スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
*Edit TB(-) | CO(-) 


身勝手な男たち<3> 

「うちの新人です」
「小島と申します。大学出たてで何も判りません。よろしくご指導下さい」
俺は、佐伯さんに教わった通りに頭を下げる。
「小島くんね。ねぇ、佐伯くん、これからうちの担当は彼ってコトでいいのかしら?」
工務課のお局さまだと言う取引先の女性は、推し量るように俺を眺めた。
「おタクの渡部くんだっけ? 使えない子だったし、林さんは主任さんで、フォローはしてくれるけど、うちの担当じゃ無いじゃない? 君が営業じゃなくなってから、困ってるのよね」
「判ってますよ。これはまったくの新人なんで、いいように仕込んでくれて構いませんから。むしろ、こっちからお願いします」
佐伯さんが頭を下げると、お局さまは仕方が無いわね、と云うように苦笑いする。
「まぁ、いいわ。この子気に入ったし、その代わりビシビシやるからメゲないでね。改めて、工務課の津田よ。よろしく」
津田さんは、打って変わってにっこりと笑うと、俺に名刺を差し出した。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
俺は、肉食獣に睨まれた気分で頭を下げる。
「じゃ、新人くんのご祝儀で注文してあげる。いい? ウェルドアンカー一箱。オールアンカーSC870を三箱。それから」
慌てて、メモを取ろうと手帳を取り出す俺を、津田さんが制した。
「駄目、メモ取らないで覚えて」
「は、はい!」
「ケミカルアンカーと三分のグリップアンカー、それぞれ一箱。OK?」
頭の中で、注文を繰り返す。駄目だ。半分も覚えて無い。
「すみません! もう一度お願いします」
俺が頭を下げると、津田さんはゆっくりと繰り返してくれた。
「ありがとうございました!」
それを何とか復唱して頭を下げた時には、俺はぐったりとして、一件目だと云うのに、疲れきっていた。
これじゃ、身が持たない。
「おい、メモっていいぞ」
草壁工業を出て、歩き始めようとした時、佐伯さんに声を掛けられた。
「これから、何件も廻るんだ。覚えてられないだろう?」
「でも、津田さんが」
「客の前でメモ取るなって云っただけだろう」
あ、そうなのか。俺は急いで注文の内容を、手帳に書き付けた。
「あの人には、俺も大分鍛えられた。最近じゃ、そんな客面倒くさいっていわれるかもしれないけどな。俺は、営業を鍛えてくれる客がいるうちは、まだ大丈夫だと思ってる」
佐伯さんが新人の頃? う~ん、想像つかない。
「首捻ってるな」
「佐伯さんの新人の頃って、どんなだったんだろうと」
「可愛いもんだ。わたわたしてたしな」
気の所為か、外廻りに出た佐伯さんの口数はいつもよりはるかに多い。
「俺にだって、右も左も判らない時があったさ。さ、次行くぞ。お前にはちゃんと引継ぎ出来そうだしな」
「え~っ、勘弁してくださいよぉ~」
情けない声を上げた俺の前を、佐伯さんは颯爽と歩いていった。根っからの営業職といった風に見える。
そういえば、津田さんが云ってたじゃないか。「君が営業を辞めてから」。ってことは、佐伯さんは元営業課だってことだよな?


「そうよ。佐伯くんは営業課から移動になったの。そろそろ一年になるかしら」
「また、何で」
「あら、営業事務課で営業経験が無いのは、井上主任だけよ」
数日後の昼休み。俺が口にした疑問に、事務課の両女史はすぐに答えてくれた。
「へ? そうなんですか?」
「まぁ、営業事務課って、営業のサポート作業でしょう。営業の内容が解らないと、どうしても後手になっちゃうのよ」
「やっぱり、女の子はすぐ辞めちゃう子多いでしょ?」
なんとなく、佐藤さんは憤慨してるみたいだった。
「アタシさ、入社以来営業一筋でさ。でも、せっかく教え込んでも、事務課って数年おきに辞めてっちゃうじゃない? それならいっそ。と思って、事務課に移動願い出したら、受理されたの。離婚した後で、困っていたのもあったしね」
 「え? 佐藤さん、既婚者じゃなかったんですか?」
旦那がいるって聞いてたけど……。
「ああ、今の旦那は二度目よ。小説家なの。そんなに売れてないけどね。その代わり主夫やってもらってるし、子供の面倒も見させてるしね。ちなみに、コレは旦那の手作り弁当」
佐藤さんは嬉しげに、食べている弁当を指し示す。すごく旨そうな弁当だ。
「いい旦那さんですね」
「そんなこと云ってくれる男は少ないのよ。この会社が気に入ってるのは、年食っても出来る所為ね。社長はワンマンだけど、仕事さえ出来れば何も云わないし」
「結局、佐伯くんも首にはならなかったし」
佐藤さんの隣で、大口開けてバケットサンドをかじっていた新庄さんが、ゲラゲラと笑いだす。どうでもいいが、見掛けによらず、オトコマエな人だ。
「違いないわね~~。あれは絶対にクビだと思ったもん。さすがに」
佐藤さんも笑っている。
「え? 佐伯さんって何があって???」
「俺が何だって?」
突然、後ろから掛かった声に飛び上がる。振り向くと、佐伯さんが憮然とした表情で立っていた。
でも、ビクビクしているのは俺だけで、女性陣は平然としたものだ。
「あら、佐伯くん。早かったのね。ダーリンはどうだったの?」
「何ですか? そのダーリンって」
「美弥ちゃんに聞いたわよ。毎日お弁当もっていってるんだって?」
交互から佐伯さんをからかう。こういうトコロは若く見えても、おばちゃんだよなぁ。この二人。
「毎日とはいきませんけどね。持ってくるならメールしとけって云われました」
「え? 佐伯さんが手作り弁当ですか???」
意外! この人が台所で料理するの?
「うちは両親そろって大学病院の医者なんだ。日曜も呼び出されてたからな。男兄弟全員料理も洗濯も出来るぞ。イマドキそんなもんだろ?」
「いえ、うちは母が専業主婦なので」
「あら、まかせっきりだったの?そんなことじゃカノジョ出来ないわよ?」
すかさず、新庄さんの突込みが入る。
「それで、佐伯くんは働いてるオンナに理解あるんだ。いいなぁ、そんなダンナ欲しい。何でホモなのよ?」
「彼氏に怒られますよ。それとホモって言い方止めてください、差別用語です。『ゲイ』って云って貰えます?」
新庄さんと、佐伯さんの掛け合いに、聞いてる俺がぎょっとなった。おいおい、昼休みの職場だぞ。
「そっちこそ、彼氏とは云わなで。パートナーよ。私は非婚主義だもの」
「だったら、そんなダンナはいらないでしょう?」
「馬鹿ねぇ、そんなオトコばっかりなら非婚主義にはならないわよ」
「違いないわね~~~」
新庄さんと佐藤さん、佐伯さんもシニカルに笑いながら話をしてるが、こんなこと職場で堂々と話していいのか? それとも、佐伯さんってホントにホモなのか?
「あのね、君たち。新人くんが怯えるからいい加減にしてくれるかい?」
井上主任がやんわりと止めに入る。本当に主任って、この課の和み系だよな。
「お昼もうすぐ終わるよ」
「はぁい」
佐藤さんがペロリと可愛く舌を出す。結局、何で佐伯さんが営業課から事務課に転属になったのかは判らずじまいだった。


NEXT

BL小説ランキング
FC2 Blog Ranking

スポンサーサイト
*Edit TB(-) | CO(-) 


Back      Next

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。