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過ごしたとき<転げ落ちた先に>新年SS祭り 

さて、お待たせしました。
投票一位のカップルは、やはり「渥美×鈴木」。不動の女王陛下と下僕です。
大学の頃の思い出のお正月を渥美に語ってもらいました。
本編「転げ落ちた先に」

【過ごしたとき】

「す、鈴木さん?」
研究室の忘年会も終わったとき、教授が『忘れ物をした』と云い出した。
「椅子の上に置いたんだが、大きなものでね。正月明けに持ってきてくれればいいよ」
また妙な預かり物でもしたのだろうか。大体、大学の教授などという人には変人が多い。
正月明けでいいのなら、そのまま置いていてもいい気もするが。
こちらは卒論を握られた身だ。そんな反論が出来るわけも無く、研究室へと戻る。
ところが。
教授のお気に入りのでっかい一人掛けのソファで寝ているのは、我が大学の屈指の頭脳と、類稀なる容姿をもった院生だった。
「ちょっと、鈴木さん。何でこんなところで寝てるんですか?」
「あ? もう忘年会終わった?」
口を半分開けたまま寝ていた鈴木さんが身を起こす。
「はーあ。あちこちからうるさくって。こっちに顔出してあっちに顔出さないとか出来ないからさ。雲隠れ」
「相田教授の提案でしょう」
鈴木さんが身体を伸ばした。まるで猫が眠りから覚めたみたいだ。
「迎え寄越すって云ってたからな。ご苦労さん」
ぽんと俺の肩を叩くとニヤリと笑う。時折見せる癖のある笑い方。実のところ、俺はこの先輩のこういう笑い方の方が好きだ。いつもは穏やかな感じの作り物みたいな笑みを浮かべてる。
「忘年会で食ったか? 飯でも奢るぞ」
「いえ、結構です。そんなのばれたら先輩のファンに殺されます」
「はっきり云ってもいいんだぜ。俺の下僕ってな」
見透かしたようにこちらを見て、薄く笑う鈴木さんのあだ名は『女王陛下』だ。
もっとも中身の方は、そのあだ名に似合わぬ意外と骨太な男っぽい人ではあるのだが、いかんせん、周囲を逸らさないようにする癖がついているらしく、周りのお膳立てには決して逆らわない。
一度、そんなにしていて疲れないのかと聞いた事があるが、その答えにも度肝を抜かれてしまった。
「いいんだよ。こんなのイメージと違うってキレて暴れられても困るだろ?」
「そんな奴、いるんですか?」
「子供の頃には結構いたなぁ。殺されかけたこともあるし」
平然と云うのに、むしろギョッとしてしまった。
「天使みたいに可愛いんだとさ。な訳あるか。人間様だっての」
そういうときに見せる、癖のある悪巧みをしているような顔が、俺はどちらかといえば気に入っていた。共犯者のような感じがして、俺は優越感に浸っていたのだ。

「鈴木さんこそ、飯は? 食ったんですか?」
「いや、マンションに帰れば何かあるだろ」
嘘付け。周囲が全てお膳立てするこの人は、極度の面倒くさがりだ。家に飯なんかある訳無い。
「鈴木さんのマンションってこの近くですか?」
「ああ。あれ」
指差した先にはあるのは、大学の隣の意外とこじんまりとしたマンションだ。
「もう、終電出ちゃったんです。泊めて貰えませんか?」
「別に、いいが。お前はいいの?」
キョトンとした顔に浮かんだ困惑の原因は判ってる。鈴木さんはゲイなのだ。
「俺に手を出すほど飢えてないでしょ?」
母親が元女優だったというだけあって、鈴木さんは中性的な美人だ。卒業近いのでもう辞めたが、一時期は雑誌モデルをしていた俺が、素直に美人だと認めるくらいの美貌の持ち主である。一緒に仕事をしていた雑誌モデルの女の子たちよりも、顔もスタイルも綺麗だと思う。
しかも、品があるのだ。きっと良い家の出だろう。
はっきりいって、この先輩が声を掛ければ、そこらの男どもは先を争ってついてくる。選り取りみどり。俺もそれなりだと自負してはいるが、貧乏勤労学生じゃ適わない。
「まぁな。好みのタイプだけど。お前、俺には興味ないじゃん」
はっきり云う人だ。ホントに。

