スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
*Edit TB(-) | CO(-) 


整形美人・2<3> 

「真田?」
居間に入ってきた松平が、怪訝そうな声を上げる。
当たり前だ。このところ、松平と顔を合わせないようにしていたはずの俺が、何故か居間で呑んだくれているのだから、松平にしてみれば不審極まりないだろう。
「こんなに呑んで大丈夫なのか?」
心配そうに肩に触れようとした松平の手を、俺は反射的に叩き落していた。
高い音に呆然となったのは、手を叩かれた松平よりも俺だった。
「すまん。忘れてた」
忘れていたと云うのは、俺が言い渡した半径二メートルの件だろう。
俺はすっかり酔いの冷めた気分で、寝室へと引き上げた。
ごろりとベッドへと転がる。
悔し涙が溢れた。情け無いにも程がある。
認めたくなかった事実。俺は神楽くんが怖い。神楽くんだけじゃない、松平も怖い。
俺に対して、劣情を催す男たちの視線が嫌だ。
松平も神楽くんも、俺のような男そのものの躯に欲情する神経が解らない。
二人ともそういった性癖では無かった筈だ。

「真田」
松平のドア越しの声にさえ、ギクリと身を竦ませる。
「何だ?」
つっけんどんな声をあげ、涙を拭ったとき、ドアが開いた。
「お前、何があった?」
「な、何も無い。出て行けよ、俺にはお前と話すことなんか無いって云ってるだろう!」
今までならば、俺が拒絶を示すと、すぐに松平は引いてくれていた。だが、今日の松平は手を伸ばせば届きそうな位置にいて、俺は知らず後じさっていた。
「お前に無くても俺にはある」
抱き締められて、ぞくりと身体の芯が震える。
「もういい加減にしないか?」
松平が耳元で囁いた。
「誤魔化すのは無しだ。俺はお前が欲しい。もう俺たちは…」
「云うな!」
耳を塞ぎ、怒鳴りつける。その続きは聞きたくない。
「離せ! 俺に触るな!」
「誤魔化しは止めろ。お前だって判ってる筈だ。真田、もう俺たちは友達じゃない」
聞きたくなかった言葉に、俺は首を振る。
「俺を受け入れろ。そうすれば、俺は傍にいる」
「信じられるか!」
何を思ってそんなことを言い出すんだ。
「真田、判ってる。お前は俺たちが怖いんだ。神楽くんも俺も。当たり前だ、俺たちはお前にそれだけのことをした。云っただろう? 責任は取る」
「そんなことはしなくてもいい!」
見透かされていたことに、俺は激しく動揺した。足の震えも顔色も俺は隠し通していたと思っていたのに。
「離せ! 今なら間に合う。俺は…」
松平の意図を感じ取って、俺は手を外そうと試みた。
「本当に嫌なら殴れよ。お前なら簡単だろう?」
「離せって云ってるだろう! 俺が殴ったら、お前なんぞ吹っ飛ぶぞ!」
そして、松平はそのまま俺に背を向けるだろう。
俺が女房と別れたときも、松平はずっと傍にいてくれた。
高校のころから二人で共にいた。大学になって、それに松平のひっきりなしに変る女と、元女房が加わった。女たちは松平のストレートな言動に去るのも早い。俺の女房も去っていった。
「貴方の傲慢なところも好きだったわ。でも、友達なら我慢できたけど、旦那としては我慢できない」
出て行った女房から掛かってきた最後の電話の言葉が甦る。
俺が俺である限り変れない。
松平はそのとき、どうする?
「お前が好きだ」
ベッドに組み敷かれ、俺の肩に松平の頭が埋められた。松平の着けている柑橘系のフレグランスの匂いが鼻につく。
「や、めろ。頼む、止めてくれ。離せ、ッ」
「往生際が悪すぎだ。何が怖い? 俺か? じゃないだろう?」
松平が静かに俺を見下ろした。押さえ込まれたまま、俺は呆然と松平を見上げる。
「おま、え」
「伊達に十年以上お前の隣にいる訳じゃないぞ」
俺が松平を知っているように、松平は俺を知っていた。
だが、その良く知っている男は、知らない顔をして俺を見下ろす。男の貌で。
「俺の何処がいい? お前は男なんか好きじゃない筈だ」
「他の奴ならな。お前の骨格は前から気にいってたぞ。すばらしくバランスがいい」
俺の質問に、松平が返した答えは、実に松平らしいもので、俺は逆にホッとした。
ここまで来ても、松平の基準は変ってない。
「筋肉つけすぎだ。せっかくの骨格が台無しになってる」
鎖骨のあたりを撫で回す松平の目は、すっかりイッちまってる。いつも通りのフェティッシュぶりに、俺はすっかり我に帰って、遠慮なく松平を蹴り倒した。

NEXT

FC2 Blog Ranking
完結小説一覧

スポンサーサイト
*Edit TB(-) | CO(-) 


Back      Next

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。