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水の魔方陣・焔の剣<12>完 

その絶叫をかき消すように咆哮を上げた竜が、高く躍り上がり、リベアたちに襲い掛かる。
「リベアッ!」
レイシアの叫びにリベアは、はっと飛びすざった。
リベアと女が立っていた場所を、大きく口を開けた竜が通り過ぎる。
そのままそこにいれば、おそらくは竜のエサになっていたに違いなかった。
「ソル?」
リベアは、信じられないものを見るように、美貌の魔術師を眺めやる。自分の守護魔術師だった筈の男を。
蒼のソルフェースの顔には、何の表情も浮かんではいない。ただ、冷たくリベアを見下ろしているだけだ。
魔物の女が、勝ち誇ったように高笑いを上げる。リベアは勘に触るそれごと、女を切り捨てたい衝動に駆られるのを覚えたが、それで素直に切り捨てられてくれるような相手でも無かった。
「お前の魔術からは我らと同じ匂いがするわ。うまく化けたものね」
女の言葉に吐き気がする。ソルフェースはその言葉に何の反論もしないのは、肯定している証だ。
リベアは強く、柄を握り締め、女に踊り掛かった。
幾度か切り結ぶ間、ずっとソルフェースが呪言を唱えているのが聞こえる。
子守唄のようだと思った響きが、今も変わらないのが、より一層リベアの苛立ちを煽った。
「リベアッ!」
悲鳴のように、レイシアが叫ぶ。
云われるまでも無く、目の端にソルフェースの操る竜がうごめいているのが映った。
「ソルフェースッ、止めろ!」
ゼルダムが力を振り絞って立ち上がり、竜へと走り出す。

飛び掛る竜に、リベアが飛び退いた。
女は、薄笑いを浮かべたまま立っている。
一瞬の後、女の残った片腕が吹き飛んだ。

竜の咆哮と共に吐き出された水流が、女の片腕を奪ったのだと、その場の全員が認識したのは、呆然とした後だ。
女は無言のまま、腕の無い己の肩を見つめ、続いて何故と云いたげな瞳でソルフェースを振り返る。
「リベア」
静かに、ソルフェースが呼び掛けた。
リベアは、女の喉下に焔の剣を突きつける。
何事が起こったのか解らぬまま、女はその場にくずおれた。
倒れた女の唇が動く。『何故?』という問いは、喉を裂かれた為に、音にはならなかった。
「まだ、判らないか?」
ソルフェースが問い掛ける。
「蛇に封じたのは、お前の片腕だけか?」
女の眼が、衝撃を受けたように見開かれた。唇の動きがはっきりと形を成す。
「そ、うる…さ、ま…」
少しだけ漏れるような音が聞こえた。
「さっさとくたばれ」
ソルフェースが冷たく云い放つ。
まるで、そう命じられたかのように、女はがくりと倒れ付すと、2度と起き上がることは無かった。
女の身体が、砂のように崩れていく。
その砂の塊の中から、ソルフェースは紋章のようなものを拾い上げた。
そのまま、リベアの前にひざまずくと、その紋章を差し出す。
「これは?」
リベアは警戒を解かぬまま、ソルフェースを睨み付けた。
裏切ったのか、裏切る振りだったのか? 
魔物の女以上の大きな魔術を隠していたのは何故か?
「皇女の結界を解く鍵。鏡水は自分の中にあると云っただろう」
いつも通り、ニヤリと笑ってソルフェースが云った。
「信じられると思ってるのか?」
紋章は確かに、塔の入り口や焔の剣が封じられていた扉の鍵に似た、糸の絡まったような文様を描いている。
「信じられないなら、命じればいい。俺の真名は二つともお前に名乗った筈だ」
「二つ?」
「人としての名も、魔物としての名も」
ソル――――と呼んでもらっても構いませんよ。リベア殿になら。
最初に会った時に、この男はそう云った。
「蒼流?」
蒼のという二つ名は、その魔術の属性も現したものだろう。『そうるさま』と、いまわの際にあの女は呼んだのだ。
「リベア。お前の命のままに」
まるで、何処かの姫に対するように、そっと結界の鍵をリベアに握らせ、その指に唇を落とす。
リベアは慌てて身を引くと、鍵を握り締め、皇女の元へと向かった。
「足元に置くんだ」
ソルフェース―――蒼流に云われるまま、皇女の座らされた王座の前に、結界の鍵を置く。皇女の周りを取り巻いていた水の壁が、するりと解けた。

