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ジプシーカード<1> 

血の繋がらない弟の視線から、逃げ続ける兄。それはあの日の後悔が尾を引いていた。

<2> <3>完


「一実」
自分を呼ぶその声は、良く見知ったものであったが、遊佐一実はその声の主から逃げ出したい衝動に耐える。
必死に表情を押し殺して、振り向いた。
夕暮れのオフィス街に、ひどく不似合いな制服姿の少年がそこにはいる筈だ。
「やぁ、文弥。どうしたんだい?」
確信のあった一実は、もう少年と青年の狭間にいる『弟』の顔を見ずに、機械的に挨拶を口にする。
それを微妙に感じ取ったのか、もしくは言葉の選び方を間違えたのか、文弥の表情が歪んだ。
「どうかしなきゃ、声も掛けちゃいけないのかよ」
「そうじゃないが………」
しまった。怒らせてしまったとは思ったが、いかんせん上手い言い訳が見つからずに口ごもる。
「大体、この間から変だぜ。何、俺のこと避けてんだよ」
「別に避けてなんか――――」
自分でも白々しいと解っているからこそ、一実は自己嫌悪を禁じえなかった。
「じゃあ、何で俺の目を見て話さないんだよ! そんなの卑怯者のやることだって、一実が俺に教えたんじゃないか!」
背広姿の一実に掴みかからんばかりにして詰め寄る文弥は、もう一実より少しだけ背が高い。その成長に、出会ってからの年月を思う。
だが、いくら詰め寄られたところで、そのまっすぐな瞳を裏切るようなことはしたくなかった。
わざと深いため息を吐く。
「疲れてるんだ、文弥。大事な話じゃなければ後にしてくれないか?」
本当に疲れきった一実の口調に、文弥ははっと身体を引いた。
「悪ぃ、一実。俺――――」
自分の感情ばかりが先にたち、一実がここのところ忙しそうにしていたのに思い至らなかった己のうかつさを責めているらしい文弥に、そんなつもりでは無かった一実は、しまったと臍を噛んだ。
「すまない。ここのところ忙しいのは別に文弥の所為じゃ無いのにな」
確かに残業が多いのは事実だが、それは多分に一実が望んでの結果でもあった。
「でも、一緒に住んでるのに、気付かない俺も悪いんだ」
「文弥」
がくりとうなだれて唇を噛み締める文弥を、一実はぎゅっと抱きしめて子供のように頭を撫でたい衝動を抑えきれない。

「おい、遊佐。何やってんだ? 休憩終わったのか? 課長が呼んでるぞ」

衝動のままに伸ばした手は、突然後ろから掛かった声に我に帰ったように引かれた。
「あ、ああ。すぐ戻る」
同僚らしい男に返事をする一実に、文弥は自分が義兄の仕事を邪魔してしまったらしいことを悟る。
「ごめん。一実………」
相手のことさえ考えられないくらい子供な自分が、文弥は消えてしまいたいくらいに恥ずかしかった。
そんな文弥の様子に、一実はまたしても甘やかしてしまいたくなる。
「いや、ちょうど外の空気を吸いに出てきたんだ。文弥の顔を見て元気が出たよ」
にっこりと微笑んだ一実は、文也のイマドキの高校生には珍しい脱色されていない黒髪へ手を伸ばす。
だが、その手はいつまでたっても、いつものように文弥の柔らかな髪を掻き回すことは無かった。
「一実?」
「気をつけて帰るんだよ。今日も遅くなると思うから」
くるりと背を向けて、会社へ向かう一実を、文弥は見送るしかない。
一方、文弥に背を向けた一実は、ほっと息を吐いた。この数年の間に、幾度も隠し通した表情を隠しおおせた安堵に。


「遊佐」

オフィスのあるフロアに上がると、先ほど声を掛けてきた同僚が、再び一実を呼び止める。
「何だ? 梁川」
仏頂面のまま、一実が顔を上げた。さっき見た弟らしい少年の前で見せていた優しげな微笑はどこへやら。そこにいたのはいつも通りの厳しい顔だ。
「あれ、お前の弟なんだろ? 兄貴を呼び捨てか?」
同僚として過ごして5年以上になるが、梁川は遊佐一実のあんな表情を見たのは初めてで、押さえられない好奇心を刺激された。
それに、うんざりとした風を隠そうともせずに、一実が口を開く。この男に対するごまかしは、余計な好奇心を増すだけだ。
「『文弥』は、両親が事故死した後に引き取っただけで、血は繋がって無いからな。懐いてもらう為に名前で呼び合っていたのが癖になってるだけだ」
課長が呼んでいると云う部屋へと足早に向かいながら、簡潔明瞭に一実は告げる。
「もうひとつ。いいか?」
課長室への扉に掛けた一実の手が梁川に押さえられる。
「何だ?」
「お前、あの子。好きなのか?」

好き―――――どういう意味で?

瞳で問い返しはしたが、一実の口をついて出たのは、はっきりとした肯定だ。
「当たり前じゃないか」
その笑顔の鮮やかさに、梁川は毒気を抜かれて、その場に立ち尽くした。



「見合い―――ですか?」
「そうだよ。してみる気はないかね?」
堀田課長は卵で磨いたようなハゲ頭を揺らして、一実の顔を覗きこむ。面と向かって不快感を顕わにする訳にもいかず、一実は内心当惑するばかりだ。
「宮崎常務のお嬢さんなんだ。T大を出たばかりの才媛だそうだよ。しかも、かなりの美人らしい。君とならお似合いだと思うのだが」
宮崎常務に取り入る手段として部下を使おうというのだから、課長もたいしたものだ。と立石に水の状態でしゃべり続ける上司を、覚めた目で眺めやる。
一実は宮崎のいかにもやり手らしい隙の無い目つきを思い出して、ぞっとした。あの男の娘じゃ、いくら美人でもしれたものだ。
かといってあからさまに断るには角が立ちすぎる。
「どうかね?」
期待に満ちた堀田の視線を受け止めながら、こっそりと一実はため息を吐いた。


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