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冬企画参加・穏やかなとき<憧憬の王城> 

BL観潮楼冬企画参加作品です。お題は「冬のたからもの」。参加作品一覧はこちら
忙しさに紛れてかなり遅い参加ですが、何とか書き上げました。

異世界のためチョコレートのアイテムはありませんが、バレンタイン近いということで、甘い恋人たちのひとときです。

【穏やかなとき】

チラつく白いものに空を見上げた。
冬の降雨の少ない乾いた山城では見ることの無かった景色。
「雪か」
空を見上げて男が呟く。
懐かしい感覚だ。ここに異邦人として訪れてから、男が過ごした山の砦のような小国は、夏に時折スコールのような雨が降る以外は、乾いた土地だ。
湿った空気を含んだ重い雪は、男の故郷の汚れた空気の匂いはしない。
「当たり前だな」
ここには機械もそれを作る工場も無い。魔術と剣とそれぞれの国を収める王や領主がいる。
それぞれの国にそれぞれの理があり、それを護る術師がいるのだ。

「セイ。パイが焼けたよ。持っていくかい?」
この街へ落ち着いて数ヶ月。馴染みになったパン屋の親父が声を掛けてくる。
「パイ? 焼き立てか? 今日は何だ?」
「かぼちゃとりんご。どっちにする?」
りんごとかぼちゃは、異邦人の誰かが持ち込んだものが、上手く根付いたらしい。
異邦人たちの暮らすこの街では、自分がここにとっての『異邦人』であることを忘れそうになる。
石窯しか存在しないここでは、男の故郷では贅沢品だった筈の、手間の掛かったパイがお茶菓子だ。
「かぼちゃ貰おう。二つな」
「おう。王様の口に合うといいけどな」
王様と云うのは、男の共に暮らす相手のあだ名だ。
二人でここに落ち着いたが、何処と無く王者の風格が漂うと云うので、皆がそう呼ぶようになった。
筋骨逞しい体躯、堂々とした態度と鋭い眼差し。垣間見せる深い教養と知識。
それにならず者が街に紛れ込んできた際に見せた、見事な剣技。
そして、それを後ろで見守っていた男の、落ち着きはらった態度。
誰が云うとも無く、あの二人はどこぞの国のお忍びの王様と御付だとか、跡目争いに敗れて追われた貴族と執事だと云う噂が流れた。
当たらずとも遠からずの噂に、男はクスリとこみ上げる笑いを抑えきれない。
見掛けによらず、甘いものに目が無い相手の、喜ぶ顔を思い浮かべながら、家路を辿る。
ちらつく雪は、傘をさすほどでは無いが、マントの前を掻きあわせる程度には降りつもっていく。
足元を取られないように気をつけながら相手の待つ部屋へと向かった。


「セイ」
扉を開くと、窓際のカウチに腰掛けていた男が笑い掛けてくる。
「アデイール。寒くないか?」
男は自分の国にいたときと同様に、まるでショールのような毛皮を上半身にまとわり付かせただけの格好だ。下はきちんと着こんではいるが、見ているこちらが寒くなりそうだ。
「獣は寒いからと云って服なんぞ着込まんだろう?」
「確かにな」
男は笑って、テーブルの上にパイを並べる。
厨房で貰ってきた湯で、茶を煎れた。ふわりと花の香りが部屋に広がる。
「かぼちゃパイか。美味そうだ」
立ち上がり、テーブルへと着く。その仕草も威風堂々としていて、やはり王として育てられた者は違うと男は思った。
小さな部屋がいくつかあるだけの街の下宿。
そんな粗末な部屋でも、アデイールは変ることがない。
小国の王として育った男は、自分の跡を早々に育てた子供に譲ると、セイと二人で山を越えた場所にある異邦人たちの暮らす街へと移り住んだ。
そろそろ老齢を迎えるセイと、ゆったりと穏やかに暮らすための選択。
王としての手腕を振るうには、まだ充分に若いアデイールのその選択に、セイは少しだけ心が痛む。
自分を選んだことで、アデイールには負担を掛けているのでは無いだろうか?

「どうした? 随分と暗い顔をしている」
アデイールが手を伸ばして、セイの頬に触れた。少年の頃から知っている男は、今、大人の顔をして自分を気遣う。
「アデイール。後悔してないか?」
「何が?」
本当に訳が判らないという顔をして、アデイールがセイを見た。
「俺を選んだ所為で…」
言葉を塞ぐように、唇にアデイールの指が掛かる。
「俺の我侭だ。セイを独り占めしたい。もう仕事や一族の子供たちや近衛の兵にセイを取られたくない」
「取られるって、城にいる以上、仕事はしなきゃ仕方ないし、子供たちを育てるのも近衛と護りを固めるのも俺の義務だろう?」
セイはセスリムと呼ばれるアデイールのパートナーだ。城の奥向きを取り仕切り、王が出撃した後の城の護りを固めるのは政務としてやらねばならないことだ。
「だから、だ。城にいたら俺だけのセイじゃない。王とセスリムでしかない。俺は俺だけのセイが欲しい」
甘く見つめる瞳が何を物語っているかなど、聞かなくとも判る。
もう老いていくだけの自分を求めてくるアデイールに逆らう術など持ってはいない。
「獣は寒いときには寄り添って暖めあうんだ」
子獅子が親に甘えるようにもたれ掛かるアデイールに誘われるまま、ベッドへと倒れこんだ。
若くは無い身体に掛かる負担は知っているが、それよりも今はこの獅子を甘やかしたい。
腕の中で全て許して受け止める。
重なる体温が心地いい。
降り積もる雪の中、暖めあう腕と、温かな食事と穏やかな時があればいい。
それだけで、何もいらない。


<おわり>

アデイールと誠吾にとっての冬のたからものは「暖めあう腕」でした。
「憧憬の王城」本編はこちら

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~ Comment ~

Re: 柚子季さま

20の年の差を誰よりも感じてるのはアデイールだと思うんです。
だから、早く二人だけになりたかったんだと。

でも、そんなアデの心、セイ知らず。
[2011/02/17 22:18] 真名あきら [ 編集 ]

ふああぁあぁあぁ!!!!!
なんか、なんか、幸せなのに切ないです(涙)
でもそうですよね、セイは確実にアデイールより先に年を取るわけで…。

久々の2人の甘いひと時、嬉しかったです!
[2011/02/17 15:44] 柚子季 [ 編集 ]















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