スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
*Edit TB(-) | CO(-) 


銀杏の実り<6> 

結局がとこ、何も新しい事実は掴めない。
とにかく、シノという男は、完璧すぎたのだ。親の期待は裏切らず、先生の受けは良く、友人たちの評価も抜群だった。
何故、俺とシノがつるんでいたのか、学生時代は不思議がられたものだ。
そのシノが、唯一、親の期待に応えることが出来なかったのは、『ゲイ』であったことである。
だが、奴がそれに悩んでいたかと云えば、首を捻らざるを得ない。
とにかく、軽薄なタイプとばかり付き合いたがるので、長続きはしないが、とにかくモテていたことは確かだ。


「江尻先生。面会です」
「俺? 誰?」
今日、依頼人と会う予定は無い。勤め先の法律事務所では、三十台の俺なんぞ、まだまだ新米扱い。飛び込みの依頼が俺自身に入ってくるなどある訳が無い。
「深海さんとおっしゃる御夫婦です」
シノの両親だ。確かに名刺は渡したが、トラブルがあるとは聞いていない。
まず、あそこの夫婦なら、うちの親から話がある方が先だろう。
「とにかく、お話を伺いなさい。貴方を名指しでいらっしゃったのよ」
所長は、まるで女教師が諭すような口調でメガネのフレームを押し上げた。
その仕草も、本当にお堅い女子高の教師のようだ。じろりと見られ、思わず背筋を伸ばす。
「はい!」
俺は、勢い良く立ち上がると、さっと応接間へと向かった。


「私たちには信じられないんです。あの子が自殺したなんて」
「ええ。判ります」
じっと目を伏せたままの母親に代わって、シノの親父は意外としっかりした口調で話し出した。
「それで、あの、再審請求というのはどうやったらいいのかと、御相談を…」
「再審ではなく、再捜査の請求ですね」
納得出来ないというのは判る。どう考えても思い当たる節が無さ過ぎるのだ。
「再捜査の請求は難しいです。新たな物証を見つけなければいけません。あいにく、私は民事が専門ですので、とりあえず、お話をお伺いして、刑事事件の得意な弁護士を紹介させていただきます」
俺は極めて事務的に話を進める。でなければ、俺自身の納得出来ない部分がはみ出しそうだったからだ。
「刑事さんが、まずうちにいらっしゃったとき、私は自殺にも他殺にも思い当たる節はまったくないと申し上げました」
母親が、下を向いたまま、手にしたハンカチを握り締める。
「うちの子は、誰かの恨みを買うような子ではありませんし、思い悩んでいるような様子も、まったくありませんでした。ですが、貴方が来られた」
父親がじっと俺を見た。
俺が来たのが、何だって?
「穣という子。あの子のことで、志信はきっと悩んでいたんです。男と恋愛なんて、あの子らしくありません」
やっぱりと云う気はした。死んだ後に、息子さんはゲイだったんですよ。なんて、認められる親は、そうそういない。
しかも、死に方が普通じゃなかった。
シノは出張先から失踪した一年後に、毎年の自殺防止キャンペーンで富士樹海へ入ったボランティアよって、遺体が発見されたのだ。
「あの子に遺産が譲られる事になっているんでしょう? もしかすると、あの子がそれを目当てに志信を殺したんじゃないかと思えてきて……」
誰かの所為にしたい気持ちは判る。だからといって、穣を疑うのはどうなのか? だが、穣を認められない両親にしてみれば、当然の心の動きなのかもしれない。
「滅多なことはいうものじゃない!」
「でも、あなた……」
嗜める父親の声も淀みがちだ。これは双方が疑っていると見て間違いない。
シノ。やっぱり、お前の頼みごとは、やっかいの元だ。


「椎名さん?」
珍しく、穣の反応が無い。このアパートは壁が薄い為に、階段の音で誰が来たか丸判りで、穣は俺が訪ねてくるときには、すでに玄関先にいることも珍しくないのだ。
ドアに手を掛けると、カギも掛けていない。その無用心さも、穣には珍しかった。
「椎名さん?」
もう一度声を掛けると、がたんと何かを倒す音が響く。
俺は目の前の引き戸を開いて、部屋の中へと飛び込んだ。
だが、そこにいた穣は、慌てて男から身を離す。今まで抱き合っていたのは明らかだった。

NEXT

FC2 Blog Ranking
完結小説一覧

スポンサーサイト
*Edit TB(-) | CO(-) 


Back      Next

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。