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王者の後継<18> 

「殺されたのは、我が孫です! 陛下の御愛妾の姪ですぞ!」
朝議の席で立ち上がったのは、アルセリアの三大公爵家のひとつ、ロゼン家の当主であるカリフだ。
「しかも、犯行に及んだのは一介の騎士だというではありませんか!」
「控えよ。ロゼン公。陛下の御前だ」
芝居がかったロゼン公の激高を、内心呆れながらも、恭しい響きで遮ったのは、アルセリア国王の懐刀と称されるネイスト・ハンズである。
「ティアンナへ引渡しを要求されるのでしょうな?」
ネイストの言葉に、座りはしたものの、ロゼン公の口が閉じることは無い。
アルセリアの朝議の席で、繰り広げられる猿芝居に、むしろ国王であるゼルダムは落ち着き払っていた。
「何ゆえにそのような要求をせねばならんのか、理解に苦しむな」
「陛下!」
再び立ち上がりかけたロゼン公を目線で制し、ゼルダムは重々しく口を開いた。
「死んだローザと名乗っていた女だが、齢五十を過ぎた女魔術師だそうだ。これについてはハンズが裏を取っている」
恭しく、ネイストが頭を垂れる。
「つまり、貴公の孫だと云う者とは別人だ。しかも、この者はレイディエ陛下の娘であるということらしいが、ご存知の上かな?」
滑りの良かったロゼン公の舌が凍りついた。
当たり前だ。ティアンナ国王の娘を語った偽者と知っていて、自分の孫だと云っていたとなれば、同盟関係にある隣国の国王を謀ったということになる。
「その上、先程おっしゃっていた一介の騎士だが、私の知人でな。我が妃を共に助け出した盟友でもある。我が国でも『焔の剣の騎士』といえば知らぬものは無いぞ。この女、不遜にもこの者の暗殺を企てて失敗したらしいが」
朝議に出席している大臣や、高官の中にはリベアを知っているものも多い。ざわめきが広がる中、ゼルダムは、一旦言葉を切って、ロゼン公に視線を送った。
「そ、そのようなことは知りません」
視線の集中する中で、ロゼン公は凍りついた舌を何とか動かした。それ以外の答えなどあろう筈も無い。
「それは重畳。で、ございますね。陛下」
「うむ」
ロゼン公をはじめとする三大公爵たちの不安を一身に背負う形で、ネイストは言葉を引き取った。
そのまま、次の議題に移る。
ゼルダムは、生真面目な友人を自国の権力争いに巻き込む恐れが無くなったことに安堵して、意識を朝議へと戻した。


「あの女魔術師に、魔術を与えたものを見つけ出すことが先だ!」
「確かにの。だが、表立っては出来ぬ。今、西の宮も一枚板でないことを王宮に悟らせる訳にはいかぬだろう」
「俺たちは隠密行動には向かんからな」
集った魔術師は、上級魔術師たちだ。
紅、碧、蒼の魔術師たちの言葉には、確かにうなづける所もあった。
「私たちではどうでしょうか?」
名乗り出たのは、紅の弟子ふたり。暁のヤコニールと朱のモニクだ。
「瞳の色さえ隠せば、我らなら姉弟ということに出来ます。まだ、若いと油断を誘うことも出来ましょう」
何処か少年めいた面差しのモニクと、少女のようなヤコニール。魔術師だと知られなければ、好奇心旺盛な姉弟ということになるだろう。
それを遮ったのはシィドリアだ。
「私ならば、まだ顔も知られてはおりませんし、流れの魔術師と云う事で、街で暮らすことも出来ます」
いくら瞳の色を変えても、モニクとヤコニールでは、騎士たちに顔が知られすぎている。
「いいだろう、やってみろ」
決断を下したのは蒼のソルフェースだ。はぐれ魔術師を操っていたものを燻りだすには、街の状況を探ることは必要だ。
もし、それで現れなければ、内部を疑わなければならない。
「これ以上の疑惑を呼ぶことは避けねばならん。頼んだぞ」
蒼のソルフェースの手が、肩を叩くのに、シィドリアはうなずいた。上手くやってみせる。誰よりも。
シィドリアの脳裏を、小さな子供の影が掠めた。
そして、自分こそが蒼の後継になるのだ。


「久しぶりだ。と云っても、以前から数ヶ月しか経ってはおらぬな」
リベアの来訪を、迎え入れた相手は、歓待の意を示して、近衛の騎士を下がらせた。
「本日は陛下にお話したきことがあり、立場も弁えず、まかり越しました」
片膝をつき、礼を取ったままのリベアと、隣で土下座に近い状態で頭を下げたレイサリオを見て、ティアンナ国王・レイディエは溜息を吐いた。
「堅苦しいことよ。まぁ、以前とは立場が違ってしまったのだから、仕方があるまい。面をあげよ」
リベアはすっと顔を上げた。
「そのような場所では話も出来ぬ。近こう寄れ」
控える従者に命じて、茶を入れさせる。
「小さな魔術師には、まだ菓子が良かろう」
こうやって、テーブルを囲むのは、皇女・レイシアが隣国へ嫁いで以来、初めてのことだ。
だが、生憎と浸っている暇はリベアには無かった。
「お預かりしたもの。お返しに参りました」
テーブルの上に差し出されたのは、レイディエから預かった小箱だ。
「欲の無い。これを持っておれば、私が死んだ後、傀儡を仕立てて、如何様にもこの国で権勢を振るうことが可能だと云うのに」
「生憎、背伸びをしたまま生きるのは性にあいませぬ」
「そうか」
きっぱりといい放ったリベアに、レイディエは口元に微笑を浮かべる。そう、兄のように慕ったこの男はそういう人間だ。
「小さな魔術師。養父殿は優しいか?」
「はい! とても」
「養父殿はとても立派な人だ。良く云うことを聞いて、勉学に励むと良い。きっとよき道を示してくれるであろう」
頭を撫でながらの言葉に、うなずいた。
「陛下。そろそろお時間でございます」
「やれやれ、せっかくのいい時間だったというのに」
侍従の声に、レイディエが立ち上がる。
「生涯、ただ一度きりの恋であったよ」
去り際に、レイディエが呟いた。
「わが子にはそのような思いはさせたくないのだ。判ってくれるな?」
リベアはゆっくりと首を振る。うなずくことは出来なかった。
「それを決めるのは私ではありません」
「そうか」
レイディエは寂しげに微笑んで、その場を立ち去る。レイの手を引いたリベアもまた王宮を立ち去った。

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