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いつか……<西銀座一丁目テーラー角田>番外 

秋の無料配布本は「西銀座」&「転げ落ちた先に」のコラボでした。
角田の店に、渥美と鈴木がスーツを作りに来る話です。


【いつか……】

「いらっしゃいませ」
角田の声に、栄太は慌てて背を伸ばした。
栄太は客であって客ではない。実のところ、このテーラー角田の店主の、年の離れた恋人である。
そのため、栄太は角田の店を訪れる際には、常に角田が作ってくれたスーツを身に着けていた。
まだ、年若い栄太にとって、恋人の役に立てる数少ない役割が、角田の店の商品見本としての自分だ。故に店に客が入ってくると緊張してしまう。
今日の客はスーツ姿の二人組みだった。
スレンダーというよりは痩せ過ぎといった感の強い男と、がっしりとまではいかないが、それなりに男らしい体つきのスーツの似合う男前だ。
「鈴木さま。話には聞いておりましたが、随分とお痩せになられましたね。採寸を取り直させていただいても?」
「ああ。そうしてくれ。あと、こいつに一着作りたいんだけど」
鈴木さまと呼ばれた痩せた男は、尊大な態度で後ろにいる男を親指で指した。
「これは、はじめまして。店主の角田と申します」
「渥美です」
慣れた手つきで行われる名刺交換を、栄太はさりげなく観察する。社会人二年目の栄太にとって、まだまだ勉強しなければいけないことは多い。
「鈴木さま。この間、ご両親が選んでいかれた布でお作りしてよろしいですか? それとも、それとは別に作られますか?」
「両方にしてくれ。義彦、それでいいな?」
「ああ。別に」
自分の事だと云うのに、怠惰を前面に押し出した鈴木の返事はどうでも良さそうだ。
採寸のため上着を脱いだ鈴木の身体に、珍しく角田が眉をひそめている。
「鈴木さま。私が今までお作りしたスーツ。今、お召しですか?」
「ああ。角田さんのスーツは着やすいし、気に入ってるけど?」
「出来れば、今度リフォームさせてはいただけませんか? これでは身体にあっていません」
サイズが大幅に変わっているわけでは無い。元々、スレンダーな割には肩幅が広く手足も長い。だが、身体の厚みが明らかに変わっているため、ラインが心配なのだと角田が告げると、隣にいた渥美の方が返答した。
「じゃあ、今度持ってこよう。こいつは無頓着すぎる」
「ああ。じゃ、そうしてくれ」
言葉遣いは対等ではあるが、態度はまるで良きに計らえ状態。それを横目で見つつ、栄太は背筋を伸ばして、カタログをめくるフリをする。
サクラと云うわけでは無いが、角田が店に出ている間は共にいたい。だが、自分は客で手伝うことは出来ないし、また角田もさせない。
自然、手持ち無沙汰に客としての振る舞いをしながら、角田の作ったスーツを見せびらかしているのが本当のところだろう。
自分に似合うように、作られた角田の最高傑作(だと栄太は信じている)。
「角田さん、あの彼のスーツ。いいね。あれも角田さんの?」
「ええ。うちでもっとも若いお客様でして」
「なぁ、俺には合わないけど、お前はどうよ?」
「俺にもあのラインは若すぎるだろう」
「渥美さまはもっとシャープなラインにいたしましょうか?」
サラリーマンとしてあまり冒険は出来ないが、それでも少しラインを変えることは出来る。
こういう時に、栄太は少しだけ得意になってしまうのだ。
自分のスーツ姿で、いつもとは違うものを作ろうと思ってくれれば、それでいい。角田の腕の見せ所が出来る。
「そうだな。こいつの男ぶりが上がるのは悪くない」
鈴木の言葉に、渥美はシニカルに口の端を上げた。褒められているのが面映いといった顔。
それを目にした瞬間、栄太には判ってしまった。この二人がどういう関係か。
「それでは鈴木さま。出来上がりましたら、ご連絡させていただきます」
「ああ。角田さん、頼むよ」
鈴木は入ってきたときと同様に、渥美を従えて出て行った。
「義彦。飯は?」
「和食にしろ」
漏れ聞こえてくる会話も、まるきり王様と臣下の図だ。

二三の客を接客して、角田がデザインや縫製をしている間の店番をしていると、一日はあっという間だ。
名残惜しくとも夜は来て、明日も仕事のある栄太は帰らなければならない。
「角田さん。また来るから」
若い恋人の可愛らしい言葉に、後ろ髪は惹かれるが、定休日前という訳でもない夜では如何ともしがたい。
さすがにそう度々泊まっていては、母親にも言い訳が立たない。
大人の角田に出来るのは、聞き分けることだけだ。
「澄夫さん」
後ろから抱き付かれたかと思うと、唇をふさがれる。
一瞬、店先であることは脳裏を掠めたが、引き剥がそうとは考えなかった。
口中を舌が這い回るのを、好きにさせる。
名残惜しげに唇が離されると、思わず溜息が漏れた。
「ごめん。我慢できなかった」
「それは私も同じですよ。栄太くん」
笑って受け止めてくれる恋人に、甘えていると思う。
早く大人になりたい。
栄太の脳裏に昼間に見た鈴木と渥美の姿が過ぎった。寄り添う姿は自然なものだった。
でも、それは今じゃない。
「澄夫さん。また」
振り切るように顔を上げた。
「ええ。栄太くん」
包み込むように笑う。いかつい筈の顔が、まるで子供の成長を見守る父親のように優しく柔らかく。
まだ、それに甘えている自覚はある。
だが、いつか。
店の角。手を振る栄太に、店の前に立った角田が同じように手を振った。
そして、歩き出す。いつか、追いつく為に。

<おわり>

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