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銀杏の実り<3> 

「私が三輪ですが」
ガタイ良くて目付きの悪い俺が人を訪ねると、大抵の人間は『警戒心もあらわな目付き』で俺を見る。
シノの勤め先に上司を訪ねた今日も、御他聞に漏れなかった。
三輪と名乗るおっさんは、シノが失踪前に最後に会った人物だった。恰幅のいい五十絡みのおっさんはシノの直属の上司であり、失踪前に共に出張に出掛けた相手でもある。


「志信の様子…ですか?」
訊ねた俺に、穣は拳を口元に当てて、考え込んだ。
正直、大学を出てからというもの、シノと会ったのは数えるほどだ。弁護士と云うのは研修が始まれば、同期の人間たちと過ごす時間が異様に増える。
俺も忙しくて勉強に必死な時期を過ごすうちに、学生時代親しかった連中との交際は希薄になる。
誰でも社会人になればありがちな話だ。
それでも、細くだが、シノとの付き合いが続いていたのは、家が近所の所為ではない。
互いの家に招くとか、そういう付き合いは俺たちの間には皆無だった。
アイツは恋人と別れると、俺に電話を掛けてくるのだ。
思えば、それに嫌悪を示さない俺は、奴にとっていい吐き出し場だったのだろう。体のいい『王様の耳はロバの耳』って奴だ。
だから、夜中に電話が掛かってきたとき、俺はまたアイツが恋人にフラれたんだと信じて疑わなかった。
だが、電話の相手は、すっかり疎遠になっていた高校の同級生。相手は興奮した様子で、シノの失踪を俺に伝えると、心当たりは無いかと訊ねてくる。
俺がどれだけのショックを受けたかなど、電話の向こうのソイツに解る筈も無い。心当たりが無いことを告げると、すぐに電話は切れた。
事務所宛に『遺言書』が送られてきたのは、その次の日だ。
どうやら、主張先の海外から出されたそれは、本人失踪の報よりも遅れたらしい。
俺が警察へとそれを届けたことで、シノが事件などに巻き込まれたのではなく、覚悟の失踪であったことになった。

「普段と変ったことは無かったと思います。少なくとも、俺の前では」
だからこそ、解らない。そう云いたげな瞳。穣の真っ直ぐな目は、誰よりも豊かに感情を伝えてくる。
「失踪の、前後のことを教えてくれるか?」
云いよどんだのは、俺自身も認めたくない所為だ。

「あの日は…」

出張から、一日早く帰るとシノからメールが入った。
穣は喜んで、シノを迎えるため、マンションへと向かう。途中で、コンビニへと寄って、冷えたビールとつまみになりそうな惣菜を買い込んだ。
だが、予定時刻を過ぎても、シノは帰宅することなく、待ちくたびれて、そのまま居間のソファで寝てしまった。
夜中に起きても、帰宅している様子は無く、何かあったのかと、パソコンで事故のニュースなどの検索を掛けたが、それらしいものも無い。そのまま、まんじりともせずに朝を向かえた。
もしかすると、熟睡している自分に拗ねて、寝室へ篭もってしまったのかと、一縷の望みをもって、寝室を覗く。
「拗ねる?」
シノらしくないフレーズに、俺は首を捻った。
「あんまり構ってやれなかったですからね。俺は、貧乏暇なしって奴で、休日出勤も全部引き受けていましたから」
自嘲するように笑う穣に、話の先を促す。

ベッドには乱れた様子も無く、やはり、シノが帰宅していないことを示すだけだ。
朝には、仕事に行かねばならない。
心配ではあったが、これ以上どうしようもなく、メールだけを入れて、仕事へと赴いた。
その夜もシノは帰宅せず、友人連中にメールや電話を入れても、行方は掴めない。さすがに家や職場へも連絡をとるべきだろうかと、寝室のパソコンラックのサイドボードを開いた。
だが、そこで見つけたのは、手帳やスケジュール帳の類ではない。
下書きに使ったのだろう、ルーズリーフ。
乱雑な性質のシノらしく、乱れた文字の並んだそれに、幾重もの直しや線引きがある。
一番上にあったそれを退けようとして手に取った穣は、走り書きされた中にある自分の名に、思わず中身を読んだ。
「深海志信の死後、全ての財産を椎名穣に譲るものとする。
 これは、深海志信の意志であり、この執行に関しての全権を江尻弘毅へ託すものとする」
どう見ても、遺言状の下書きか何かに見えるそれを持って、警察署へと穣が駆け込んだのは云うまでも無い。
ただし、恋人だと云ってしまうほどには、穣は冷静さを失ってはいなかった。
友人宅に泊まりにきたのだが、二日過ぎても友人は帰らず、死の心配がある訳でも無い若い友人が遺言状の下書きを残している。心配なので探して欲しい。
だが、穣の願いは却下された。捜索願いは家族からでないと受け付けられない、と。
「会社も無断欠勤していました。出張に一緒に行った上司も出張先で別れたそうで」
会社も、家にも帰宅していないとの知らせに、家族に連絡を入れ、家族から捜索願いが出て、俺にも話が廻ってきた訳だ。
「失踪するほど、悩んでいたのなら…」
何故、話してくれなかったのか。そう稔は声を詰らせた。

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