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西銀座一丁目テーラー角田<8>完 *R15 

しっかりと舌が角田を捕らえ、絡みつく。
そのまま身体を預けてきた栄太を受け止めそこね、角田は床へと転がった。
身体に圧し掛かる栄太と目が合う。
栄太は明らかな雄の瞳で角田を見下ろしていた。
「お止めくださいと申し上げても無駄ですね」
「うん。もう止まらない。俺を止めたいなら殴り飛ばしてよ。お前なんか嫌いだって、店から放り出せばいい」
抱きついた栄太は、角田にすがりつくように胸に顔を埋める。角田は深いため息を吐き出した。
角田の腕が栄太の肩に掛かると、栄太がびくりと震えたのが伝わる。
「上にベッドがございます。そちらへ移動しますか?」
角田の言葉に、栄太はがばりと飛び起きた。
「え?」
「このままお帰りいただいても結構ですが」
身体を起こして三つ揃いを整える角田に、栄太はぶんぶんと首を横に振ると、慌てて抱きついてくる。
その何処か子犬のような仕草が、まだまだ子供だと実感させた。
「鍵だけ掛けさせてください」
角田は優しく声を掛け、床へと放り出された鍵を拾い、表に掛ける。
それを待ちかねたかのように、栄太がキスをしてきた。
しっかりと舌を絡ませ、吸い上げてくる。それはそのまま栄太の豊富そうな経験を物語っていた。
角田はされるがままに受け止める。最後に風俗にいったのは何時だっただろうか。
恋愛ごとはとうに諦めたが、普通に性欲はある。
が、それも角田の年では年に数度がいいところだ。
魂ごと持っていかれるような、熱心な口付けを受けたことなどあるわけも無い。
「上、行こう」
熱い吐息と共に囁かれ、角田はため息と共に栄太を階段へと伴った。
作業場を通り、鍵を掛ける。
店の品は注文を受けた時点で預かりものだ。若い男との恋愛に溺れて施錠を忘れたなどということになれば申し訳がたたない。
「汚いところですが」
階段を上ったところは、角田が子供の頃からの家族の住まいだ。台所と続きの居間。父母と角田自身の狭い部屋。
もっとも、角田しか住んでいない現在では、台所と続きの居間へベッドまで持ち込んでいる。
「シャワー浴びてきます」
キョロキョロと周りを見回していた栄太がうなずいたときには、角田は既に風呂場へと姿を消していた。


「本気か、俺は」
角田は風呂場の扉に寄りかかると、そのまま脱衣所の床へと座り込む。
力が抜けた。栄太のような若い男が、あんな目で角田を見るとは考えも及ばなかった。自分さえ手を出さなければ、大丈夫だと思っていたのだ。
角田が溺れている自覚はあった。
そう、溺れていた。栄太が店を訪れるたびに、浮き立った気持ち。
「これじゃ、シゲに指摘されても仕方が無いな」
三つ揃いを脱ぐ。脱衣所だから、ハンガーは置いてない。
「チッ…、」
自分の失態に思わず舌打ちする。普段ならスーツは脱いで脱衣所に入るのだ。だからといって、栄太が待つ居間へ戻る気にはなれなかった。
仕方なく、ワイシャツだけは洗濯機に放り込み、スーツは洗濯機の上に乗せる。
シャワーを浴びようとして、ハタと気付いた。
「俺が女役ってことか?」
ガタイのデカイ厳つい顔つきの男が、あのスレンダーな女にモテそうな青年に抱かれる。
想像するのも馬鹿馬鹿しくなった角田は、頭からシャワーを浴びた。
隅々まで身体を洗い、逡巡した後に、後腔へと手を伸ばす。
自分だとて知識がある訳では無いが、そこを使うらしいことぐらいは知っていた。


