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専業主夫・金居岳の場合<1> 

さて、新連載の開始です。

金居岳。三十二歳。都内の建売で、従兄弟兼恋人の理実とその息子・知己と暮らす、ゲイである以外は、極々平凡な男。
それがある日、突然のリストラに合い、生活が一変する。


【専業主夫・金居岳の場合】

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<10> <11> <12> <13>完
番外編<ターゲット> <庇う背中>

とぼとぼと家路を辿る。その足が重いように感じるのは気の所為ではないだろう。金居岳(かないたけし)は、三十を過ぎてめっきりと体力の衰えた身体を、引きずるようにして家の近くの公園を横切った。
宵闇のせまる公園は、夏の盛りも近いとあって、暑さが堪える。
ぐいっと額の汗を拭うと、背後から小さな子供に飛び掛られた。
「パパ、お帰り!」
満面の笑顔を見せる子供に、疲れた顔など見せる訳にはいかない。岳は無理やりに笑顔を作り、子供を抱え上げた。
「ただいま。知己(ともみ)」
十歳になる知己は、活発で頭のいい子供だ。同居している従兄弟の子供なのだが、従兄弟よりも岳によく似ていて、親子と間違われることも少なくない。
年若い従兄弟の子供だと云うと、奇妙な顔をされることも多いので、『パパ』という間違った呼び名を、外であえて訂正させることも無かった。
「パパ。今日は早いんだね」
「うん。しばらくは早く帰れるよ。お友達はいいのか?」
「うん! バイバイ、明日ねー」
知己が抱えられたまま、手を振る。もう、そろそろ夕飯の時間だ。岳は苦笑いをしたまま、知己を腕に抱えたまま、家路についた。

「岳?」
「ただいま」
ちょうど帰宅したらしい従兄弟の理実(さとみ)と玄関で出くわすと、理実は驚きを顕わにした顔で岳を眺めている。それはそうだろう。どちらかといえば会社人間な方である岳が、こんな時間に帰宅すること自体が驚愕でることは岳自身にも理解できる。
だが、説明の前に疲れ果てている身体を休めたい。
「待った。理実。説明は後だ。とりあえず、腹減ったし、風呂にも入りたいんだが」
「あ、ごめん。すぐに用意するよ」
ばたばたと理実が家の中へと消える。その後姿を見ながら、溜息と共に知己を腕から降ろした。
「パパ? 理実ちゃんと喧嘩した?」
溜息の訳を、知己は子供らしい理由付けをしたらしい。が、それに静かに岳は首を振った。
いずれは子供の耳にも、親同士の勝手な憶測が入るだろうことは確実だ。
理解できるようにきちんと説明しなければならない。
「知己。パパと一緒にお風呂入るか?」
「一人で入れるよッ!」
子ども扱いされたことに腹を立てたらしい知己の頬がぷぅっと膨れた。それに少しだけ和んで、知己の手を引いてドアを潜った。

「リストラされた」
「は?」
風呂上りのビールをあおった岳の言葉に、理実は目を丸くした。
夕飯は肉じゃがと味噌汁の簡素な男の食卓だ。男の三人所帯であるこの家の夕飯は常にこんなものだった。
「週末までは、引継ぎがあるんで会社へ行くが、その後は無い。一応、三ヶ月分の給与と退職金が支払われる」
淡々と事実を告げたが、内心のショックは隠しきれない。
会社が傾きつつあるのはなんとなく察してはいたが、それでリストラを突きつけられた事実が和らぐわけではないのだ。
「だって、岳、今まであんなに頑張ってたじゃないか!」
「だからこそ、だ」
さすがに年寄り連中を切るわけにはいかない。サポートとしては給与の安い若い連中を残し、中堅層の給与の高い社員を切るのは経理上仕方が無い。
「とりあえず、来週から職を探すよ」
2LDKの小さな家だが、まだローンが残っているし、知己の学費もある。せめて、退職金には手をつけたくなかった。
「パパ。りすとらって何?」
味噌汁を飲んでいた知己が顔を上げる。
「解り易く云うと、パパは会社を辞めることになった。しばらくは家にいる」
「え? ホント?」
知己の顔がぱぁっと輝いた。その単純な反応に、本当の父親である理実が苦い顔をする。
「知己。パパが会社を辞めたら、うちにはお金が無くなるんだぞ」
贅沢な暮らしはしていない。むしろ、一般的な家庭に比べれば倹しい方だろう。だが、それでも親子三人で、この都会で暮らしていくには最低限のものは必要だ。
「理実ちゃんが、もっとテレビとか出ればいいじゃん」
理実は役者である。だが、正直マニアックな人気しかない。やっと深夜番組やドラマの端役に抜擢されるようになったばかりだ。
「俺は出ないんじゃなくて、出れないの!」
子供の論理に、見栄を張っても仕方が無い。その点、この家の大人たちは現実的であった。
「俺、バイトの時間増やすよ。岳が次の職場に勤めるまでの間、俺が頑張るから、任せてくれよな」
理実は岳に向って胸を叩く。
岳は、頼りなげな笑みを浮かべた。六つも年上の従兄弟の儚げにさえ見えるこの笑みは、何よりも理実の胸を熱くする。
理実は、ゆっくりと岳を引き寄せ、唇を重ねた。
背ばかり高い岳のひょろりとした身体は、理実の腕の中にすんなりと納まる。
だが、これに黙っていないのが、放っておかれた形の知己だ。
「理実ちゃんだけずるい! 俺もパパとちゅーしたい!」
理実と知己の親子は、実のところ、岳を挟んでライバル心むき出しなのだ。
「ばーか。岳は俺のなんだから、当たり前だ!」
「パパは理実ちゃんだけのものじゃない! 俺のパパでもあるんだ!」
父親を『理実ちゃん』と呼ぶのは、知己の心理的なものでもある。あくまで、理実とは対等だと主張したいらしい。
岳は笑って、知己の頬にキスをした。
「知己とも理実とも俺がちゅーしてるのは、内緒だぞ」
「うん。男同士の約束だもんね!」
人差し指を口の前に当てた岳に、大きく知己がうなずく。
この子の為にも、頑張らなければ。と岳は、待ち受ける就職活動に意欲を燃やした。
それを見越したように、隣に居る理実に釘を刺される。
「あんまり、頑張りすぎないでね」
それは幼い頃から、従兄弟を見てきた理実の当たり前の心配だったのだが、その時の岳には、杞憂にしか思えなかった。

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