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水の魔方陣・焔の剣<11> 

統制のとれてはいないらしい魔物たちは、ただ、数を頼みに襲い掛かってくるだけである。それでも、上層へ近づく程に、魔物たちは強力になっていく。
ネイストなどは、爪の一閃で剣を折られてしまった。今は、リベアの剣を使っている。
「重くは無いか?」
リベアが心配そうに聞いた。返り血を浴びたその姿は鬼気迫るものがある。一瞬だけ、ぎょっとした顔をしたネイストも、優しい言葉にうなづいた。
「かなり、重いです。リベア殿は小柄なので、もっと楽に扱えると思っていましたが」
『小柄』と云われて、ちょっとだけ、リベアがすねたような顔つきになった。確かに普通の男としてはそんなに小さな体格でも無いが、大柄な体力自慢の連中が集まる国境の兵士の中では、かなり小柄に見える。
「コツがあるんだよ。反動でそのまま振り切るんだ。重さを逆に利用する」
リベアはネイストから刀を受け取ると、少しだけ振ってみせた。厚刃の刀身が空気を切るブンと云う音が鳴る。
「リベア殿ッ!」
ネイストが声を上げるまでも無く、自分の後ろの気配に向けて、リベアはそのまま刀を振り切った。
確かにいた筈の気配の主は、リベアたちのはるか後方に優雅な動作で飛びのいている。
リベアはゆっくりとその女に対峙した。
禍々しい気配が女の全身を覆っている。強大な力の気配に、女がかなりの大物だと知れた。
赤い瞳に流れる水のような髪。
リベアはネイストに剣を渡し、自分の腰の焔の剣を引き抜く。
ゼルダムも同じように剣を構えた。
「お前、まだ瞳の輝きが生きているね」
リベアを見据えて、女が驚くように云う。
「まだ正気だとは驚いたこと」
レイシア姫に告げた通りに、正気で無ければ、面白かったものを。女は、少しだけ舌打ちをしたが、すぐに思い直す。
「まぁ、それはそれで楽しみようもある。あの子の前で引き裂いてあげましょう」
それを目の前で見せたら、レイシアの方が正気を無くすかもしれない。
女は自分の思い付きに、くすくすと声を上げて笑った。

「ご招待した人数には多めだけれど、ゲームの開始よ」
女が云うのと同時に、大きな扉が開く。
そこは宮殿の大広間のような豪奢な部屋だ。まるで舞踏会でも開かれるような、磨き上げられた床の大広間。
奥には玉座のような椅子があり、そこに座っているのは金色の髪のまだ幼い少女だ。
少女は開いた扉の向こうに立つ男たちに息を呑んだ。

