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専業主夫・金居岳の場合<4> 

注目されているのを感じる。
当たり前だが、教室の後ろに並んだ大人たちの中にあって、男性はホンの数人だ。平日の授業参観なら当たり前だろう。
特に若い岳は目立っていた。
ひょろりとした体型の所為か、元々、年の割りには若く見えるのだ。こんな大きな子供の父親には到底見えないだろう。それでも高校生で子持ちだった理実よりはマシだ。
着慣れた営業スーツも、今日は妙に窮屈な感じがして、幾度かネクタイの結び目に手をやってしまう。
「じゃ、これ解ける人」
「はい」
「はーい!」
ホワイトボードに問題を書き付けた教師が振り返るのに、あちこちから手が上がった。その中には、もちろん知己もいる。
「じゃ、一番早かった、金居くん」
「はい!」
中年の女教師は落ち着いた仕草と声で、知己を指名した。元気よく立ち上がった知己は、癖はあるが、元気一杯の字で答えを書き付ける。
「正解です。苦手なのに頑張ったわね。じゃ、次の問題」
なるべく多くの子供たちに問題を解かせようとする教師の配慮だろう。言葉少なに褒め、すぐに次に移る。
席に戻る知己が、誇らしげに岳を見るのに、拳を作って見せた。

授業参観の後は、懇談会だ。
父親の姿は少ない。しかも、いかにも教育熱心といった部類の男たちだ。
「金居知己の叔父です」
「お父様では無いのですか?」
自己紹介に、中年の女教師はメガネのふちを上げ、手元の書類に目を落とした。
「私の家で同居しております。父親は本日は収録がありまして」
「ああ。金居さんのところは役者さんだとか。私、医者をやっておりまして。草間洋子の父です。」
岳の答えに、でっぷりと貫禄のある男が腹を揺らす。明らかな侮蔑の響きを感じながら、岳は綺麗に無視をした。
「私、存じてますわ。舞台も拝見しています。綺麗な方ですわよね」
それを感じたらしい若い母親の一人が、理実を誉めそやす。それに男が鼻を鳴らした。どうやら、仲はあまり良くないらしい。
「従兄弟には、伝えておきます」
「浅井藤子の母です。私、かねがね考えておりましたの。授業参観は働いている親の見ることの出来る日時に行うべきですわ。暇な主婦ばかりではありませんもの」
どうやら、『とーこちゃん』の母親らしい。
「そんなのは言い訳でしかないんじゃないのかね? 実際、私も忙しい時間をやりくりしとる。金居さんだってそうだろう?」
「いえ、私、恥ずかしながら、只今求職中でして。仕事だったら、おそらくは来れなかったと思います」
いきなり水を向けられて、岳は思わず本音を吐き出してしまった。営業で近くへ来ることがあれば顔も出せたかもしれないが、通常に仕事をしていれば、無理だ。
「人を使う立場や、大企業なら可能なのかもしれませんが、中小の今の現状では一般社員が休みを取る理由としては不可能ではないでしょうか? 浅井さんの意見もちょっと考えに入れていただけると、ウチのような男所帯は助かりますね」
ついでとばかりに、普段考えていることを控えめに述べた。正直、学校の活動は、家に両親が揃っていることが前提のものが多い。
「まぁ、でも主婦は土日には父親が家にいるんですよ。それで出てくるのは無理です」
「そうですよ。旦那が許してくれませんよ。土日に外出なんて」
どうやら、岳の意見は主婦たちには納得のいかないものだったらしい。数人の母親たちから猛反発が起こった。
「だったら、旦那様にお留守番していただけばいいじゃありませんか。いらっしゃるんでしょ?」
皮肉たっぷりの浅井の言い草に、たちまち教室は喧々囂々。あっという間に、主婦対働く女性のバトル勃発だ。
岳はもちろん、草間もドン引きである。数人の男親の胸中は、ひたすら女同士のバトルが納まってくれるのを祈るのみだった。

「金居さん、待ってください。ちょっとお話しませんか?」
「はぁ。構いませんが」
何とか中年女教師の、双方共の言い分を聞いた上で、職員会議に掛けるという言葉で収まったバトルの後、疲れた気分で学校を出た岳を、藤子の母親が呼び止めた。
岳が会社へ通っていた頃によく使っていたオープンカフェに落ち着いたところで、浅井が身を乗り出す。
「岳、アンタ、ゲイじゃなかったっけ?」
「は?」
いきなりの名前呼び捨てと、意図のわからぬ質問に、岳は比喩でなく身を引いた。
「解んない? 緑よ。旧姓・金居」
「あーッ、緑? ホントに??」
「そう、偶然だねぇ。まさか、岳がこんなトコにいるなんて」
岳の郷里は関東の外れだ。働きに出ると云えば、東京である。なので、郷里の人間にあっても不思議では無いのだが。まさか、親戚にこんな場所で出くわすとは。
「離婚したのはもう随分前なんだ。藤子から『金居くん』の話は聞いてたんだけど、まさか、岳の子供なんて思わなかったからさー」
「だから、俺の子じゃないって。理実の子供! アイツ、年上の女と同棲してたんだけど、ある日、子供残して消えたらしくって。実家に頭を下げてたんだよ」
自分はどうでもいいが、子供だけは置いて欲しいと。
「おじちゃんたち、大反対でしょ?」
「まーな。ちょうど、その時、俺が帰省しててさ。ちょうど、建売買ったばかりだったし、ウチ来いよって」
毎年、年をとった両親が心配で帰省はするものの、ゲイだと公言して以来、身の置き場が無かった。そんな両親の纏める親戚たちが、夢を追ったあげくに、女に食べさせてもらっていた理実を良く思う筈も無い。
しかも、その女に愛想をつかされたとあっては尚更だ。
子供の前だというのに、罵倒を止めない親戚に岳の中で何かがぶちっと切れる。
気が付いた時には、自分の借りたレンタカーに、理実と知己を乗せて自宅へ向っていた。
「岳、意外と男前だもんね。その癖、ロマンチスト。どうせ、家買ったのも、いつか彼氏と、とか、おじちゃんやおばちゃんたちが年をとったらとか考えたんでしょ?」
言い当てられて、岳は微妙な顔をする。
もっと年をとった両親が自分を受け入れてくれたら、と考えたのは確かだからだ。年上の緑は、小さい頃に面倒を見てもらった所為もあり、岳はちょっと苦手だった。
「で、理実って、岳の彼氏?」
「黙秘権を行使する」
前日に見た理実のドラマの台詞を真似て、珈琲をすする。
親戚の罵倒の中、じっと頭を下げていた理実。後ろに子供を庇う姿は、まだ二十歳そこそこの筈なのに、立派に父親だった。
あの姿に惚れたのだ。
恥ずかしくて、まだ理実に云ったことは無いが。

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