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夜明けを過ごす<番犬の憂鬱> 

春イベント用の書き下ろし無料配布SSがUPしたので、冬のイベントの無料配布公開。
新年を迎えた真幸と上総の離れ離れの夜明け。


【夜明けを過ごす】


遠くに除夜の鐘が聞こえた。
「あけましておめでとう」
「ああ。今年もよろしく」
新宿のバーのカウンターで、巨漢のマスターと細身のバーテンダーが新年の挨拶を交わした。
騒ぐような類の店では無いので、あちこちでひっそりと挨拶が交わされる。
殆どがカップルか、もしくは友人同士だ。ちょっと違うのはこの店にいるのが100%が男であると云う事実だ。
ここは新宿の三丁目の外れに位置する『エルミタージュ』という名のゲイバーである。
「ん。もう新年明けた?」
カウンターに伏せていた男が、がばりと起き上がった。
目元の泣きボクロが色っぽい。頭を振って目を覚ます。
殆どの客が、二人連れか三人連れであるのに、その男は珍しく一人だった。
「カズくん、遅いですね」
酔い覚ましに冷たい水を差し出してバーテンダーが問う。
男は昔からの常連で、結構酒癖が悪く、トコトンまで呑むタイプだったが、恋人が出来てからは大人しくなった。
いや、もちろん酒に弱いのも、浴びるように呑むのも変りはしないのだが、それでも抱えたままタクシーに乗せる様なことも、眠ったまま朝まで店で過ごすようなことも無くなった。
「カズは実家。どうせ親不幸する羽目になるのは判りきってるからな。就職の報告くらいには行けって云ったんだけど」
「就職決まったのか、今度連れて来い。一杯くらいなら奢るぞ」
マスターが朗らかに笑う。マスターと男はこの店が出来る以前からの友人だ。
「ああ。そうする。今日はもう帰るわ」
ふらりと男が立ち上がる。多少、酔っている風ではあるが、歩き方に危なげな感じは見当たらない。
数枚の札をカウンターに置いて、男は手を振った。
「またどうぞ」
バーテンダーの涼やかな声に見送られて、男は扉を潜る。
外の空気はひんやりとしていて、酔った身には心地良かった。
大晦日の深夜なら、まだ零時過ぎてもまだ電車は動いている。
ゲイであることがばれて以来、実家とは疎遠な生活を送っていた。一人暮らしの家に帰っても、恋人はいない。
未だ続いている除夜の鐘を聞きながら、急ぐ必要も無く、駅への道を辿る。
改札を通り抜け、ホームに上がると、ホームは既に人で一杯になっていた。おそらくはこれから初詣にでも向かうのだろう。
満員に近い状態で電車に揺られる。私鉄に乗り換えても、人の多さは相変わらずだ。
最寄り駅で降り、大通りを渡った場所に男の住むマンションがある。
部屋へともどり、窓際に置いたソファに陣取る。
いつも、年下の恋人が眠るそこに寝そべった。
窓の外にはまだ明けない夜がある。
後数時間もすれば、東京湾に浮かぶ埋立地の向こうから初日が昇ってくるのだろう。

「アイツ、今頃は家族と一緒か?」

母親と共に初詣だろうか。それとも弟たちと一緒だろうか。
料理上手な恋人の作ったオードブルを肴に、ブランデーを開けた。

このまま朝日を待つのも悪くない。
グラスを傾けていると、メールの着信音が軽快に響く。
『明けましておめでとうございます。
 今年もよろしくお願いします。
 明後日には帰ります。
 浮気しないで待っててください』
クスリと笑いが漏れた。
自分のアパートへでは無く、自分の元へ帰りますと云ってくれる恋人。
これから、ずっと一緒に過ごしていく相手。

「あけまして、おめでとう」
見えない恋人へ、グラスを掲げて新年の挨拶を交わす。

そんな新しい年の一日。


<おわり>

いつも通りに過ごす平凡な幸せ。相手が隣にいるのが当たり前のそんなひと時。
それが何にも増して大切なひと時だと、私たちは知っています。
震災にあわれた方に、そんなひと時が訪れますように。

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