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春日部長の日常<3> 

日曜の朝。
さわやかな晴れの天気で、俺はとっとと洗濯を済ませた。
離婚してすぐは、身の回りの世話を誰もやいてくれないことに慣れなかったが、元々一人暮らしが長かった所為もあって、身体が思い出すのに数ヶ月を要したが、何とかペースを取り戻すことが出来た。
金曜の夜にたんまりと残業して、土曜の朝は惰眠をむさぼり、昼から会社へ顔を出して溜まったFAXの処理をするか、誰かが休日出社しているようなら、飲み物でも差し入れるかというところだ。
日曜はゆっくりと家で洗濯や掃除をして、買い物に出掛けるか、映画でも見に行くのが精々だ。
無趣味な上に、パチンコも競馬・競輪のたぐいもやらないので、精々、DVDを見るか本を読むかというのが休日の潰し方になる。
ただ、昨日はあまりに胃が痛んで、家でだらだらと過ごしてしまった。
仕方が無いので、洗濯の後に会社へと出掛けることに決め、途中のカフェで朝食を取る。
ここのカフェはお気に入りだ。
俺の偏見かもしれないが、カフェというと、やたらと綺麗に飾り立てた女性が喜ぶようなちまちまとしたメニューが多いが、ここはがっつりと食える系のものが揃っていて、男性客も多い。
今日もしっかりとクラブサンドセットを頼み、腹を満たす。
それから腹ごなしを兼ねて、会社へと徒歩で向かった。
数キロある道のりだが、別に急ぐわけでも無い。単に月曜の朝に溜まったFAXとメールの処理を一気にやるのが嫌なだけだ。
裏口の鍵を開けようとして、すでに開いていることに驚く。
土曜であれば、休日出社の連中が誰かしらいるのも珍しくないが、日曜までとは滅多に無い。確かに圧倒的に人数が少ないこともあって、仕事は常に追われがちだが、日曜まで出なければならないほどの急ぎの案件は無かった筈だ。
一体、誰が出ているのかと出社のボードに目を走らせるが、そこにも札は掛かっていない。
だとすると、完全に無断で出社の類だろうから、俺のような管理職か、月曜に出先直行の営業かだろう。
「ご苦労だな。後で差し入れでもするか」
誰か出ているとは考えてなかったので、自動販売機のコーヒーくらいしか無いが、それでも気持ちというものだ。
「痛ッ!」
「すまん」
鋼板部のドアを開くと、誰かにドアが当たったらしい。小さな苦鳴に俺は反射的に謝った。
顔を上げると、 そこに前村がでっかい図体を抱え込んでいる。
「前村?」
どうして前村がここにいるんだ? コイツに仕事なんかあったか?
「いひゃいです。部長」
余程後頭部にクリーンヒットしたらしい。俺は悪いと思いながら、笑ってしまった。
「すまん、すまん。だが、お前も何で出社してるんだ? 残業するほど仕事があったか?」
「あ、いえ、その」
途端に前村が慌てだす。抱え込んだ書類を隠そうとする仕草はあまりにも怪しげだ。
「見せろ」
俺が恫喝するように睨み付けると、書類を背中に回した。お前はいたずらが見つかった子供かよ。
「見せろ」
もう一度云うと、渋々と前村が書類を差し出した。
ぱらぱらとめくる。明日の出荷の予定表や、期限の迫った加工の書類が山になっている。
「どういうことだ?」
俺はぎろりと前村を睨みつけた。どれもとっくに相手先へ送られていなければならない書類だ。
「運送会社には?」
出荷の予定表を見ながら促す。
「金曜の夕方に…」
「ありえねぇ」
思わず本音が漏れた。金曜の夕方なんて、早い車はとうに月曜の朝一の配達分を積み込んでいる。それを変更させただと?
「この…」
馬鹿野郎と怒鳴りつけようとして、俺は前村が首を竦めているのに気付いた。すでに怒鳴られる体勢なのが情けない。
「これを何時送った?」
「今です」
意外そうに目を上げた前村が、それでもちらちらと俺の動向を気にしている。
「金曜には送れなかったのか?」
そこそこ忙しいのだから、金曜は残業だろうし、土曜だって出ているかもしれない。少なくとも日曜にFAXするよりも、相手先は早く目にするはずだ。
「忘れてました」
蚊の鳴くような声で前村が云ったとき、俺の中で何かがぶちっと切れる音がした。
「馬っ鹿野郎!」
俺の手にした出荷予定が前村の後頭部を直撃したのは云うまでもない。
「何で日曜だ! せめて土曜なら出ている会社だってある! 金曜に忘れてたなら、土曜に出て来い!」
「すみません」
いつもなら、すぐに立ち直るはずの前村が頭を上げない。
ふと、俺の手に水が垂れた。
驚いて顔を上げると、前村は声も無く泣いていた。

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