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英雄の従者<王者の後継> 

「王者の後継」新刊発行時につけた、無料配布のペーパーです。
本編「王者の後継」はこちら

【英雄の従者】

「君がウィルクス・バード?」
「は、はいッ!」
勢い良く立ち上がった俺が見下ろされるくらいの、体格のいい男が目の前にいた。
「ふーん」
男はじろじろと俺を品定めすると、大きくうなづいた。
「まぁ、いいか。僕がいられない時間だけだし」
その言葉で、俺は目の前にいるのが、リベア・コントラさまの唯一の従者にて、副官のマーロウ・エデンさまだと気付いた。
「来なさい。リベアさまに紹介しよう」
マーロウさまはそう云って、先へ立って歩き始める。足は速く、大股の所為か、追いつくのに必死だ。
「君、彼女いる?」
「はい?」
歩きながらの質問に、俺は首を捻る。何か聞き逃しただろうか? 話が繋がらない。
「いないの? 男性が好きだとか、そういう趣味じゃないよね?」
「はぃい?」
今度こそ、素っ頓狂な声を上げてしまった。すれ違った騎士の何人かが振り返る。
「な、な、何ですか? か、彼女はいませんけど、おッ、俺は女の方が、」
かなり挙動不審な仕草で、拳を上下させながら力説した。確かに彼女なんて、淡い初恋以来縁の無い、モテない俺だが、だからといってそんな趣味を疑われるとは言語道断って奴だ。
「いや、リベアさまって、結構好かれやすい人だからね」
「は?」
「そういう人たちに」
俺の思考は今度こそ停止した。


「リベアさま。新しい従者候補です」
「ああ。入れ」
俺はドキドキしながら、扉を潜った。
リベア・コントラさま。ティアンナで唯一の魔封じの剣を持つ、選ばれし騎士。水竜を従える焔の剣の騎士。
すでにその名は伝説だ。
従者を募集すると聞いて、思わず飛びついてしまったが、倍率は恐ろしく高かった。従者一人になんと、四十人の応募があったのだ。
聞くと、マーロウさまの時には、収拾が付かずに剣の試合になったのだそうだ。
「ウィルクス。リベアさまだ」
顔を上げた俺の前にいたのは、騎士としては小柄な身体の男だ。
だが、座っているだけだというのに、独特の迫力があり、キツイ目つきにじろりと見られて、竦みあがった。
「ウィルクス・バードです! よ、よろしくお願いします!」
自己紹介の声が裏返る。それを聞いた、リベアさまの目が丸くなった。
「緊張しなくてもいい。俺の従者なんか、殆どやることは無いんだ」
「リベアさま。僕のいない間に甘やかさないでください」
頭を掻きながらのリベアさまの台詞に、マーロウさまがぴしりと釘を刺す。まるで旦那に文句を云う女房のようで、つい笑いをかみ殺してしまった。
「僕が結婚することなったんで、新しい従者を募集したんです。そういうことをおっしゃるのであれば、もう二三人付けますよ?」
「勘弁してくれ。マーロウ」
降参だとリベアさまが諸手を挙げられる。
「まぁ、僕が教育できない分、応援は呼びましたけれどね」
第一騎士団と近衛騎士団の二隊が住むこの塔には、家族を連れてくることは出来ない。結婚を機に、通いになるものも多い。
「応援だって?」
「リベアさまにお任せしていたら、世話なんかいらないって、従者を下がらせておしまいになるじゃないですか。きちんと教育できるものを呼びましたので、諦めてお世話されてくださいね」
にっこりと笑ったマーロウさまは、さすがに貴公子といった風情で、すっと身を翻された。
代わって入ってきたのは、薄茶の髪に紫紺の瞳の少年だ。
「魔術師?」
「何だ、ヤコニール。応援はお前か?」
驚いた声を上げた俺に対して、リベアさまの声には呆れた色が濃い。
「私ならリベアさまのお世話は慣れているだろうと。マーロウに頼まれまして」
クスクスとさざめくような笑い声は、何処か少女めいていた。切り揃えられた髪もその印象を強くしている。
「まったく、お前たちは何時の間にそんなに仲が良くなったんだ?」
「頼まれごとを引き受ける程度には。ウィルクスだね。私は暁のヤコニール。この第一騎士団の守護魔術師の一人だ」
「はい! よろしくお願いします!」
振り向いた魔術師に、俺は緊張気味に頭を下げた。守護魔術師に会うのははじめてだ。しかも、それが自分の教師役と来ては、緊張もしようというものだろう。
「では、リベアさま。御用があればお呼びください」
にっこりと笑うとリベアさまの前を下がる。
俺は慌てた。
「あの、お世話はしなくていいんですか?」
「もちろん、するよ。リベアさまはずっとそばにいると、緊張されるから。リラックスしてもらうのが目的なんだから、一緒にいる必要はないの」
ヤコニールはちらりと俺を見上げた。明らかに馬鹿にした瞳で。
「リベアさまは一人でおられるのがお好きだ。手を煩わされるのは悪いと思っておいでだから、こっちで気を使うんだよ」
ツンとしたまま、ヤコニールが向ったのは厨房だった。どうやら、出入りは良くしているらしく、厨房の連中に俺を紹介する。
「お酒は、お休みになる前。お茶は華茶がお好きだ。頃合を見てお持ちしてくれ」
「リベアさまは遠慮がちな方だからな。だが、わがままもおっしゃんねぇし、お優しいし。お使えするのは楽だぞ」
厨房の連中が、うらやましげに俺に声を掛けた。上級騎士には、貴族のお坊ちゃんが多い。従者を使用人扱いするものも多いのだ。
朝支度は水。修練後にお湯を要求されるが、手桶一杯でいいのだそうだ。
「修練中にお怪我をなさることもあるから、布は常に清潔なものを」
「怪我?」
リベアさまは、この塔で一番お強いのだと聞いている。それなのに、怪我をするのか?
「ああ。君はリベアさまの修練は見たことが無いんだ?」
「俺たちは、まだ、上級騎士が修練している場所へは」
同じ場所を使って鍛錬してはいるが、上級騎士が来たら、場所は譲らねばならない。
「じゃ、明日連れてってあげよう」
悪戯っぽい目を輝かせたヤコニールは何処か楽しげだった。こいつ、結構いい性格してるぞ?

