スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
*Edit TB(-) | CO(-) 


ずっと傍に<桜の庭> *R15 

「今日は何?」
姉は数日前から、身を起こすことすら出来なくなった。長患いの身体は、もうすでにぼろぼろだ。
「百合の花だよ。真っ白な綺麗な花だ」
「そう」
それでも微笑んだ姉は、美しかった。
この時ほど、自分の言葉のつたなさを悔しく思ったことはない。隣の家の切り窓は我が家に向けて作られたものだ。
日替わりで活けられる花は、全て姉に捧げるものだと、一目で判った。
「あの人を、お願いね」
目を見交わすだけの数ヶ月。それでも二人の心は確かに繋がっていたのだ。
翌朝、姉は二度と目を覚ますことなく逝った。

姉を送った数日後、気付くとあの切り窓から花は無くなり、ぴったりと閉じられた障子は二度と開くことは無かった。

そして、十年が過ぎた今、俺はその切り窓を開く。
住宅街の中ではあるが、ここも向かいの家も、庭に照明などを入れるような住人たちではない。闇の中にそろそろ夏の装いの花が白く浮かびあがり、月の明かりが部屋に差し込んだ。
「竹間?」
後ろから伸びてきた腕が、俺を抱きこむ。
「何でもありませんよ。旦那、もう休まれてください」
少し感傷に浸っていただけなのだが、旦那は不安を誘われたようだ。
俺が逃げ出そうとしたことは、いたく旦那の心を傷つけてしまったらしい。眠るときには、旦那は俺を離そうとしない。
「お前は、未だに『旦那』のままなんだな」
旦那がハンサムな眉をひそめるが、寝るとき以外に『要さん』などと呼ぶのは、恥ずかしすぎる。
曖昧に笑ってやり過ごそうとした私の腕を、旦那が引いた。
視点がひっくり返って、旦那越しに天井が見える。そうして、ゆっくりと旦那の顔が近づいてきた。
重なる唇を受け入れる。
物静かな旦那が、この時ばかりは荒々しい仕草で、俺の肌に触れてくる。それだけでも俺には嬉しい。本来、旦那は女性しか相手にしない。佐倉ならともかく、俺のような男そのものの身体でも、旦那が喜んでくれる。
「だ、んなぁ」
思わず、甘えた声を上げて、背にすがりついた。
そうすると旦那は意地の悪い声で、必ず、こう云うのだ。
「竹間。私が欲しいか?」
先を求めて、震える俺の身体を見透かしたような声。だが、これに答えなければ、旦那が先に進むことはない。
「ほ、欲しいです。旦那…ッ、要さん、来て」
男臭いニヤリとした笑みを浮かべた旦那が、俺の中を乱暴に穿つ。
「あ…、んんッ、」
痛みもあるが、それ以上に求められている充足感があった。
俺の中で動く旦那の顔は、眉が寄せられ、汗が散って、男らしい。
以前の感情の凪いだ静かな顔でも、佐倉といたときのような浮わついた顔でもない。大人の男の色気の発散された、ずるい男の貌。
知っている。旦那は俺が居なくなるのが怖い。だから、抱く。俺を好きだからではない。縛るために抱くのだ。
でも、それは色恋よりも強い執着。俺だけに向けられた、ずるくて悪い、ひどい男の貌。
『あの人をお願いね』
頼んだ姉は知っていたのだろうか。ひどくて弱い人だと。
「何処にも行くな。竹間。お前は私のものだ」
掻き抱く腕は強いのに、瞳はすがるような色彩を浮かべている。
「ええ。要さん。何処にも行きません。ずっと貴方の傍にいます」
誓う言葉に込められた真実は届かない。
それでも、俺はあの人の傍らにあるだろう。ずっと、貴方の傍に。

<おわり>

絢瀬から見たその後。
ある意味、終わっている人たち。
<夏の庭>

FC2 Blog Ranking
完結小説一覧

スポンサーサイト
*Edit TB(-) | CO(0)


~ Comment ~















管理者にだけ表示を許可する


Back      Next

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。