整えて、階下へと降りた。


「おはようございます」
「渥美部長。もう身体はよろしいんですか?」
二つの異なる声の調子に迎えられる。
双方共に背の高いタイプの異なる美形・総務部のホープ、葛西と笠置だ。
「ああ。心配を掛けたな」
「おはようございます」
席へ着いた俺の前に、ぶすっとした声と共に味噌汁が差し出される。
「ああ。おはよう。君にも迷惑を掛けた。すまない」
「いえ。当たり前ですから」
若い頃は自信に溢れて、無謀になりがちだが、彼は非常に慎重だ。自分がどんなに頑張っても大人にはなれないことを知っている。
そして、周囲の大人たちに嫉妬の視線を向けるのだ。
何時、誰が自分から宮川を奪うのではないかと怯えている。
なのに、その当のライバルが倒れても身の回りの世話を焼いてしまうのだ。
フェアな精神と云うべきか、それとも損な男だと笑うべきか。
考えながら、宮川を見ると、そんな自分の番犬の焦りを、ほほえましく観察している。
まったく、お前、いつか刺されても文句は云えないぞ?
隣では、女王様が似合わない朝食を大口開けて、ぱくついている。
炊き込み飯に、味噌汁。大根のサラダと厚焼き玉子。作りなれている味だ。お袋が生きていた頃に味わったような飯。

「本当に美味かった」
「はぁ。普通の飯ですが」
食い終えて礼を云うと、調子が狂うと顔に描いてあった。
「毎日作ってるんだろう? 渥美の手間だけ掛けた飯よりよっぽど美味い」
「おいおい。そこまで云うか?」
「ちゃんと台所使った跡があるからな。お前んちなんか、寸胴鍋やらパスタマシンなんかはあるが、普通のフライパンは使った跡が無い」
義彦の理系的な観察眼は、非常に確かだ。
「宮川の艶がいいわけだよな」
「へ?」
義彦の言葉に、犬がきょとんとした顔をする。
「そうだろう。飯も美味いし、ベッドで妙な癖も無いしな。何より、可愛い」
「ま、真幸さんッ!」
しれっと続けた宮川に、犬が真っ赤になって視線をさまよわせた。
「何だ? ここには俺たちと同じで、カップルしかいないんだぜ? お前は何処ならオープンに惚気させるんだ?」
犬の耳元に囁く宮川には、妙な色気があって、中てられた若い連中がそわそわしだす。
「店じゃありませんし」
「エルミでだって、お前は他に牽制ばっかりしやがって、俺にマトモに惚気させもしないだろう?」
「だって、ヒロさんとかマスターとか」
店ってのは、アレか。ゲイバーって奴か?
「ヒロにも愁輔にも、もうパートナーがいるじゃん。俺なんかお呼びじゃないの。第一、お前と寝てから、他には手は出してないよ」
宮川は犬にしなだれかかって、今にも膝の上に乗りそうな勢いだ。
「ストーップ! お前ら、そういうことは寝室でやれ」
俺の声に、若い奴らは明らかにほっとした顔をしている。
「はい、部長。了解です」
宮川は、意地の悪そうな表情を浮かべて、犬をひっぱってキッチンから姿を消した。
そわそわしている笠置と葛西も、割り当てた部屋に追い立てる。
そして、キッチンには二人きり。
俺はゆっくりと休養を取って、精力満タン。
「女王陛下。病み上がりの臣下に癒しをくださいませんか?」
「うむ。良いぞ」
冗談半分、本気半分で抱き上げた俺に、大人しく身を任せた義彦は、俺の首に腕を廻した。
寝室に運ぶ俺の胸に顔を埋めた義彦が、ぽつりと呟いた言葉を、俺は多分一生忘れることは無い。
「俺より先に死ぬなんて許さないからな」
震える身体を抱き締め、ゆっくりとベッドへと横たえた義彦の身体は、頼りないくらいに細かった。
身体に負担を掛けないように、解き解し、愉悦に喘ぐ身体を貫く。
「お前を残して行ったりしない。絶対だ」
快感だけではなくしがみつく身体を、俺は力の限りに抱きとめる。
開け放った窓から、セミが刹那の命の限りに鳴くのが聞こえた。


<おわり>

ちょっとだけシリアス風味。渥美の大事さを、女王様実感な話でした。

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~ Comment ~

tanaさま

少しづつお話は増えているので、リンク抜けなどもあるかもしれません。
気付いてもらえて良かったです。
幸せな気分を共用してもらえたら、嬉しいです。
[2014/08/26 22:33] 真名あきら [ 編集 ]

初めまして

夏休み、見落としてました‼︎
気付けてよかった、
義彦最高可愛いです。
溢れた幸せで、私も幸せ。
[2014/08/26 06:56] Feet735@ezweb.ne.jp tana [ 編集 ]

Re: うわ!見逃してました!

そう、おまけがあったんです(笑
いや、あの後の鈴木と渥美。何よりも自分が気になる。
という訳で。書いてみました。
正しく、怠惰な夏休みです。
今回女王様、ちょっとだけデレ(笑
[2010/09/23 21:44] 真名あきら [ 編集 ]

うわ!見逃してました!

い、今頃気づきました、姐さん!
おまけがあった・・・幸せ。
うううーーん、朝食後は3組とも、部屋に閉じこもって。
これぞ、正しい夏休み?
女王陛下のツンで、ちょっぴりデレな様子が見られて、良かった・・・
「俺より先に死ぬな。」
いい一言ですね~。
[2010/09/23 19:48] るか [ 編集 ]

Re: 柚子季さま

女王様があのあとどうなったか。いや、アタシも見たいと書いて見ました。
部長はますます忠実な下僕。
ワンコは幸せですが、周囲からみると、騙されてる憐れな存在かも。
[2010/09/12 22:42] 真名あきら [ 編集 ]

新着に上がってからずっと気になってたんですが、抜け出してこれずこんな時間ww

いやぁん~~~女王からのご褒美、最高のひと言ですね(///∇//)テレテレ☆
ブチョ、このひと言で益々忠実な僕にww
相変わらず牽制しまくりなワンコもww
そんなワンコだから良いんでしょうねぇ~(*´∀`*)

いや、なんか、もう、にやけました♪
[2010/09/12 18:29] 柚子季杏 [ 編集 ]















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