「皇女!」
「レイシア姫ッ!」
リベアとゼルダムが同時に声を上げる。
「リベアッ? ゼルダム様ッ?」
信じられないという風に、皇女が二人の騎士の名を呼んだ。
だが、立ち上がる素振りは無い。
「あなた方のお姫様は、あの通りに玉座に縛られている。魔術を解く鍵はこの私――――鏡水の中」
鏡水と名乗った女は、すいっと指を滑らせた。
レイシアの足元から水の蛇が這い登る。
「ひッ、」
皇女の息を呑む気配に、リベアが反射的に駆け出そうとする先を制して、ソルフェースの水の鞭が蛇に向かって一閃した。
だが、玉座に届く前に、突然出現した水の壁が、それを叩き落とす。
「馬鹿な……」
呟いて、ソルフェースが立ち尽くした。ソルフェースの魔術が効力をなさないことに、騎士たちは声も無い。
「おいたはお止め。魔術師。お前に用は無い。私が用があるのは、この小さなお姫様の騎士だけよ。どっちの色男だい?」
鏡水はにやりと舌なめずりをした。蛇のような眼にぞっとする。
「私だ」
ゼルダムが一歩進み出た。
「アルセリア王、ゼルダム。皇女の夫になる男だ」
「ゼルダム卿ッ?」
驚愕の声を上げたのはリベアだ。
王に近い人物だとは思っていたが、まさか本人だと誰が思うだろうか?
だが、ネイストはともかく、ソルフェースにも驚いた様子は無い。
「リベア、もし俺が倒れたら、お前がやれ。頼んだぞ」
すれ違いざま囁くように、ゼルダムが告げる。止めようとしたリベアの腕をソルフェースが押さえた。
ゼルダムの気持ちを無駄にする訳には行かない。
「俺の女だ。お前の好きにさせる訳にはいかんな」
光の剣を構えたゼルダムに、鏡水は薄笑いを浮かべた。
「ゼルダム様……」
玉座から動けない皇女は、それでも自分の恋する男にすがるような視線を向ける。
まさか、ゼルダムが自分を救いに来てくれるとは思っていなかった。
幼いとは云え、何も判らない子供では無い。自分の立場が大国の思惑による正妃の座だと知らなかった訳では無かった。
確かに結婚の申し込みはされたし、いかつい顔に似合わない優しい男だと思っていたから、その申し込みも受けた。ただ、もとより自分に断る自由がある筈も無かったが。
囚われたままの自分に城下の様子は分からない。
国全体の安全と秤に掛けても、自分を救い出したいと願う程、父王は愚かでは無いだろう。
多分、自分を救いに来るのはリベアだけ―――――そう思っていたのに………。
「何故……?」
思わず疑問がレイシアの桜色の唇からすべり出る。
「決まっている。貴方に惚れているからですよ。幸い、私には信頼の出来る家臣もあれば、王太子も決まっている。帰らなかった時に揺らぐような国でもありませんからね」
剣を構えたまま、ゼルダムは皇女の問いに応えた。王と云う自分の立場がこの時ほど煩わしかったことは無い。
リベアを見付けた時には嬉しそうな顔をしていたレイシアが、そこにゼルダムの顔を発見したときには、意外そうな表情を隠そうともしなかった。それが、レイシアの自分への評価だと考えると、ゼルダムはかなり陰鬱な気持ちになる。
それ以上に、自分よりも無条件に信頼されている男――――リベアに対する対抗心が、湧き上がった。
だが、今はそんな場合では無い。
リベアと共にレイシアを救うこと。それだけが今のゼルダムに出来ることだ。


鏡水がじりじりと間合いを詰めてくる。
ゼルダムは光の剣を構えたまま、じっと対峙するのみだ。
魔物の女はただ立っているだけだが、隙が無い。ゼルダムは奥歯を噛み締めた。ぎりっと音がする。
水で出来たような蛇が、威嚇するように頭を上げた。大きく裂けた口元からちろちろと細い舌が、まるで獲物を前にした舌なめずりのように覗く。
策はある。そうゼルダムは踏んでいた。
少なくとも、こちらの魔封じの剣は二振り。
ゼルダムの後ろには、柄に手を掛けたままのリベアが女を睨みつけているのが見て取れた。
今にも飛び掛りそうなリベアを、ソルフェースが庇うように前に立っている。
多分、自分が倒されるまでは、ソルフェースが守り抜くだろう。
蒼のソルフェースの結界――――数十年破られたことの無かったそれが破られたと聞いて、自分も多少疑心暗鬼になっていたのか? とゼルダムは考えた。
魔物の女はソルフェースの攻撃を、いとも簡単に弾き返した。あの魔力を持ってすれば、確かに城下の結界を破ることなど造作も無いことだろう。
とすれば、後ろはソルフェースと、リベアに任せても良さそうだ。


