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王者の後継<8> 

「リベア! 来るわ!」
剣を帯びた細身の身体は、まるで少年騎士のように見える。朱のモニクが鋭く叫びを上げた。
それが合図だ。
リベアを中心に騎士たちが剣を抜き放つ。
取り囲むように、走り寄って来た魔物たちは、一見、何の変哲も無い獣のように見える。だが、真っ赤な瞳と、伸びた牙がそれを裏切っていた。
まっすぐにリベアが走り出す。
飛び掛るそれを一刀両断に切り捨てた。
魔物の青黒い血があたりに飛び散る。それを避けもせず、リベアはすぐに向かってくる次の獲物を振り向きざまに切った。
血濡れの姿に一瞬怯んだ魔物たちの只中へ飛び込む姿は鬼神のようだ。
そのリベアに続くものはいない。
当たり前だ。そんな戦い方が出来る人間などいる訳が無い。
「逃すな!」
マキアス・ドゥーズの命令を待つまでも無く、散り散りになる魔物たちを狩るのは、他の騎士たちだ。中でもマーロウの動きは早い。
リベアの小隊はリベアが真っ先に飛び込んでいく為に、自然とマーロウがまとめる形になっている。
リベアの刃に傷つけられ、弱ったものたちを、取り囲んで確実に屠っていく。その動きは優雅でリベアのように血を浴びることなど無かった。
魔術の護りの無いものたちにとって、魔物の血は毒だ。
だが、リベアには蒼のソルフェースの結界がある。それは毒性さえ無効にするのだ。
ふっと魔物たちの動きが止まる。
かと思うと、いきなり一斉に走り去っていく。
まだ、年若い騎士が後を追おうとするのを、副隊長のラフ・シフディが手で制した。
「リベア」
ラフは真っ直ぐにリベアを見た。物云いたげな風情を見るまでも無い。云いたいことは判る。だからこそ、リベアも蒼流に後は追わせなかった。
「魔物使いがいるな」
呟くようなリベアの言葉に、陰鬱な空気が漂う。
魔物たちの多くは、知性が低い。特に人としての形を持たないものたちはそうだ。誰が合図した訳でもなく、一斉に引くことなどあり得なかった。
奴らは、単に集まっているだけで、群れとしての形状を成しているわけではないのだ。だからこそ、散る前に確実に仕留める。二度と襲ってこないように。
だが、人が操っているのならば、懲りることもなく襲ってくる。
深追いして、消耗するわけにはいかない。
「小戦闘と云う訳にはいかなさそうだな」
マキアスは誰にとも無くつぶやくと、野営の準備を命ずる。これは長期戦の構えだ。
リベアが焔の剣を寄り代に預け、モニクがそれを使って守護陣を張る。
それによって、やっと騎士たちの間から詰めていた息を吐くものが出た。
「国境に近い。アルセリアの領に追い出さないようにしなければならんな」
隣国・アルセリアは現在の王妹が正妃として嫁いで以来、友好関係を保っているが、それでも魔物を隣国に逃げ込ませたりしては、謀を疑われても仕方が無い。
そんなことをすれば、古の魔術を持つ国として魔物たちの押さえを任されたティアンナの意義すら失う。
「次は、蒼流を最初から出す」
この際、プライドなどにかまっていはいられない。
蒼流を使うのは、リベアの消耗も激しいのだが、それでも一匹づつ片付けるよりもマシなはずだ。
「もし。ティアンナの騎士の方々ではありませぬか?」
近づく気配の主が人であることは、皆承知だ。そんなことも判らないようでは、第一騎士団の騎士ではあり得無い。
現れた老人は非常に慇懃な態度で腰を折る。
「主人より、野宿などなさるくらいであれば、我が家ではどうかと云いつかってきております。こちらの隊長殿に目通りを願えませぬか?」
「第一騎士団隊長、マキアス・ドゥーズだ。ご好意痛み入るが、任務中だ。そちらにご迷惑をお掛けするわけにはいかん」
老人の問い掛けにマキアスが立ち上がって辞意を述べるが、老人は頑なだった。
「それではこちらにご挨拶に伺いたいと主人は申しております」
おそらく、断られることは最初から承知の上での申し出であったことは明白で、どうやら貴人であるらしい『主人』に、いつ魔物が現れるか判らない場所へなど来られても困る。
迷った末に、渋々とではあるが、マキアスは主人の申し出を受けることにした。

「よくおいでくださいました。どうぞ、おくつろぎになって」
森の中には似つかわしくない、大きな屋敷の居間で挨拶を受けたのは、マキアスとラフの二人だ。だが、今日はさすがの二人も二の句が告げなかった。
「身分を明らかにするわけには参りませんの。ローザとお呼びください」
そう大人びた口調で告げた少女、いや、どちらかといえば幼女と云っても過言ではない幼さの子供が目の前にいた。
「ご親切、痛み入ります」
だが、そこは貴公子らしい外面の良さで、ラフはひざまづくと少女の手をとって、口付けた。まさしく貴公子と呼ぶに相応しい上品で精悍な顔立ちは、優雅な仕草とあいまって、非常に絵になる光景だ。慌てて、マキアスもそれに習う。
「焔の剣の騎士様は、ご一緒ではないのかしら?」
こういった申し出の殆どが『焔の剣の騎士』目当てのものであるのは、いつものことだが、リベアがこういった場が苦手なのは二人とも承知している。
特に子供たちには憧れの英雄だ。少女も眼をきらきらとさせていた。
「焔の剣の騎士は魔術師と共に護りを固めております。宿をお借りするこちらに、万が一のことがあってはなりませんので」
魔物を払う、護りを固めるなどと云えば、無理を云われることもない。残念そうな表情を浮かべるローザを置いて、ラフとマキアスはその場を辞した。

屋敷を出て数日、長期戦の構えで待ってはみたものの、結局魔物たちが仕掛けてくることは無く、第一騎士団は奇妙な緊張感を抱えたまま、王都へ帰ることとなった。
達成感の無い疲れは余計に人を疲弊させる。
リベアもマーロウも疲れ果て、言葉少なに互いをねぎらい、その日は早く床に着いた。

だから、人の声で眼を覚ましたのは、それが常なら聞くことの無い筈の声だったからだ。
怒鳴るような声。
戦闘中でさえ、声を荒げることの無いラフ・シフディの通る声は、リベアの眠りを覚ますのに充分な程だった。

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