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水の魔方陣・焔の剣<9> 

「蒼のッ!」
気付いたリベアが声を上げる。が、動くことは出来なかった。
一歩でも動けば、リベアはすぐに魔物の爪に切り裂かれてしまうだろう。

ネイストが力任せに、魔物の爪を弾き返す。後ろに倒れるそれを、ゼルダムが切り裂いた。
「チッ!」
ゼルダムが駆け寄ろうとするが、到底、間に合わない。
水のつぶては、まるで氷の塊が降るような音を立てて、リベアたちの頭上にも降り注いでいた。
リベアが、魔物の足を払うように切り掛かる。
飛び退こうとした魔物は、頭上から降り注ぐつぶてに、身を弾かれ、その場へくず折れた。
払った勢いで飛び退きはしたものの、リベアのこめかみを血が伝う。
つぶてはリベアの頭を掠めていた。


「魔術師のいない人間どもなど、我らの敵では無い」
甲高い高笑いが頭上から響く。勘に触るそれを、リベアはぐっと睨み返した。
赤い瞳の美女が、明かり取りの高窓に立って、自分たちを見下ろしている。禍々しい美しさは魔物の証だ。
つぶての雨の向こうに、ゼルダムとネイストが霞んで見える。
「お前たちの魔術師は、もう死んだ。これから先、お前たちを助けるものなどいない。さっさと逃げ帰るがいい」

お前たちの魔術師――――蒼のソルフェースが、死んだ?
あの傲慢で自信に満ちた男が?

リベアは、そんな筈は無いと、つぶての雨の向こうに目を凝らす。
倒れているのは二人。ゼルダムと自分が切った魔物たち。
立っているのはリベア自身と、ゼルダムとネイストと………。

「蒼、の?」

喉から搾り出す声が掠れた。
「蒼のソルフェース! ソルッ!」
そう呼べと云われた呼び名を、リベアは声を限りに叫ぶ。

「そう叫ばずとも聞こえる」
のんびりとした声は、だが、はるか上方から響いてきた。
「ソルフェース!」
リベアは声のする方を振り仰ぐ。高窓のはるか上に、ソルフェースの身体が浮いていた。

「リベア。どうする? この女」
ソルフェースの瞳には剣呑な光が浮かんでいる。
つぶての雨はいつしか止んでいた。女は燃えるような瞳をじっとソルフェースに当てている。それは自分の敵はソルフェースのみだと告げているようだ。
「邪魔だな」
リベアが吐き捨てるように呟く。
既に、足は石段の先へと向かっていた。
ゼルダムとネイストがはっとしたように、それに続く。
塔を囲むように伸びている石段は、螺旋状に続いている。振り向きもせず、それを上っていたリベアが、ふと歩みを止める。
こつこつと誰かが歩んでくる足音が響く。
ゼルダムとネイストが柄に手を掛けるのを、リベアが制した。

「蒼の――――」
リベアの呼び掛けに応えるように顔を出したのは、確かに蒼の魔術師の秀麗な顔だ。
「あの魔物はどうした?」
ゼルダムが問い掛ける。そう不安になってしまう程、ソルフェースの雰囲気は鋭い氷の刃の様だった。
「我が騎士のご命令の通りに」
ソルフェースは、先の魔物の女より禍々しい笑みをたたえて、リベアの前にひざまづく。
それを受けるリベアの顔は、子供がはぐれた親に巡り会った時のような、あからさまにほっとした表情を浮かべていた。

ゼルダムは二人の浮かべた裏腹な表情に、背筋の寒くなる想いを禁じえない。
この男はやはり危険だ――――。
ゼルダムは柄を握る手が汗ばむのを押さえ切れなかった。



魔物たちのかすかな気配は消えた訳では無い。まとわりつくようにねっとりとした殺気が送られてくる。だが、行動を起こそうとする者はいなかった。
ソルフェースの剣呑な雰囲気と、その強大な魔力に恐れをなしているのは自明の理である。
今や、リベアは絶対の信頼をこの魔術師に寄せていた。
ネイストですら、その圧倒的な力の前に、皇女を救うのには必要な力だと認めているようだ。
それを苦々しく思いつつも、ゼルダムは一行を離れる気にはなれない。皇女が兄とも慕った騎士を見捨てるつもりも無いし、単独行動は危険だ。ここは何と云っても、この黒の森の魔物たちの巣窟である。
それに、この魔術師の探し物が何なのかも見極めるべきだろう。
文献通りならば、この城に在る筈の剣。この城の主を封じる為に必要な――――。

