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夜明けの恋人<西銀座一丁目テーラー角田>新年SS祭り 

新年SS祭り。
TOPはこのカップルです。
「栄太×角田」の甘い新年旅行。
本編「西銀座一丁目テーラー角田」はこちら

【夜明けの恋人】

「栄太くん」
「澄夫さん!」
手を上げると、栄太は本当に嬉しそうな顔をして駆け寄ってきた。
オレンジのダウンジャケットに、タートルネックのセーター。細い下半身にぴったりとしたジーンズ。
最近では滅多に見ない、私服姿は栄太がまだ若いことを強調されるようで、ちょっと苦い感じがぬぐえない。
「こっちだよ。澄夫さん!」
腕を捕まれ、栄太に引かれるまま向かった先は、夜行バスの臨時停留所だ。
新潟行きの夜行バスは、新潟には朝に到着するが、その前に山間部のスキー場を経由していく。
新年の初滑りと、スキー場での初日の出を同時に楽しもうという栄太からの提案だ。
おそらく、これまでの彼女たちともそうやって過ごしてきたのだろう。
断られることなど考えもつかない、キラキラした瞳で見上げてくる栄太に、『年を考えてくれ』などという本音が云える訳も無い。
「ねぇ、澄夫さんはスノボやったことある?」
「さすがにスノボが流行るようになってからは、スキー場自体に行った事が無いですね」
「じゃ、スキーは?」
「それなり程度ですよ。もう随分滑ってませんし、自分の板を出そうと思ったら、使い物になりませんでした」
そんな余裕があったのは、昔のことだ。
それでもシゲやその他の連中に誘われて出掛けることもあったが、それも各人が家庭を持つようになって途切れていった。
「今なら、レンタルの板くらいあるでしょう」
「まぁね。スノボなら俺が教えてやれるんだけど」
「お手柔らかに願いますよ」
苦笑を浮かべると、栄太がじろじろと角田を眺めているのに気付く。
「何ですか?」
「えへへ。澄夫さんの私服って、はじめて見るなぁと思って」
逢うのは殆どが店の所為か、角田も栄太もスーツ姿であることが通常だ。
私服といっても、スキー場だと聞いたので、栄太と似たような格好だ。ただし、ダウンジャケットではなくて、コートではあるが。
「23時30分発。新潟便の方」
「あ、俺、行って来るね。待ってて!」
呼び出しに、栄太が係員の元へと走る。後姿を眺めていると、横合いから若い女の子たちの囁き声が聞こえてきた。
「ねぇ、あの子。カッコ良くない?」
「うん。いい、いい」
「行き先一緒みたいじゃない。後で声掛けようよ」
キャッきゃとはしゃぐ声に、角田は本日幾度目かの苦い笑いを浮かべる。
自分などよりも余程お似合いの女の子たち。ああいう子達に自分が譲る日はきっと遠くない。
「澄夫さん?」
「どうしました? 栄太くん?」
「疲れてる? ごめんね。俺、自分のことしか考えてなかった」
沈んでいる角田に、栄太は疲れているのかと気を回した様だ。せっかく一緒に出掛けているのだ。今だけを楽しめばいい。栄太にこんな顔をさせるのは、角田の本意ではなかった。
「大丈夫ですよ。眠いだけです。こんな夜に起きているのも久しぶりですから」
「そうだね。澄夫さんって、規則正しい生活だもんね」
「新潟便。到着しました。こちらへどうぞ」
係員に促されて、角田と栄太が少し離れた場所に停まったバスへと向かう。停まっていたのは大きな二階建てのバスだ。
栄太に伴われて、夜行バスの席に付く。二階席の比較的ゆったりとした造りのフルリクライニングは、おそらくは角田の身体を心配してのことに違いない。
毛布にもぐりこむと、栄太が毛布の下から手を伸ばしてきた。
女よりも少し高い体温を伝えてくる手を握り返すと、栄太が幸せそうに笑う。
それに角田も満足して、二人して手を繋いだまま眠りについた。


バスを降りると、まだまだ夜が明けるには程遠い時刻だった。
が、夜間照明の中、滑る人々も多い。
幸い、目の前にはスキー場のロッジがある。
栄太と角田は、二人してそのロッジへ飛び込んだ。
深夜とあって、従業員はいないが、暖かいものを揃えた自動販売機が並んでいる。
「ねぇ、澄夫さん。何か食べる? それとも暖かい珈琲にする?」
「そうですね。栄太くんのお勧めはありますか?」
「俺のお勧めは、なんてったって、とん汁! あったまるよ!」
幾度も来ているらしい、栄太の言葉によどみは無い。
「では、それにしましょう」
栄太が嬉々としてとん汁を運んでくる。何故かどんぶりは一つだ。
「栄太くんの分は?」
「澄夫さんのをちょっと貰うからいいよ」
「じゃ、栄太くんから先に」
差し出したどんぶりを栄太は不満げに眺め、耳元で角田にしか聞こえないように囁く。
「間接キスしたいから、澄夫さんの後じゃないと、意味無いじゃん」
「な…ッ」
さすがの角田も、この発言にはびっくりして、固まってしまった。
「ね?」
にっこりと悪戯っ子のように笑う、年下の恋人を睨むわけにもいかず、角田はひたすら困惑する。しかも、栄太は判ってやっているのだから、始末に悪い。
「栄太くん。こんなおじさんをからかうもんじゃありません」
何とか持ち直して、諭すようなことを云ってはみるものの、それも説得力に欠けていた。
「からかってないよ。本気だからね」
じっとこちらを見る栄太は、しっかりと男の貌をしている。
本気だと云うのが、間接キス云々の話ではなく、角田に対しての気持ちだと痛いほどに訴えている目。
「ねぇ、君。一緒に滑らない?」
タイミングを計っていたらしい女の子たちが、会話が途切れたのを機に声を掛けてきた。
バス停から一緒だった子達だ。
「俺、ボードしかやらない」
「じゃ、あたしたちにボード教えてくれない?」
「栄太くん、教えてあげればどうですか?」
どこまでも食い下がりそうな女の子たちに、角田が助け舟を出した。こういう子は、一度相手をしないとしつこい。
「やだよ。澄夫さんにスキー教わる方がいい」
栄太が子供のように、背中から角田に抱きついた。
「ファザコンなのね。いいわ、もう!」
断られるとは思っていなかったのだろう。女の子たちが怒ってロッジを出て行く。
「役得だな。こんなことしても、親子だとしか思われない」
父親だと思われたようだが、栄太と角田ならその方が自然だ。
「あんな女よりも澄夫さんがいいに決まってんじゃん。逃がさないからね。そのつもりでいてよ」
だが、背中に張り付いた栄太の恫喝は、親子では到底有り得無いものだ。
栄太を張り付かせたまま、角田はとん汁をすすった。どんぶりを栄太に差し出す。
「うん。栄太くんのお勧めだけあって、美味しいです」
「へへ。でしょ?」
栄太の顔がほころんだ。二人でロッジに座って、とん汁をすする。
「栄太くん。初日の出ですよ」
白む空を反射して、雪は銀色に輝いていた。
「あけましておめでとう。今年だけじゃなくて、ずーっとヨロシク」
栄太が笑う。
角田も笑った。それに何と角田が答えたのかは、二人だけの秘密だ。


<おわり>

「共に……」

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