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春日部長の日常<6> 

それで前村の仕事が進むようになったかと云えば、さにあらず。
相変わらずのボケっぷりだ。
片付け方はおぼえたものの、抜けは毎日のように発生する。だが、それもささいなことだ。いくらでも取り返しはつく。
「前村くん。江尻さん」
「はい、前村です。そうですね、19日には難しいという話は聞きました。解りました、調整します」
下請けからの電話を微妙な表情で受ける前村に、これは何かあったなと検討は付けるが、口出しはしない。少しは自分で始末をつけるようになってもらわねば、意味が無い。
「前村です。お世話になってます。すみません、19日の引取りなんですが…」
取引先へと調整の電話を掛けているのを横目に、俺は自分の仕事へと意識を戻した。

「そういえば、昼間の江尻鋼業からの電話は何だったんだ?」
残業中に、ふと思い出して聞いた。こうなると、どんなボケをやったのかに興味が沸く。
「ああ、ええと。19日の引取りのコイルなんですが、発注書を流した時点で19日には難しいって話だったんですけど、そのあと何も云って来なかったんで、そのまま引き取りFAXしたら」
そりゃ、引き取れないだろうよ。俺はどっと脱力した。駄目だ、こいつは。
「松崎さんから怖い声で電話がありました。『19日に引き取り出来ませんって申し上げませんでしたかしら?』って。あの人、怖いですよね?」
あははーとお気楽に笑う前村に、俺は席を立った。さすがに呆れると云うか、冷静に話が出来そうにない。
発注時点で電話があるというのは、そうとう切羽詰っている訳だ。江尻は確かに何とかしてくれる会社ではあるが、それを期待して何もしないと云うのは、馬鹿すぎるというか、もう社会人として問題ありだろう。
江尻のお局も呆れている筈だ。
大分、マシになったと思っていたが、まだそんな大ボケをやらかしていたとは。
しかも、前村の怖いところはまったく反省が無いところだ。
自動販売機のインスタントドリップを流し込みながら、俺はさすがに冷静になれそうにない自分を押しとどめていた。
煙草をいらいらと何本もふかし、しばらくするとやっと落ち着いた気がして、部署へと戻る。
扉を開ける音に、前村が振り返った。
「ぶちょー、怒ったんですか?」
何処か舌が回ってないのは、泣いている所為だ。いきなり席を立ったのが不味かったらしい。
「部長、見捨てないでください。俺、どうしていいのか判んない」
泣きながら云う前村に、俺はふいに愛おしさがこみ上げるのを感じた。全身で頼ってくる相手を、どうして見捨てることが出来るだろう。
「いや、お前の所為じゃない」
頭にぽんと手を置くと、前村は途端に嬉しそうに笑った。
ある種、前村の所為ではあるが、それは前村の斜め上の行動を見越せなかった自分に落ち込んだ所為もある。
もう大丈夫だと、安心しきっていた自分の見通しが甘かったのだ。
「面倒みてやらないとな」
このアホは俺の監視下に置かないと駄目だ。もっとしっかり躾けなければ。
すっかりと機嫌よく仕事に戻った前村を見て、俺はそうつぶやいていた。

「美味そうだな」
「おいひいです」
焼き鳥を頬張ったまましゃべるので、どうしても舌足らずになる。
「急がなくてもいい。良く噛んで食べろよ」
「はい!」
元気のいい返事だ。会社でもくるくると表情が変わるが、それはどちらかといえば青くなったり、泣きそうな顔で謝ったりしていることの方が多い。
まぁ、あの仕事ぶりでは当たり前だが、一番多いのは怒鳴られてしゅんとなっている顔だ。
だが、こうやって二人だけの時には、本当に嬉しそうに笑っている。
「お前、毎日俺と飯食ってるが、デートしたいときには云え」
一応、気を使ったつもりで云ってみるが、前村は目を丸くして首を振った。
「そんなの、全然いませんから。まったく気を使わなくて良いです!」
いや、全然いないのが問題だろう。とは思ったが、若い女は頼りがいのある男がいいとか抜かしそうだし、こいつじゃ論外か。
目の前で焼き鳥をぱくついている前村を眺め、俺はこいつに似合いそうなしっかりものの会社の女の子たちを、頭の中で見繕っていた。

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