ぼんやりとたいまつのような明かりを放っていた光の剣が、ゼルダムの手の内で震える。
頭の中に語りかける声にならない声は、確かに己の手にした剣のものだと解った。

「こっちだ」
ゼルダムは剣の示す方向へと歩き出す。
しばらく歩くと、剣は壁の内側を指し示して、止まった。
「魔術の鍵だな」
ソルフェースが呟く。
「魔術の鍵?」
リベアがどういう意味だと云う視線を向けた。
「ここに扉はある。見えないだけだ」
「魔術の目隠しか。ここの主はとんでもない魔術師らしいな」
「魔術師と云うよりは、魔王と云うところだろうがな」
リベアとソルフェースの会話に、ゼルダムはごくりと唾を飲みこむ。確かに、黒の森の魔物の主だと云うなら、魔王というのが相応しいだろう。
それに反旗を掲げたのはたった四人。魔術師一人と三人の騎士。しかも、信用できそうにも無い魔術師と来ては。ゼルダムのいかつい顔には、困惑しか浮かんで来なかった。

ソルフェースの呪言で、ゼルダムは我に帰る。
ソルフェースの手の平の上には、絡まった水の糸があった。
手の内で光の剣が叫んでいるのが聞こえる。
自分の仲間を呼んでいる。
ゼルダムは、無言でその鍵を断ち切った。

ソルフェースの手のから、砂となった鍵が零れ落ちる。
解けた檻の向こうには、確かに扉が出現していた。
ソルフェースが扉に手を掛ける――――その瞬間、遠巻きにしていた筈の魔物たちが反応した。
何かを恐れるように殺到してくるそれを、いち早く迎え撃ったのはリベアだ。
「ソルッ!」
リベアが呼び掛けるまでもなく、既に周囲には守護陣が敷かれている。
それを確信しているリベアは、そのままなぎ倒すように魔物たちに飛び込んでいった。
爪をかわし、攻撃を避け、一人ひとりを屠っていく。
それは、背中に絶対の信頼を置いているからこその戦いだ。
ゼルダムとネイストもそれに続く。
ただし、ゼルダムだけはネイストとリベアの背後を護るような位置で戦っている。ゼルダムにとって、今やソルフェースも潜在的な敵だった。


廊下に血臭が立ち込める。
三人の騎士は肩で息をしていたが、休むことは許されそうに無い。
魔物たちが異常な反応を示したことで、ここに封じられているものの価値が分かろうと云うものだ。
物理的な鍵を壊したのは、リベアの厚刃の剣だ。振り下ろされた瞬間に、扉は内側へとその頑丈な扉を開いていた。

部屋の中央に魔方陣が描かれ、そこにどんと大振りの木箱が置かれている。
魔方陣はところどころが霞んで見えなかった。
「さっきの目隠しの元だ。もう何の効力も無い」
怖々とそれを取り囲む騎士たちに、魔術師は事も無げにいい放つ。
それに意を決したらしいリベアは、蓋の打ち付けられた木箱に向かって、再び刃を振り下ろした。

ばきりと音を立てて、木箱が破壊される。
光の剣がゼルダムの手の内で輝きを増した。
木箱に横たわっていたのは、実戦的なラインの長剣だ。
それは封印から逃れた喜びからなのか、打ち震えているようにさえ見えた。
リベアは、その剣に魅入られたように柄に手を伸ばす。
その柄はリベアの手にしっくりと馴染んだ。
「リベア。それはお前の剣だ」
「ソル?」
「それは焔の剣――――水の属性のこの塔の主を封じるのに相応しい剣だ」
「焔の剣」
手に馴染んだその剣を、リベアはしっかりと握り締める。
「これで、皇女が救える」
リベアの瞳には、強い決意の光が浮かんでいた。だが、それを見るソルフェースの目が笑っていないのを、ゼルダムは看破していた。
それは、リベアに惚れているというソルフェースの嫉妬なのか、それとも――――。
ゼルダムには判らないことだらけだが、あたって欲しくない不吉な予感だけが、この隣国から来た身分の高い騎士の頭を占めていた。


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