「リベア―――」
ほっとしたように呟いた、皇女の身体は、糸の切れた人形のようにリベアの胸へと倒れこむ。
「レイシア皇女!」
おろおろと腕の中の皇女を持て余すリベアに、蒼流が舌を鳴らした。
「気が抜けただけだ。さっさと帰るぞ」
不機嫌さを隠そうともせずに、ゼルダムとネイストに歩み寄る。
手を伸ばそうとする蒼流に、ゼルダムは光の剣を向けた。

「質問に応えてもらおう」
喉元に魔封じの剣を突きつけられた状態で、蒼流は肩を竦める。
「今回の件は、貴様の謀か?」
「俺なら、こんな回りくどいやり方はしない。第一、俺は王宮に住んでいるんだ。攫う必要が何処にある?」
もっともな言い分だ。しかも、蒼のソルフェースとして、三世代の王に仕え、王の信頼厚い魔術師なら、皇女と二人だけになる機会など、山のように存在する。
「人になるのに、俺の魔術は大きすぎる。鏡水に魔術を分け与えて、泉の主だと思い込ませた」
鏡水には、半端に大きな魔術だったのだろう。野心をもってしまう程に。
「王宮に帰って、どうするつもりだ? また普通の魔術師になるのか?」
ゼルダムの問いは、リベアも抱えた疑問だった。
その人として大きすぎる魔術を抱えて、一体どうするつもりなのか?
「ああ。幸い、リベアは退屈しなさそうだしな。焔の剣の騎士の守護者に相応しい魔術師だと、皆が納得するさ」
ニヤリと笑った蒼流に、ゼルダムが剣を引く。
「だとさ。まぁ、頑張れよ」
皇女を抱えたままのリベアを振り返ると、ゼルダムは王様らしからぬ下卑た笑いを浮かべた。
薄々、自分と蒼流の関係を気付かれているだろうとは思っていたものの、ゼルダムの表情に、リベアはそれが確信に変わる。
気を失った皇女を抱えて、げんなりとしたリベアに、蒼流がくすくすと笑った。

結界の鍵を部屋の中央に置いた蒼流が、呪言を唱え始める。
高く、低く、その澄んだ声の詠唱が響いた。
竜が大きなあくびを漏らす。
その様子に、リベアは思わず笑いを誘われた。
だが、竜はかき消すようにリベアの前から消え失せ、五人はいつの間にか黒の森の入り口に立っていた。
ここから、城下まで、まだ半日は掛かる距離だ。
「おい、蒼の。俺もゼルダム王も怪我人だぞ。どうやって帰るつもりだ?」
すっかりと元に戻った呼び名に、ソルフェースはひそかにため息を吐く。
「こうやってだ」
気を失ったレイシア皇女を、ネイストにゆだね、リベアには剣を握らせる。自分はと云うと、怪我をしたゼルダムを、まるで荷物のように肩に担ぐ。
「夜盗が出たら、お前が追い払う。これで適材適所だ」
自分よりも細いソルフェースに抱え上げられたゼルダムは、落ちるのではないかという恐怖に、自分で歩くと、暴れることもままならない。
幼馴染の情けない姿から目を逸らして、諦めたように一番元気なネイストが、皇女を抱えたまま、歩き出す。
その後ろを、体格のいい王を肩に担いだ魔術師と、傷だらけの騎士が続いた。

<おわり>

続編水竜の騎士

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