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王者の後継<9> 

「これ以上の話を聞く気はありません! お帰りを!」
駆けつけたリベアの目の前で、乱暴にドアが開く。
言葉と共に押し出された男は、よろけて倒れそうになる。それをリベアは受け止めた。
「シフディ殿?」
現在の魔術管理官、ラフ・シフディの父親でもあるその男は、受け止めた相手がリベアと判ると、ぎょっとした顔をして身を離した。
「こ、これはリベア殿。失礼を」
「管理官はお帰りだ! 誰か馬車を!」
らしくもなく声を張り上げたラフに、従者のひとりがびくっと身体を震わせて走り去る。
手を伸ばしたシフディ管理官の鼻先で扉が閉じられた。
貴公子然としたラフに相応しくない、荒々しい仕草で、恐々といった風に扉から顔を出していた他の騎士たちも、係わり合いになりたくないと部屋へ引っ込んでしまう。
肩を落として帰っていくシフディ管理官の後姿を見送りながら、リベアも自室へと引き上げようとしたが、目の前の扉から出てきた腕に引きずり込まれてしまった。
「ラフ殿?」
「あれが我が父親だと思うと情けないばかりだ」
イラついたように吐き出しながらではあるが、リベアに椅子を勧めるラフに、リベアは向かいに腰掛け、差し出された杯を取る。
「魔物使い。父の差し金だったそうだ」
「え?」
忌々しげなラフの言葉に、リベアは一瞬、あっけに取られてしまった。魔術師の管理官ともあろう人が、そんな真似を?
「それも私をあの館の主人に合わせる為だったと聞けば、馬鹿馬鹿しくて泣けてくる」
魔物と直接対峙する魔術師や騎士などとは違う。あくまでそれを管理し、統括するのが管理官としての役目だが、それでも他の人間よりは魔術に対する知識はある筈だ。
「館の主人。少女であったとは聞きましたが」
「ああ、私が持ち込まれる婚姻を渋っていた所為でな」
ぐいっと杯を煽ったラフに、リベアは成程とうなずいた。祖父は先王の宰相。叔母は先王の寵姫。父親は魔術管理官。
毛並みの良さでは他に並ぶものは無いほどの高官ぞろいの家柄で、ラフ・シフディはあくまで騎士でいることを選んだ。
「婚姻を渋られているのは何故ですか?」
「本当にお前は噂に疎いな」
馬鹿にしたような言い草に、リベアは苦笑いを浮かべて肩をすくめる。あまりにも周囲に疎いのは、態とやっている部分もあるからだ。
只でさえ魔術師の宮に出入り自由の特別扱いの身だ。
これ以上痛くも無い腹を探られるのはごめんこうむりたい。しかも、リベアには隠さねばならない秘密もある。
「私に内縁関係の妻がいることは皆知っているぞ」
内縁関係ということは、事情があって正式に妻には迎えられないと云うことだろう。だが、堂々と言い放つ態度からも縁談があっても妻を日陰の身にする気は無いと見える。
「縁談を受ける気は無いと何度も云っているのだが、どうしても譲らんな。あげくに娘を王の寵姫にと云ってくる始末だ」
「娘さんがいらっしゃるので?」
若くして婚姻していれば、リベアでさえ若い従者連中の父親でも可笑しくはない年だ。同年代のラフに子供がいたとて、不思議でも何でも無い。
「今年十二になる。まだ、子供だ。縁談の相手など、娘の友人のような年だぞ」
「十二。側室候補にはまだ早くはありませんか?」
レイディエ陛下では倍以上も年が違う。
「陛下に子が無い所為か、周囲の鞘当が激しくてな。祖父が譲らん」
家柄など不自由なだけだ。とラフがこぼした。
「正直、お前が羨ましい」
「魔術の契約には縛られていますが」
思わず、嫌味を返してしまったのは、あまりにも本音を漏らすラフに驚いた所為である。
「それでも、神竜殿はお前を想っておいでだ。お前も知っていて契約したのだろう?」
額を押さえながらさらりと云われて、リベアはあやうく杯を取り落とす所だった。
「何だ? 知らんのか? 俺のところへ釘を刺しに来たぞ」
視線を上げたラフは、リベアの呆然とした様子に、何も知らないのだと見当をつける。
「大事にされているんだろう?」
常の嫌味とは違う、本当に羨ましげな声音に、リベアは視線をラフへと戻す。
「ええ。そうですね」
リベアを何よりも理解し、人として生きるリベアの一度きりの生涯を共にあると決めた相手。
「ラフ殿も奥様は大事になさっておいででしょう?」
ラフ程の家柄であれば、妾を迎えることは稀では無い。むしろ、家のための婚姻と惚れた相手との恋愛は別という考え方も多い。
だが、ラフは妾を正妻に出来ないならば、正妻は迎えないと決めているようだ。
「あれ以上の女には今のところ出会っていない、な」
酒の所為でもらすものか、ラフの惚気など聞けるものでは無い。リベアはクスリと笑って、ラフの杯に、同意を示すように杯を当てた。

「リベアさま。昨夜は遅いようでしたが?」
「ああ。ラフ殿と呑んでいた」
「はぁ?」
ラフ・シフディ副隊長は、教養の無い人間を嫌っている。リベアのような貧乏育ちの学の無い男など、普段は侮蔑の対象といってもいい。
一体、何故とマーロウが首をかしげるのも不思議ではない。
「ラフ殿に娘さんがいるのを俺は初めて聞いた」
「リベアさまらしいですね。眼に入れても痛くない風情ですよ。副隊長に似て、すごい美人です。あと五年もすれば求婚者が沸いて出るでしょう。奥様も控えめな良い方です。あの副隊長の奥様だとは思えませんね」
半ば呆れながらマーロウは言葉をつむぐ。それもリベアであれば仕方が無いと諦めている風でもあった。
「内縁だそうだが」
「没落した貴族の家柄だそうで、先々王の不興を買ったのだという話ですが、俺も詳しくは」
さすがに先々王の時代ではマーロウのような若い連中に詳しい話を知っているものはいないだろう。
リベアでさえ生まれる前だ。
「昨日の騒ぎ、管理官が追い出されたそうですね?」
「ああ。ラフ殿に縁談を持ち込んだそうだ。断ると、娘を陛下の側室にという話で、えらくラフ殿が怒っていたな」
さすがにその為に魔物使いを使ったなどという話は出来ない。
マーロウの口が堅いことは知っている。でなければ、これだけの話を聞き込んでこれる筈も無い。だが、それでも事は重大すぎた。
だからこそ、ラフはリベアにだけ漏らしたのだ。それはリベアに対する信頼でもあった。

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