翌朝から、ヤコニールに並んで俺もお世話をする。ヤコニールは細かいことまで気が回り、マーロウさまが任せる気になるのも判る手際だ。
朝食の後、修錬場へとリベアさまが向う。
腰の剣は、簡素な厚刃のものだ。
リベアさまが修錬場へ出ると、待ち構えていたかのように、あちこちから声が掛かる。特に近衛の騎士たちは我も我もと、リベアさまに手合わせを申し込んではやられていた。
小柄だが、厚刃の剣を振り回す勢いに、体重を乗せてくる。
大柄な男でも、正面から受け止めては吹き飛ばされかねない勢いだ。
「ヤコニール!」
リベアさまが大声でヤコニールを呼ぶ。ヤコニールは少女のような顔に、げんなりとした表情を浮かべていた。
「リベアさま。私はお手合わせは苦手なのですが」
「嘘吐きめ。そこいらの新人より使える癖に」
「私が修練しているのは、皆さんの足手まといにならない為なんですよ。私の方が強かったら、話にならないじゃないですか」
「実践なら、お前は魔術を使うので忙しいだろう。戦う暇なぞあるか」
俺はびっくりして言葉も無い。この少女みたいな少年魔術師が、俺たちより強いって?
「仕方ないですね。これで無様に負けたら、きっと碧のアデレードに怒られそうな気がするんですが」
「碧殿の仕込なら、無様に負けたりなどせんさ」
溜息を吐いて、魔術師が剣を抜いた。守り刀のような短剣が、腰から引き抜かれると同時に長剣に変化する。
ひらりと舞ったかと思うと、その姿は、すでにリベアさまの遥か上にあった。
高く飛び上がった上からの剣は、鋭く重い。
リベアさまの剣と激しい打ち合いになった。双方とも動きは早い。
リベアさまの小柄な身体は、ヤコニールの鋭い切っ先を交わし、その交わした先へヤコニールが切りつける。
皆がじっとその動きを見守る中、ヤコニールの足が払われた。
すばやく体勢を立て直したかと思う矢先に、ヤコニールの懐めがけて、リベアさまが飛び込む。ヤコニールが払うように振るった剣先が、リベアさまの肩を掠めた。
「ま、いりました」
そのまま固まったヤコニールが声を上げる。リベアさまの剣は、ヤコニールの首筋に添えられていた。
「すごい……」
俺は呆然と二人を見つめていた。まるで鳥が舞うようなヤコニールの動きと、それを止めたリベアさまの剣。どちらも常人では無い。
「ウィルクス!」
俺を呼ぶ、ヤコニールの声に我に返った。
「リベアさまのお手当てを」
「は、はい!」
リベアさまは掠った剣先によって、お怪我をされている。
成程、こういう戦い方をされるのであれば、始終お怪我をされているだろう。
「そんな大した怪我でも無い。気は使うな」
「マーロウに云い付けますよ」
ヤコニールの意地の悪い云い様に、リベアさまが口を閉じた。これ以上はやぶへびだと思われたことは明らかだ。
俺の手際の悪い手当てにも、文句は云われない。が、もたもたしすぎて、俺の方が申し訳がなくなってきた。
「で、出来ました!」
ほっとして思わず申告すると、リベアさまがふわりと柔らかく笑われ、頭を撫でられる。
「ああ。ありがとう」
常ならば、子ども扱いに腹を立てるところだが、あまりにもキツイ顔立ちとのギャップに、見とれてしまった。
「…ッ、」
ヤコニールが強く俺の脇腹を小突く。はっと我に返って、修練を続けるリベアさまの前を退した。

「見とれてるんじゃない。お前、本当にそういう趣味?」
「そんな訳ないだろ! ただ、あんまり柔らかく笑われるから」
じろりと俺を見たヤコニールに、強い調子で言い返す。
「まぁ、解る気はするけどね。リベアさまは大層魅力的な方だから」
俺の反論をまったく聞かずに、ヤコニールが一人で納得していた。
「違うって云ってるだろう!」
「それなら、それで構わないけどね。リベアさまは別に気にはなさらないし、いざとなっても返り討ちに合うのがオチだから」
ヤコニールが俺を不憫そうに見上げる。コイツの方が、余程リベアさま至上じゃないか。
疲れた俺は、修練なさるリベアさまに目線を送った。
野生の獣のように、相手の隙を逃がさない手際は、見事なものだ。騎士としてお仕えするのに、これ以上の方はいらっしゃらないだろう。
そのリベアさまのお相手は、何人倒しても、我も我もと湧いて出る。
が、その連中の中に、リベアさまに叩きのめされたにも関わらず、うっとりとリベアさまを眺めているものが数人いた。
「あ~あ。懲りないよねぇ?」
ヤコニールの言葉に、俺は今度こそうなずかざるを得ない。
成程。信じたくないが、騎士団にはそういった趣味の連中もいるわけだ。気の毒に思っていいのか、不逞の輩だと眉をひそめるべきか。
俺はちょっと迷って、きっぱりと無視することに決めた。
リベアさま、お仕え出来るのは幸せですが、この先、受難が待ち構えているような気がするのは、俺の気の所為でしょうか?


<おわり>

番外SS<王冠>

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