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水の魔方陣・焔の剣<7> 

「あれが、藍鏡の泉だ」
ソルフェースが指差す先に、澄み切った底さえ見通せそうな青すぎる泉があった。
三人の騎士は、じっとその泉を見つめる。
もうここは、藍鏡の泉の主の本拠だ。いつ何処から魔物たちが襲い掛かってくるのか。
果たして、皇女を救い出して帰ることが出来るのか。
リベアは、ぐっと剣を握り締めた。


「この泉の何処が魔物の巣なんだ?」
ゼルダムは、澄み切った泉をまぶしそうに見下ろす。
泉の周囲は広かったが、ぐるりと廻ってみても、それらしい場所は見受けられなかった。
「それに、静か過ぎる。本当に、ここがそうなのか?」
ネイストも、信じられないという風に続ける。
今まで、近づいていると確証出来たのは、森の奥に行くにつれ、襲ってくる魔物が段々と大きく強くなっていったからだ。
だが、この泉に着いて、もう丸一日以上経つと云うのに、一向に魔物の気配すら無い。
藍鏡の泉は、その名の通りに藍く、鏡のように澄んでいる。
こんなところに、本当に黒の森の主と云われる魔物など棲んでいるのだろうか?
「蒼の、本当にここが……」
疑う訳では無い。が、泉の主の話は本当なのか。今まで、そう信じてここを目指して来たと云うのに、徒労に終わったのだとしたら?
リベアは、不安に突き動かされる様に、ソルフェースを見上げた。
「藍鏡の泉はここだ。アルガスが云った通り、何かの儀式に使うつもりらしいな」
泉をじっと見つめたソルフェースは、考え込むように呟く。それは、リベアに聞かせると云うより、何かを確信しているような口調だ。
「紅のアルガスが?」
「藍鏡の泉の主が儀式の為に皇女をさらったのでは無いかと云っていたのだろう?」
ソルフェースの云う通り、紅のアルガスからそう聞いたからこそ、その言葉を信じて自分たちは、ここまで来た。
だが、この静かな泉を見ていると、疑いが込み上げてくる。

「蒼の……。お前は知ってるんだろう? 一体、儀式とは何なんだ? それに、何故魔術師たちはそれを泉の主の仕業だと…」
リベアには、予てから疑問だった。魔術師たちは、何故、この泉の主が皇女を攫ったと決めて掛かっているのか。
何も手掛かりが無かったからこそ、その言葉に従いはしたが、何か手掛かりさえあれば、もっと早くにそれをぶつけていた筈だ。

「魔物が人を連れ去るには、いくつか理由がある」
ソルフェースは、冷たい視線を泉に向けたまま、言葉を紡ぐ。その顔は、整った容姿と相まって、作り物めいた印象を与えた。
「まず、人を傀儡にすること。人形にして傍に置くなら、見目の良いものがいい。二つ目は子を産ませること。魔物に子は出来ないからな。時折、そういう興味を覚える奴がいる。三つ目―――――」
言葉を切ったソルフェースは、そこではじめてリベアたちに視線を向ける。
「力を得る為の贄として、純粋な人間を欲すること」
「な―――ん、だって?」
リベアの口から出た言葉は、掠れて意味を成さなかった。
「その為に、皇女を?」
ゼルダムが目を見開く。
「皇女が婚姻の寸前であったこと。しかも、婚姻は皇女も望んだ幸せなものだ。しかも、幼い皇女は純潔で、プライドも高い。そういう人間を絶望の縁に突き落とした後に喰らう。魔物のもっとも好む贄の得かただ。それを行えるような知能のある魔物はそう多くは無い」
「それじゃ、もう皇女は……」
絶望的な視線を、ネイストはゼルダムに浴びせた。ゼルダムは声も無く立ち尽くす。
「皇女は生きているんだな?」
ソルフェースに見据えるような視線を向けたのは、リベアだ。もし、もう既に手遅れなのだとしたら、ソルフェースが自分をここまで伴う筈は無い。
「ああ。お前が行くまでは、絶対に、な」
蒼の魔術師が口元に浮かべた笑みは、ひどく寂しげだ。
「何故なら、お前は皇女がもっとも信頼した騎士だ。お前を皇女の前で引き裂いた時の皇女の嘆きを、奴は楽しむだろうさ」
「蒼の―――?」
はっきりと魔物の狙いが自分だと告げられて、リベアの背筋を冷たい汗が伝う。これが、判っていたから、蒼の魔術師は自分を森へ行かせたくなかったのだと。
「それでも、行くか?」
まっすぐにリベアを見る視線は、答えを既に知っていた。
「行く―――」
「まぁ、お前がそういう男だからこそ、俺も惚れたんだがな」
こんな場合だと云うのに、何を思ったのか、ソルフェースはニヤリと笑って、告白する。
慌てたのはリベアだ。人前でするような言動では無い。
「蒼のッ、悪ふざけは!」
「別にふざけているつもりは無い。最後になるかもしれないんだ。口付けくらいは許されると思うがな」
他の二人があっけに取られる間も与えず、ソルフェースはリベアの顎をすくい上げ、深く唇を重ねる。
リベアの口腔を蹂躙する舌の動きに、抗えなかったのは、不意を突かれた所為では無かった。
最後になるかもしれない――――そのソルフェースの言葉の重さ故だ。
ここまで自分の我侭に付き合ってくれた礼の意味もあったのかもしれない。


なごり惜しげに唇を離すと、ソルフェースはゼルダムに向き直った。
「光の剣を」
蒼の魔術師としての言葉に、ゼルダムがはっとして、剣を構える。
それと同時に、ソルフェースは泉に向かって呪言を唱え始めた。
三人の騎士たちには、音として理解は出来るが、到底発音は出来ない言葉の羅列だ。
いつしか泉の中心部が渦を巻き、その一部が手繰り寄せられるようにソルフェースの手の平に乗る。
それは水であって水では無いものだ。
透明なそれは複雑に絡んだ蜘蛛の糸のように文様を描いている。
「これが結界の鍵。逃げ出すなら今だ。これを破壊してしまえば、魔物たちは一斉に襲い掛かってくるだろう」
ソルフェースが三人の騎士たちを見廻した。リベアとネイストの視線がゼルダムに注がれる。
だが、ゼルダムは不敵に笑うと、その鍵に剣を振り下ろした。


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