スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
*Edit TB(-) | CO(-) 


春日部長の日常<1> 

今回はちょっとコメディタッチで。
怒鳴りながらも面倒見のいい部長と、入社二年目の駄目駄目社員君の成長(?)物語です。

なお、登場人物はまったくのフィクションですが、仕事のボケはノンフィクションです。


【春日部長の日常】
<2> <3> <4> <5> <6>
<7> <8> <9> <10> <11> <12>
<13> <14> <15> <16>完


「前村くん、江尻鋼業さん」
電話を取り次いだ鹿間が呆れたような声を上げたのも無理は無い。前村宛の江尻鋼業の電話は本日五回目だ。
「はい、前村です」
入社二年目の前村は、とにかく気が利かない。猫の手も借りたい時期に入ったのが災いしてか、業務に追われて、抜けが多い。
『お世話になっております』くらいは云え!と怒鳴りたい気分に駆られるが、一応、下請けとの電話中だと、自分を押しとどめた。
「あ、はい。え? 入ってませんか?」
今度はぱらぱらとファイルをめくり始める。
「ええ~~~と、あ。すみません、手配してませんでした」
やっと目的のものを見つけたらしい、前村の能天気な返事に、その場にいた数人が一斉にため息を吐く。
「はい。そうですね。じゃ、いつだったらいいですか?」
前村の能天気な応答を聞いているだけで、なんとなく流れが判ってしまうのがうんざりする。
「あ、はい。判りました。すみません」
電話を切った前村は、でかい図体を縮こまらせて、俺の前にやってきた。
「すみません、部長」
「すみませんから、話をはじめるな。で?」
俺がギロリと睨みつけると、前村のデカイ身体がますます小さくなる。
「センシティアさんの急ぎのスリット材なんですが、今日、江尻さんに引き取り掛かっていたんですけど…」
「出来ないのは電話を聞いてて判った。原因は何だ?」
朝一で読んでいた業界新聞が、俺の手の中でぐしゃぐしゃに丸まっていくのが判った。
「原料コイルの手配、漏れてました」
「ばっかやろう!」
俺の手に収まった新聞が、スパーンといい音を立てて前村の頭をひっぱたく。
「今日、原料入れて、当日加工で当日引取り。どれだけ無理云ったかわかってんのか? ああ? それを忘れただと!」
「すみません」
しゅんとなってみせるが、まったく堪えていないのはこっちも承知している。
堪えていれば、あんなに何度も同じ失敗を繰り返す筈が無い。
「いい。とっととコイルの手配をやれ。江尻さんには俺から頭を下げる。俺の原料コイルが入ってただろう。取り合わせ変更してもらう」
「はい!」
失敗の取戻しが利くと判ると、途端に元気一杯に返事をした。この現金さが、憎めないのか憎たらしいのか。
俺はため息を吐いて、電話を取った。


「掛かってくると思ってました」
語尾にハートマークでも付きそうな勢いで、下請けの女性社員がにっこりと笑った声で、怒っていた。
まぁ、当たり前だろう。俺が下請けならとっくにキレてる。
江尻鋼業なんぞは、まだ根気強く前村に付き合ってくれている方だ。
書類の送り忘れ、配車の手配漏れ。手配違いや重量の調整。ちょっとでも可笑しいと思うと、全て電話が掛かってきて確認してくれる。
「春日さんの原料コイルで加工の変更利きます。その方が歩留まりいいし、もっけの幸いでしょう。今日のラストの加工ですけど、引取りの車、そのまま待たせます? それとも明日の朝一にします?」
口調が厳しいものにがらりと変わった。
「明日の朝一引き取りに変更します。発注書はすぐにFAXします。よろしくお願いします」
見えない相手に頭を下げる。条件は良すぎるくらいだ。これは工賃アップを迫られるかもしれない。
「判りました。前村さんに、今日入る筈だった原料コイル、何時入るか連絡くださいとお伝えください」
遠まわしに云っているが、要するに『今度こそミスるんじゃねーぞ』という脅しだ。
「判りました。ありがとうございます」
もう一度頭を下げて電話を切り、発注書の直しをFAXする。
俺の顧客の分に、まだ余裕があったのが幸いだが、いつもこうとは限らない。
「前村!」
「は、はい!」
俺の怒鳴り声に、びくっと身体をすくませた前村が俺の前に立った。
「いいか。コイルの手配漏れ分、さっさと手配しろよ?」
「もう、やりました」
晴れやかな笑顔で答える。おお、前村にしちゃ気が利いてるじゃないか。
「明後日の朝一しか取れなかったんですが、良かったでしょうか?」
「ああ。よくやったな」
珍しく対応が早かったことを手放しで褒めてやる。例え、それがもう入社二年目で顧客がいるのであれば、当たり前の対応だとしても、人間怒られてばかりではやる気を無くすというものだ。
「前村くん。江尻鋼業さんからお電話」
行けと手で示して、電話を取らせる。
「はい。あ、すみません。すぐに送りなおします」
今度は何だ? 前村がせっせと書類を書き直しているのを見て、手元を覗き込んだ。
さっき、手配しなおしたコイルの発注書だ。俺のと内容を入れ替えした筈だが、見事にそのままで、材料の納入日だけが直されている。
それじゃ、意味無いだろうが。下請けに指摘されんと気づかんのか。このアホは。
「前村ーーーー!! この大ボケが!」
俺の怒鳴り声と共に、手にした書類の束が前村の頭をひっぱたいた。
これが、村田商事・鋼材部のいつもの日常である。

NEXT

FC2 Blog Ranking
完結小説一覧

スポンサーサイト
*Edit TB(-) | CO(-) 


Back      Next

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。