家の中は綺麗に片付いていた。というよりも、何も無かった。
「シャワーはそっち。台所も勝手に使っていいから」
パソコンラックの周囲にいくつもの本棚。専門書も大学の図書館よりも品揃え良さそうな感じだ。原書もかなりある。
「先輩。これ読んでもいいですか?」
「ああ。無理云って揃えたのもあるからな。俺はかなり雑学な方だから、読み応えだけはあるぞ」
言い置いて、鈴木さんはシャワーを浴びに行った。
扉の閉まる音にはっと顔を上げる。つい本に夢中になってしまったが、多分あの人、昼から何も食ってないぞ。
おそらく調理器具は無いだろうと踏んだ俺の読みは正しかった。
電子レンジだけはでっかいのが座っているが、それ以外は何も無い。お湯沸かすときもレンジ使ってそうだな。
コンビニで買った鍋焼きうどんを作る。生鮮食品もあるコンビニだったから、葱を刻んで、肉と卵とあげを入れた。
「ん? 何か美味そうな匂いするな」
「宿泊代です。どうぞ」
シャワーから出て、寝間着だが部屋着だかわからないトレーナー姿の鈴木さんが鼻をくんくんさせる。
キッチンの対面カウンターの上にそれを置くと、鈴木さんは当たり前のように食べだした。割り箸が似合わないことこの上ない。
俺はそれを横目で見て、鈴木さんの本棚へと向かう。
貧乏学生ではお目にかかれない宝の山に、嬉々として没頭した。

「お前。まだ読んでたの?」
気がつくと、日はとっくに昇っていて、鈴木さんが怪訝そうな声を掛けてきた。
「あ、すみません。夢中で」
「いや、いいよ。何なら、もっと読んでくか?」
「でも、邪魔じゃないですか?」
こんな所で、この人の男と鉢合わせは嫌だぞ。
「ああ。篭ってたら誰にも逢わないし、俺は楽でいいんだけどさ。さすがに正月の実家のパーティは出ないと不味いけど」
「パーティ?」
実家で? やっぱりいいところのお坊ちゃんなんだ。
「じゃ、買い物、引き受けましょう。その間のご飯は俺が準備しますから」
「昨日のあれ、美味かったな。また作れよ」
鈴木さんはそのままパソコンへと向かうと、ネットサーフィンを始める。
俺は少し仮眠を取ろうとソファの上へ寝転がった。


「で?」
「でって?」
イラついたように指でテーブルを叩きつつ、宮川が促した。
「何も無かったんですか? 何日も一緒にいて?」
「ああ。俺は本に夢中で、判らないところは義彦が講義してくれて。義彦も本とパソコン三昧だったな」
今考えると、義彦の綺麗な横顔を眺めつつ、読書三昧で、結構幸福を噛み締めていたような気がする。
「はー、ゴチソウサマでした」
宮川の口調には何処か呆れた響きがあるが、あの当時は俺も子供で、妙な意地を張っていたのだ。
先輩のその他大勢になんか絶対になるもんか、と。
それこそがもう捕まっている印だと気付かずに。
「じゃ、失礼します。ここ奢りですよね?」
「ああ、まぁな」
奢るつもりで部下を誘ったわけだが、何でそこを強調する?
「甘酸っぱい青春の思い出話なんかを部長のお口から聞けるとは、意外すぎて。ウチの番犬にはそこまでの不憫な真似はさせたくありませんので」
宮川。お前、何気に失礼だぞ。
綺麗に身を翻して、店を出て行く宮川と入れ替わりに、店の扉を潜ったのは、我が女王陛下だ。
さすがというか、そういう店では無い筈なのに、店員が扉を開けている。
もう、あれは身に染み付いた貫禄という奴だ。
俺も気付いてなかっただけで、学生時代からとっくに下僕だったのかもしれない。


<おわり>

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