スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
*Edit TB(-) | CO(-) 


整形美人<12> 

「皇姫のことは俺たちに任せろ。とにかく、余計なことは考えるな」
皇姫という女は、やはり姉だけあって、神楽くんのツボと云うか、逆らえなくなる言葉と云うのを心得ている。
神楽くんが自由になる為には、何よりも奴の支配から逃れさせることが先決だ。
迎えに来た松平の前で、それだけ云うと、俺は二人を送り出した。
寝なおす時間は無い。中途半端な時間に起きたので、眠気が過ぎるが、ここで寝たら遅刻確実だ。俺は冷たいシャワーを浴びて、眠気を追い払った。
シャツとジーンズだけ身につけて、俺はキャンバスへと向かう。朝から寄るコンビニは、大学通りにある、神楽くんの勤めるところだ。
「おはようございます!」
扉を開くと、満面の笑みで神楽くんが挨拶をする。
たとえ整形だろうが、あの笑顔は綺麗なものだ。しかも、昨日までの妙に形式ばったものではなく、それが心から浮かべてくれるものであることは判った。
「帰りも松平が迎えに来るから」
レジで清算のときに小声で呟くと、一瞬キョトンとした顔になった神楽くんが、真剣な目でうなずいた。

研究室に入ると、機材に埋もれるように置かれたソファに転がって、松平がレポートを読んでいた。先週集めた学生の論文の下読みだ。
「目新しいような奴はいるか?」
「いや、駄目だな。今時の奴はネットで集めた情報で小器用なモンは書けるが、それ止まりだ」
「仕方が無いな。それはもう風潮って奴だ」
俺は自分の机に散乱した資料の山を脇へと退け、そこに買ってきた朝食を置いた。
湯を沸かして、小さめのカップラーメンを作り、弁当を開ける。
「真田。お前、神楽くんと何があった?」
「何も無いが…?」
意味が不明だ。カップラーメンをスープ代わりに啜り、弁当を食う手は休めない。
「神楽くんが、やたらとお前のことを聞いて来るんだ。神楽くんが憧れる男の条件って確かにお前だし」
明るくて、リーダーシップがあって、誰にも分け隔てなくってか?
松平も皇姫も買いかぶりすぎだ。
「俺は単なる調子のいい、流されるだけの男だぞ。家主の機嫌を損ねないようにしているだけじゃないのか?」
「俺にはそれだけだとは思えん」
「面倒くせえな、そんなんなら、お前もウチに泊まればいいだろう」
面倒ごとは嫌いなんだ。何で、こんなことで松平ともめにゃならんのだ。
「いいのか?」
「最初からそうしろっていってるじゃないか」
神楽くんには悪いが、松平の惚れた相手だからこそ面倒を見ているんであって、それ以上ではない。
後は乗りかかった船って奴だ。
どう流されても文句を云われるスジアイじゃないと、その時の俺は思っていた。


夕飯はコンビニで買ったものの他に、俺が味噌汁を作った。
俺より稼ぎの良かった女房は、残業で遅くなることも多く、これだけはよく作っていた。
「美味しいですね」
「そうだろ、こいつ、味噌汁は美味いんだよな」
松平と神楽くんが声を揃えて褒めてくれる。そんなたいしたもんじゃないけどな。
「これしか出来ないが、な」
「奥さんは?」
「別れて半年かな」
「十ヶ月になるぞ」
記憶を辿っていた俺に、松平の訂正が入った。
結婚して、数ヶ月ですでに綻びは出始めた。俺は口が過ぎるほうだし、女房は気の強い女で何かといえば、俺に張り合っていた。
そういう友人のような関係が新鮮で、俺は何かといえば女房に喧嘩を仕掛けていたようなところもあった。
俺たちの違いがはっきりと出たのは、子供のことだ。
子供を欲しがる女房と、自然に任せればいい俺と。早々と新居に子供部屋を用意するのを、俺は女に良くある夢だと思っていた。
喧嘩の原因はよく覚えていない。
最後には泣いて不妊治療を受けて欲しいという女房に「そんな格好悪いことが出来るか」といい放ったのは覚えている。
途端、女房はキッと口を結んだまま部屋へと引きこもり、翌朝には荷物ごと消えていた。
「とりあえず、女と暮らすのはこりごりだ」
接待で遅くなった女房に、味噌汁を作った俺に、アイツが何か云って笑いかけたっけ。
あれは、何と云ったのだろうか?

NEXT

FC2 Blog Ranking
完結小説一覧

スポンサーサイト
*Edit TB(-) | CO(-) 


Back      Next

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。