安堵したゼルダムは、女に切り掛かる。
女はふわりと優雅に遥か後方へと飛び退いた。
続けて叩き込む斬撃を、ひらりひらりと女はかわしていく。
今までの魔物たちとは桁違いの動きだ。
ひらりと身をかわした女の後ろから、絶妙の間合いで蛇が襲い掛かる。
思わず剣を抜いたリベアを、ソルフェースが押し留めた。
ゼルダムの目の端に悔しそうに歯噛みをしたネイストの情けない顔が映る。
ネイストには云い含めてあった。自分が例え相討ちになっても、決して敵討ちなど考えるな、まずはレイシアを連れて逃げろと。
もっとも、現実にここまで来てしまった今では、逃れられるものなら、という注釈が付いてはいるが。

蛇と女の双方の魔物の連携のとれた攻撃をかわしながら、ゼルダムは何とか隙を窺っていた。一太刀でも二太刀でも致命傷を負わせられれば、後はリベアに任せられる。
動きさえ鈍らせてしまえればいいのだ。
リベアの確実に相手を屠る戦い方は、相手の懐に入ってこそだ。
相手にのったそぶりで一人での戦いに臨んだのは、プライドや嫉妬などからでは決して無い。
この魔物の属性は水だとソルフェースは云っていた。
ゼルダムの剣は闇を祓う為の光の剣。リベアの剣は闇を浄化する焔の剣だ。だとすれば、少なくとも自分より、リベアの剣に勝機はある筈である。

襲い掛かってくる蛇の牙が、ゼルダムの肩口を裂いた。
「王!」
声も無く、その戦いを見ていたネイストが、初めて叫びのような声を上げる。
だが、ゼルダムの剣は、すれ違いざまに蛇の頭を叩き落していた。
今まで水で出来た蛇だと思っていたものが、砂のように粉になって霧散する。
ほっとゼルダムが息を吐くと、その大きな身体がぐらりと傾いだ。
「ゼルダム卿ッ!」
走り寄ったリベアが身体を支える。傷は深いらしい。リベアの手にはぬるりと流れる血の感触があった。
「大丈夫。まだ…」
まだ、戦えると云いたいのだろう。だが、薄く笑ったゼルダムのいかつい顔には、玉のような汗が浮かび、尋常ではない痛みを訴えている。
「ふふ……」
力ない女の笑いに、リベアは顔を上げた。
魔物の女は笑っているが、その腕はばっさりと落とされ、血溜まりを作っている。
「あの蛇と力の共有をしていたんだ。リベア、行け」
リベアの後ろを護るように控えていた、ソルフェースが囁いた。
うなづいたリベアは、ゼルダムの身体をネイストに預けた。

焔の剣を抜き放ったリベアが、女に対峙する。
女は妖艶な雰囲気はそのままに、馬鹿にしたような冷たさは形を潜めていた。代わりに、激しさを思わせる禍々しい気が吹き付けてくる。
対して、リベアは冷静だった。
ソルフェースの魔術が通じなかった時に感じた衝撃は、今は無い。
人間の力など叶わないのではないかと云う無力感は、ゼルダムが太刀を浴びせたことで、消え去った。
焔の剣がリベアの手の内で震える。
リベアは女に切り掛かった。
飛びすざった女に、先程のような余裕は感じられない。
すかさず斬撃を浴びせるリベアの剣を、かわす様はまさしく必死と云う奴だ。
女の長い爪がリベアの剣を受け止める。
リベアは力を篭めて、その剣を振り下ろそうとするが、魔物の強力な爪がそれを圧し留める。
リベアの指に嵌められた守護の指輪が、鈍い光を放った。
ソルフェースの魔術の波動を感じる。
その時、明らかに圧されている筈の、魔物の女が勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

立ち上がることも出来ずに、魔物とリベアの戦いを見つめていたゼルダムの横で、蒼のソルフェースが呪言を唱え始める。
その様に、ゼルダムとネイストは、目を見開いた。
すると、唯の砂の塊になっていた筈の蛇が、水のうねりを取り戻したかと思うと、むくりと頭をもたげる。が、それは既に蛇の形状をしてはいなかった。
「竜……」
呆然とした呟きが、ネイストの口から漏れる。

「ソルフェース! 止せッ!」

ゼルダムが絶叫した。


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