角田が出てくると、捨てられた子犬のような目をして、栄太がこちらを見る。
その瞳に、角田の心臓が跳ねた。
「お待たせしました。金沢さまもシャワーを」
「金沢さまっていうの、止めてくれ!」
栄太が声を荒げて立ち上がる。そのまま、角田は腕を掴まれてベッドへと倒された。
「アンタの中で、俺は客のまま? アンタ、客ならこんなことさせるの?」
「そんな訳ありません」
腰に巻きつけたタオル越しに、股間を刺激される。そうしながら、栄太は首筋や胸に吸い跡を残していった。
角田が考えていた通りに、女の子との経験は豊富そうだ。
「栄太って、呼んで」
甘く低い声で囁く。腰に来る声というのはこういう声のことを云うのに違いない。
角田はつらつらと考えながら、意識を持っていかれることを避けていた。
それに焦れたのか栄太が乳首に噛み付いてくる。
「痛ッ、」
「痛かった? ごめんね」
悪戯っぽい栄太の笑みを見るまでも無く、わざとやったのは判った。そのまま舌で噛んだ場所を舐め、転がす。
「角田さん、ねぇ。栄太って呼んでよ」
強請るような声に、角田は負けた。いや、最初からそうするつもりだったのかもしれない。
こんな身体で栄太が満足してくれるのならば、お安い御用だ。
「栄太、くん」
呼びかけた声は、掠れた男独特の太い声。だが、今の栄太を熱くさせるには充分な声だった。
「角田さん。いい?」
耳もとで囁いた栄太に、角田は首を振る。
拒否されたと思ったのだろう。栄太の瞳が曇った。
「名刺、渡しましたよね?」
栄太くん? と掠れた声が誘う。
「澄夫、さん?」
戸惑いながらも名前を呼ぶ栄太に、角田は笑いかけた。
栄太が二度と自分には向けてくれないと思っていた、あの笑顔。栄太のことを慈しんでくれるような、包み込むような笑顔。
「澄夫さん、俺、貴方が好きです」
「順番がなってませんよ。栄太くん」
告白は最初にするものだと角田が諭した。
「ベッドに入ってからなんて、マナーが悪すぎです」
「じゃ、澄夫さんが俺に教えてよ」
大人になる為の大事な授業は、決して学校では教えてくれない。二人で顔を見合わせて秘めた笑いを漏らす。
「では、キスから順番に」
角田に誘われるまま、栄太はその唇をついばんだ。段々と深くなっていくそれを、角田も止めようとはしない。
「次は?」
唇を離して囁いた、悪戯な年下の恋人を、角田は抱き締めるように腕を伸ばした。


「おい、スミ。無用心だぞ。裏口開いてんじゃねーか」
とんとんと階段を上ってくる音に、角田はがばりと起き上がろうとして、果たせなかった。
双方とも素人の為、繋がるのにかなりの努力を要したのである。
慣れない動きで、角田の腰は疲労困憊の状態で、かなりの痛みがあった。
「栄太くん、起きてください」
「んー? 何?」
ごそごそと布団に懐く恋人は起きてくれそうに無い。
仕方なく、布団を上に被せた。
「いるんだろ?」
寸でのところでシゲが顔を出す。
「勝手に上がってくるなよ」
「店の準備の時間なのに、店は開いてねーわ、勝手口は開いたままだわ。心配すんだろ?」
「ちょっと腰が痛くて寝てただけだ。どうせ、珈琲呑みに来ただけだろ? すぐに行くから、下行ってろ」
普段ならとっくに目が覚めている時間なのに、寝過ごしていた。店はしっかり施錠したが、どうやら階段下の勝手口は開いていたらしい。
店を開ける時間まで間が無い。このままだと、シゲどころか近所にまで心配されそうだ。
角田はそろそろと起き上がり、身支度を始めたが、シゲはまだ下へと降りようとしない。
「お前、何を」
シゲの視線はじっとベッドの上に注がれていた。布団の中がもぞもぞと動いている。
「流されちまった訳ね。珈琲はいい。若い恋人相手に頑張ったんじゃ、確かに腰も痛いだろうよ」
盛大なため息とともに、シゲが扉を閉じた。
まぁ、いつかはバレるとは思っていたが、昨日の今日は早すぎる。少しだけ動揺しながらも、角田は優しく恋人を揺り起こした。
「栄太くん。仕事はどうするんですか?」
「今日は日曜日だよ? 澄夫さんは仕事?」
眠そうに目をこすりながら、身体を起こす栄太は昨日の名残はまったく無い。まるで子供だ。
「ええ。店に出ます。残念ですが」
「うん。俺、仕事中の澄夫さん好きだよ。カッコイイ」
幸せそうな笑みを浮かべる可愛い恋人の素直な褒め言葉に、角田は思わず照れてしまった。
「いってらっしゃい」
「いってきます」
いってきます。そう云って店に出て行く父親の後姿を見送っていた自分が、今度は見送られる。
今だけかもしれない。若い栄太はすぐにこんなオヤジには飽きてしまうかもしれない。
それでも。
階段を下りて店に出た。三つ揃いのスーツに乱れが無いか、姿見で確認する。
栄太に見せる自分は、いつでもカッコイイ大人の男でいたい。

角田は夜の気だるさを払うようにスクリーンを開けて店へと光を入れた。
鍵を開けて、店の扉を開く。
カウベルが鳴った。本日、最初のお客様だ。
「いらっしゃいませ」


<おわり>

これにて「西銀座一丁目テーラー角田」は終了です。
感想などいただけると嬉しいです。

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~ Comment ~

Re: 佐野さま

不安を抱えた角田と、若さで突っ走った栄太。
これからも不安はあるとは思いますが、幸せになって欲しいですね。

シゲ。今回一番の人気キャラは彼でした。
出来る男ですが、実は不器用な友達思いの男です。
そこは次回書く機会があれば。
[2011/01/22 13:21] 真名あきら [ 編集 ]

角田さんが流されてくれてよかったです^^
若さとか勢いって大事ですね。
物語がどんどん展開していきますし。

そして しげさん!!!
何故かすごい好きです。
どことなくできる男臭がするから?
[2011/01/21 01:18] 佐野 [ 編集 ]















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