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春日部長の日常<11> 

「前村」
「す、すみませんッ!」
慌てて俺から離れようとするが、俺は腕を掴んだまま離さない。
「お前、これはどういうことだ?」
「すみませんッ! ごめんなさい! もうしませんから!」
ひたすら俺と目を合わせずにわめく前村は、手足をばたつかせて俺から離れようとする。
「謝るな!」
俺は怒鳴りつけると同時に前村を引き寄せ、頭を抱え込んだ。
「落ち着け。誰もお前を責めちゃいない」
しばらく頭を撫でていると、前村もだんだんと落ち着いてきたのだろう。暴れるのを止めた。
「俺はお前を責めてる訳じゃない。どうしてあんなことをしたのか聞きたいだけだ」
「…つてるくせに、」
俺の胸に顔をうずめたままの体勢で前村が呟いた。
『解っている癖に』。
まぁ、俺だって朴念仁と云う訳でもない。これでも若い頃はそれなりだったし、経験だってある。だが、口にしなければいけない時はあるのだ。
「じゃ、質問を変えるぞ。お前は俺が好きなのか?」
このままでは埒が明かない。俺は前村をソファへと座らせると、もう一度問い質した。
「はい」
うな垂れたままの前村がうなずく。
「お前はそういう趣味なのか?」
「はい。すみません」
だから、謝るなと怒鳴りつけそうになって、俺はハタと思い直した。
「男なら、もっと若くていい男がいくらでもいるだろうに。俺みたいなくたびれた中年男じゃなくても」
前村は、まだ若い。頼りがいのある大人の男ってヤツにあこがれているだけじゃないのか?
「そんなことないです! 部長は優しくて…!」
前村がばっと顔を上げた。が、俺と目線が合うと、苦しそうに目を伏せる。
「…勘違いしそうになります」
勘違い、か。
「部長は部下としてしかってくれてるのも、見捨てないのも判ってます。でも、それでもひと時だけ夢を見たかったんです」
前村は諦めきった顔で、ぼそぼそと呟いた。俺の応えなど求めちゃいない。
「前村。確かにお前みたいな出来の悪いのは、俺の下に配属された中では初めてだ。だからこそ、お前には一番時間を掛けた」
しゅんとしうな垂れた様は、図体はデカイものの、まるで捨てられた子犬だ。
「だが、毎日の残業も、その後の飯も、お前と一緒にいるのは楽しい」
自分自身に問い掛けてみる。本当にあの時間が無くなってもいいのかと。
「部長、ありがとうございます」
礼は云うものの、言葉は妙に平坦だ。全てを諦めきっている。
「俺は男を恋愛対象としては考えたことが無い」
「はい、判っています」
「とりあえず、付き合ってみるというのはどうだ?」
「はい、すみませ、?」
うな垂れていた前村がばっと顔を上げた。
「部長??? 今、何て??」
「俺もお前も独身で、彼女も彼氏もいない。お前は俺が好きで、俺はお前への好意が恋愛かどうか判らん。だったら、付き合ってみて決めてもいいだろう」
「ええええ~~~~~????」
前村が意外そうな声を張り上げた。一応、このタイプのマンションなら防音は完璧だろうから、そう心配することも無いだろう。
「今決めろってのは無理だ。だが、お前との付き合いが無くなるのも、俺には考えられん。だったら答えはひとつだ」
俺は、自分の寂しさを埋めるためなのかもしれないし、前村は単なる憧れかもしれない。ただ、現在お互いに好意を持っているのは確かだ。
闇雲に否定するよりは、確かめてからでも遅くは無いだろう。
『男との恋愛』という選択肢が、今までの俺の中に無かっただけだ。
「明日も仕事だ。寝ろ」
いまだ呆然としている前村の頭をくしゃりとかき回す。それでも前村はソファに座ったままだ。
俺は溜息を吐いて、前村の身体を引き寄せた。不思議と嫌悪感は無い。
その行動に前村の思考が回りだしたらしい。
「お、おやす、み、なさい、」
焦って俺の腕から抜け出して、ギクシャクとした動作でベッドへ潜り込んだ。

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