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銀杏の実り<1> 

サスペンス風です。
失踪していた友人・シノの遺体が発見された。シノは俺を遺言執行人に指名していた。
恋人である穣は、シノの失踪の原因を見つけてくれれば、遺産を受け取ると云いだす。

【銀杏の実り】

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<12> <13> <14> <15>
<16> <17>完
<守ること> <前夜>

葬儀はひっそりとしたものだった。
冷たい雨の降る中、奴の棺が出棺されるとき、気丈に堪えていた母親が泣き崩れる。
参列者の中からも、しゃくりあげる声があちこちから漏れた。
あいつの父親と弟に支えられるように、母親が車へと乗り込む。

不覚にもこぼれそうになる涙を堪え、俺はじっと火葬場へ向かう車を見送った。
親戚と数人の友人たちだけが見送る、華やかだった奴らしくない葬儀。
親戚だけが精進落しに残る家に、背を向けたとき、雨の中、傘もささずにたたずむ影があった。
参列者の中では見なかった顔。
切れ長の瞳が、じっと車の行方を見送っていた。
微動だにもせず、車を見送る姿は、その美しい容姿と相まって、まるで彫像のようである。
幾度か振り返ったが、真っ直ぐな背中が動くことは無かった。

     □□□

俺が深海家を訪れたのは、深海志信の葬儀の数週間後だ。
奴は俺を遺言執行人に指名していやがった。
「絶対に揉める。間違いない」
遺言で受取人に指名されているのは、まだ俺も紹介してもらっていなかった恋人だ。
だが、葬儀の席にそれらしい姿は無かった。
これは、恋人の存在を志信の家族が知らないか、歓迎されていないかのどちらかと見て間違いないだろう。
「あの野郎。死んでからまでやっかいごとを俺に押し付けやがって」
深海の美丈夫然とした顔を思い浮かべて、俺は深くため息を吐いた。
深海の家族と揉めたくなど無い。中学の頃からの友人同士である俺と深海の実家は、すぐそばにあるのだ。
俺は何とも無くても、家族にとばっちりが行くのは避けたい。
深海のように優等生とは云い難かった俺の評判は、厳つい顔の所為もあって、御近所では地を這っているのだ。
だが、きっとそれでも俺は、奴の遺言執行人の役割を断らないだろうと云う自覚はあった。
昔から、アイツの頼みを断れた例なんぞ無い。
「頼りにしてるぜ。コーキ」
そう云って、いつも深海志信――――シノは笑っていた。


引き締めた顔で、俺は深海家のドアの前に立つ。
扉を開けた母親は何処か疲れた表情をしていた。
「すみません。深海志信さんのお宅はこちらでしょうか?」
葬儀の時の混乱振りでは、俺の顔など覚えているかどうか怪しい。
「はい。ですが、志信は…」
やはり、怪訝そうな表情になった母親が、シノのことを話そうとした途端に、ぐっと詰まった。
「存じております。葬儀にもお伺いいたしました。弁護士の江尻と申します」
俺はあえて全部云わさずに、頭を下げ、名刺を差し出す。
刑事か暴力団かと間違われることの珍しくない俺の容姿では、さっさと名刺を差し出すに限るのだ。
「本日は、志信さんの遺言をお伝えに参りました」
「志信、の?」
呆然となった母親に、家の中へと招かれたのは、何事かと出てきた父親が玄関先まで出てきてからである。

焼香を先に済ませた。
話が終わってからでは焼香さえさせてもらえないかもしれない。
それほど、家族にとっては良い話では無かった。
ポケットから板チョコを取り出して供える。それを見咎めたらしい母親が、疲れた顔にうっすらとではあるが微笑を浮かべた。
「あの子の好物ですわ」
「志信くんとは中学・高校と同級生でした」
「そうですか。男の子はもうそのくらいになると家にも誰も連れてこなくて。全然知らないんです…」
ひどく残念そうに云う母親に、俺は少し申し訳が無い気分になった。本当は仲良くなった訳は別にある。そうでなくともシノは俺を親に紹介などしなかっただろう。
「深海さん。遺言をお伝えする前に、ひとつお伺いしたいことがあります。『椎名穣』という名に心当たりは?」
「しいな、みのり? いえ…先程も申し上げましたけど、あの子の交友関係は、さっぱり…」
「分かりました」
これは知らない方だな。とぼけている訳では無さそうだ。
応接ソファに腰掛け、深海夫妻と向かい合うと、俺は、事務所の名前の印字された封筒から、シノの遺言書を取り出した。
今、思うと何故シノがこんなものを寄越したのか。
その時には、この事態を見越していたのだろうか。
「ひとつ。深海志信の死後、全ての遺産を、椎名穣に譲るものとする」
夫妻は、突然目の前に差し出された『椎名穣』という名に首を捻っていたが、別段異論を唱える訳では無い。
「椎名穣というのは、あの子の恋人かね?」
「はい。志信くんが行方不明になるまで恋人関係にありました。茅野興産に勤める、トレーラーの運転手です」
父親の疑問は当然の結論だ。もちろん、こちらでも調べた結果である。
「トレーラーの運転手。随分と男勝りな…」
「でも、恋人ならどうして今まで名乗り出て来なかったんです? あの子の恋人なら一緒に…」
二人とも随分と好意的だが、この後の台詞を聞いてもそう云えるか。
「多分、誰にも二人の関係を云っていなかったのだと思われます。恋人だと二人が公にしていたのは、二人の通いのゲイバーだけです」
「はい?」
何か聞き間違えをしたという風に聞きかえされる。
「椎名穣は男性です。志信くんと知り合ったゲイバーで二人の関係を確認しました」

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