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春日部長の日常<4> 

ぽろぽろと涙を流し続ける前村を、俺は呆然と眺める。当たり前だ、何で泣かれているのかまったく解らない。
「駄目なんです」
ひとしきり泣いた後に、やっと前村が言葉を発した。
「何時まで経っても終わらなくて、どうしようと思って、どれからやったらいいか判らなくて、そのうち深夜になって、警備員さんから『いい加減にしろ』って怒られて、土曜は起きられなくて…」
仕事を大量に抱えたOLなんかにはありがちな失策だ。特に彼女らは仕事が出来るほど仕事を頼まれる量が多くなる。そういう子ほど仕事に責任感があるから、思いつめるまで仕事をやるのだ。
お局クラスになれば、力の抜き方も判ってくるし、頼まれ仕事を何処までサポートするべきかというのも解って来る。余計なものは本人につき返すくらいの度胸も備わる。
だが、それはあくまで大量にこなせない程の仕事を抱えている場合、の話だ。
前村は新人も新人。二年目になっても使えない新人だ。
そんな大量の仕事を回した覚えはまったく無いぞ。
「お前、今抱えている仕事の書類出せ」
「はい?」
しくしく泣いてた前村が、真っ赤になった目を上げた。
「全部だ。ここに並べろ!」
駄目だ。これはこいつに任せていたら、何時まで経っても仕事は終わらない。
幸い、今日は日曜だ。片付ける時間はたっぷりとある。
「これで全部です」
「他には無いか? 今日届いたFAXやメールは無いか?」
「あ。それはまだ見てません」
どうにかしてくれると感じたのか、前村はころっと元気になった。さっきまで敬語さえ吹っ飛んでいたのが嘘のようだ。
「いい、それは俺が見る」
まず、仕事に優劣を付けさせることから始めないと。こいつの頭に中にはパブロフの犬状態で仕事のやり方を叩き込む必要がある。
「納入の日付順に並べてみろ」
書類の量自体は多くない。ただし、まったくの新人だと思った場合は、確かにパニックを起こすかもしれない程度の量はあった。
「その中で、発注が終わってないものはどれだ?」
「ええ~~~~っと、」
思った通りだ。日付順に並べた書類のあちこちから、未発注の書類が出てくる。
何故一週間後の発注が終わってるのに、三日後の中にまだのものがあるんだ??
「三日後までの納期の発注を掛けろ。今すぐだ」
「はい!」
当然、やれないものも出て来る。それはあっちで調整後に伺いを立ててくるだろう。
「とりあえず、来たらすぐに発注を掛けろ。そのつもりで原料コイルも発注先に納入しろ。仕事を溜めるんじゃ無い」
もちろん、不測の事態は起こりえるが、そこまで考えさせていると、パニックになるだろう。
「ミスは仕方が無いが、報告は絶対にしろ。隠すんじゃない。手に余ったらもってこい!」
「はいっ!」
打って変わって全開の笑顔の前村に、俺は釘を刺すことは忘れなかった。
「その書類、今日中に全部片付けろよ」
「ええ~~~~、そんなぁ」
大きな図体で甘えた声を上げる前村を一顧だにせずに、俺は自席で自分の仕事を片付けることにした。


「前村、終わったか?」
「まだです」
泣きそうな声を上げる前村の頭を俺は、ぽんと叩いた。
前村は発注書を書くのに、四苦八苦しているが、机の上はだいぶ片付いていた。といっても、他の社員に比べれば半分程だ。
「俺は全部発注しろとは云ってないぞ」
「え? でも…」
「客先から注文が揃ってない奴を、どうやって発注するんだ? これは日付ごとに並べておけばいい。発注のデッドラインごとに分けておけよ。終わったら、飯食いに連れて行ってやるからな」
「へ?」
余程意外だったのか、前村がぽかんとした顔をする。
「何だ? 奢りだぞ。嬉しくないのか?」
ぱぁっと前村の顔が明るくなった。ホントに現金な奴だ。
「いえ。行きます! 肉、肉食いたいです!」
「調子に乗るな、馬鹿。まぁ、いいだろう。とっとと終わらせろよ」
まったく、調子のいい奴だ。


「ここですかぁ?」
前村を伴ったのは、駅前の商店街の一角だ。
全国チェーンの牛丼屋の前で、前村は情けない声を上げている。そのアホ丸出しな面を眺めて、俺は堪えきれずに噴出した。
「期待したのに。ひどいです。部長~~~」
情けない声を上げた前村を、これ以上からかうのは可哀想だろう。
「すまん、すまん。この上だ」
途端にうれしそうに前村が笑顔になる。仕事中はイライラする、くるくると変わる表情も見ていて飽きない。
「ステーキハウスなんだが、そう気取らない店だ。何でも頼んで良いぞ」
「ホントですか?」
「松坂牛の特上2枚とかで無ければな」
「じゃ、一枚はいいですか?」
ホントに遠慮なく頼みやがる。俺はギロリと前村に視線を流した後に、手を上げた。
「はい。ご注文は?」
「松坂牛のヒレステーキ。セットで二つだ」
首を竦めた前村の目が、意外そうに見開かれた。
「何だ? 頼みたかったんだろう?」
「何か、今日の部長、気持ち悪いです」
奢ってやってるのに、ひどい云われようだ。
「すごく、優しい」
ほわりと微笑まれて、俺は気恥ずかしさに目を逸らす。こんな風に云われたのは、何時以来だろう。
「馬鹿はご褒美が無いと何も覚えないからな」
途端に前村が頬を膨らませた。
「どうせ、馬鹿ですよ」

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