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王者の後継<3> 

「シーッ。忍びだ。それ以上は…」
人差し指を立てて微笑む姿に、リベアは慌てて口元を押さえる。そこにいたのは、簡素な服装ではあるものの、現ティアンナ国王・レイディエに違いなかった。
「久しぶりだね」
久しぶりも何も、公式行事で会う以外に、国王に会う機会など無いのが普通だ。
リベアの所属する第一騎士団は、辺境での魔物退治を旨とする隊であり、王宮へ出仕することなど、非常にまれである。
ただし、リベアは国王がまだ皇子であった頃に離宮の門番をしており、遊び相手にされることも多かった。皇子時代には、皇女と共にお茶の時間に呼ばれることくらいはあったものだ。
「一体、何があったのですか? お忍びで来られるなど」
悪戯を見つかった子供のような顔をして、ティアンナ国王レイディエは肩をすくめる。
「頼みがあってね。バースに協力を申し出た」
マーロウの父親、バース・エデンは、国王の剣術の指南役でもあった。
確かにリベアにつなぎを付けるには絶好の人物だが、それならばバースに頼みごとをすればいいことだ。
「王宮の人間を使うわけにはいかない密使だ」
頼まれてくれるね?と国王陛下に真剣な顔で見つめられて断れるような男ではない。
「お話だけは伺います」
神妙に答えながらも、リベアは覚悟を決めていた。

「華離宮を覚えているだろう?」
華離宮とは、皇子や皇女が子供時代を過ごす為に作られた離宮だ。リベアが最初に門番をしていた離宮である。
「華離宮にいた私たちの乳母・ルセレに会ってこれを渡してくれ」
「ルセレさまに?」
「そうだ。リベアなら、離宮側も不審を抱くことは無い」
確かに現国王の乳母、華離宮の女官長を、近衛隊長が訪ねるのはあまりにも不審だ。
以前から知り合いのリベアであれば、懐かしさを覚えてということも可能だろう。しかも、リベアには何の後ろ盾も後ろ暗いところも無いと来ている。
「これをどうするかはルセレ次第だと伝えて欲しい」
渡されたのは、小さな細工箱。
「判りました。必ずお渡しいたします」
「頼む。私はもう帰らねばならない」
「マーロウ」
警護は多いほうがいい。マーロウをつけて王宮まで送らせる。
小箱を厳重に布で包んで懐へしのばせると、リベアは休暇の許可をとりに隊長のマキアスの部屋へと向かった。

休暇の許可はすぐに出た。元々、あまりに働きすぎだと小言を食らっているのだ。
休むのも上官の役目。上官が働いていては、部下が休めない。もっともな説に、リベアは素直に頭を垂れた。

「おや、久しいこと。珍しい方がお客様と聞いたが、ほんに珍しい方だわ」
「ご無沙汰いたしております」
離宮の門は、簡単にリベアの前に開いた。
離宮の門番という最下級の兵士から、いまや第一騎士団の要となったリベアに悪い感情をもつのは、実のところは身分の高い者たちだ。
健在皇子・皇女のいない華離宮の留守を勤めるのは、女官たちだけで、上級騎士は無い。
突然の来訪ではあったが、リベアは歓待されることとなった。
「元気そうで何より。嫁をもらえんのが残念なくらいの男ぶりだの」
老齢に達している筈だが、ルセレは闊達そうな笑い声を上げ、リベアはひたすら頭が下がる。
田舎から出てきたばかりの、何も知らなかった少年の頃から行儀作法を仕込まれた相手だ。皇女・皇子のお気に入りだったリベアに、『お前が何も知らぬでは、恥をかくのは皇子たちぞ?』と厳しい目を向けられた。
正式に騎士となった今は、それに助けられることも多く、感謝もしてはいるのだが、実のところは苦手だ。
「どうだ? 表向きはともかく、妾くらいは持っては? さっきから、ここの女たちも落ち着かぬ」
リベアの契約については、魔術師たちの間でしか知られていない密事だ。当時、王都への魔物を進入を許した魔術師たちへの不信が蔓延していたため、リベアの守護については知らぬ存ぜぬで済ませたい王宮の意図が見えていた。
なので、リベアの守護は『神竜』であるというのが、一般的に信じられている。
そのため、こういった誘いは後を絶たないのだ。
魔術の契約があるために、表向きの妻帯は出来ない。が、妻にはなれずとも妾ならば、いや、一夜でも情けをもらって子供でもという意気込みの女たちの鼻息の荒さには、リベアは脱兎のごとく逃げ出したくなる。
「いえ。私は」
「解かっておるよ。例え、相手が何であろうが、お前は忠誠と愛を捧げたものには誠実を通すだろう。婆の繰言じゃ」
真っ白な髪を結い上げたルセレが寂しげな笑い声を上げた。
置かれた茶を勧めると、侍女を下がらせる。
「お前の好きな華茶だ」
「ありがとうございます」
丁寧に頭を下げ、茶器へと手を伸ばす。一口ふくむと、いい香りが広がった。
「酒の方がいいかと思うたが、どうせすぐに辞するのであろう? あの方の用事は何じゃ?」
鋭い目で射抜かれて、リベアは舌を巻いた。さすがに華離宮をまとめる女官長だ。
リベアは懐から預かり物を差し出した。
「どうするかはルセレ殿次第だと言付かってまいりました」
ルセレは丁寧に包みを開いた。小箱を開き、中を確認すると再び閉じる。
「リベア。この婆の頼みも聞いてくれぬか?」
真剣な顔でリベアを見るルセレの視線に緊張が走った。ルセレ次第だと王は云った。これも王の頼みに関わることなのだろうと、リベアは覚悟を決めてうなずいた。
「なんなりと」
「これはお前に持っていて欲しい。誰にも渡してはならぬ。見せてもいかぬ」
差し出されたのは王からの預かり物。
「いずれ使うときは来る。だが、それは今では無い」
リベアはまっすぐに向けられる視線を受け止めはしたが、不安を感じて口を開いた。不測の事態は何処にでも口を開けている。
「もし、私の手に余るときには、私の契約者には見せますが」
「かまわぬ。そのときはきっと使わねばならぬときであろうよ。お前の契約者に捧げた忠誠を寄越せというておるのだ。それは道理であろう」

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