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御節比べ<身勝手な男>新年SS祭り 

新年SS祭りTOPはアンケート第三位。「佐伯×久世」で。
本編「身勝手な男」シリーズはこちら


「いらっしゃい。ヒロさん、英さん」
行きつけのバーの扉をくぐると、細身のバーテンダーに満面の笑みで迎えられた。
このバーの持ち主の片割れでもある圭くんは、最近はすっかり落ち着いた柔らかい笑みを見せるようになった。
「やぁ、ヒロちゃん。久しぶりだね」
隣に立つマスターも柔らかい笑顔で迎えてくれる。マスターは、大柄だと自認する俺よりも、身長も高く胸板も厚い巨漢といっても差し支えない男で、バーのマスターというより、格闘技の選手の方が似合いそうだ。
「英さん。ヒロちゃんのボトルからですか?」
「ああ。ツーフィンガーで」
俺と共に訪れた男は、颯爽とカウンターへと近づく。四十近くなっても格好付けの激しい俺の男だ。
色男は何をやっても絵になる。もっとも、その男が抱えているのが風呂敷包みというのが、ちょっと珍妙な感じではあったが。
「マスター、これ良ければですが」
「ああ。悪いね。でも本当に貰ってもいいのかい?」
カウンターに腰を下ろした英次が差し出した風呂敷包みを、マスターが受け取った。
「いや、うちもこれ以上あっても困るんだって」
横合いから俺が口を出す。
世間は大晦日。いくら建築業者が年末ギリギリまで仕事だと云っても、土日を挟んで出社は有り得無い。俺と英次の勤める城南鋲螺も、土曜出社で大晦日が代休だった。
大掃除は昨日のうちに済ませ、正月用の買い物もして、朝から正月飾りを飾りつけていると、後ろに宅配便が立っていた。
デカイおっさん二人で正月飾りを飾っている様子は、さぞ異様だっただろう。平均的な独り者のサラリーマンの二人暮らしでは、宅配便など来るのは稀だ。
「こちら、久世さんのお宅ですか?」
帽子を上げた宅配便の兄ちゃんが、おずおずと伺うような声を上げる。
「ああ、うちが久世だけど」
「すみません。クール便です。サインか判子いただけますか?」
クール便? 聞き慣れない言葉に、俺と英次は顔を見合わせた。
「それで、開けたら御節だったと」
マスターの問い掛けに、俺は頷いた。すでに英次が作るつもりで、材料の買い物が終わっている。正直黒豆やら昆布巻きやらという縁起物は、正月過ぎる頃には飽きているものだ。
二つ分など入るわけが無い。
「二つになった訳は判りましたけど、誰からだったんですか?」
圭くんの疑問はもっともだ。
「うちのお袋。俺、勘当されてんだよ」
「俺んちみたいな田舎なら解りますけど、ヒロさん、江戸っ子だって云ってませんでした?」
圭くんもマスターと入籍したときに、実家と悶着があったらしいというのは聞いている。
「うち、実家も親戚も全員教職なんだよな。しかも俺、バレたのが事件がらみでさ」
「そりゃ、不味い状況ですね」
体面を重んじる我が家では、即勘当、籍を外された。
「今の俺の状況なんか知らないからさ。独りモンだと思い込んで、送ってきたんだろうけど」
「英さん、マメですからね。英さんの家は不味いんですか?」
「うちの親は大晦日当直で、何もしないからいらないってさ。兄貴や弟は俺の作った御節より、カノジョの手料理だろ?」
英次が圭くんの問い掛けに肩をすくめた。
「確かにデカイ兄弟の作ったもんより、可愛い悠里や素敵な綾乃さんの手料理だよな」
英次の弟の五実は、最近英次の同級生だという年上の美人と付き合い始めた。
「綾乃の料理はひどいぞ。俺はいつか五実が死ぬんじゃないかと思ってるがな」
ちょっとした引っ掛かりを覚えて、俺は英次に向き直る。
「お前、何時綾乃さんの料理なんか食ったの?」
「俺と綾乃は高校までずっと同級生だぜ。しかも普通科には家庭科ってもんがあるんだ。それには、通常調理実習があってだな。綾乃の殺人的料理に、だーれも組む奴がいなかったんだ。五実に聞いたら、あんまり変って無さそうな口ぶりだったぞ」
その嫌そうな口調で、なんとなく俺は察しを付けた。つまり、綾乃さんと組むのを押し付けられていたのに違いない。
「あ、ヒロちゃんじゃん。ひっさしぶりー」
俺の背後から、男の細い腕が廻される。振り向こうとしたら締め上げられた。
腕を外すのは造作も無いが、いきなり締め上げられて、さすがに咳き込んだ。
「苦しいっての! お前は俺を殺す気か?」
「へへ」
悪戯っぽく笑うのは、いい年こいても可愛らしい雰囲気の俺の友人、真幸だ。顔はどっちかといえば綺麗系なんだが、妙に雰囲気が可愛い。
だが、俺にあんまり懐いてくれるな。お前の家の番犬が刺さりそうな視線で俺を睨んでるぞ。
馬に蹴られたくない俺はさっさと真幸を引き剥がし、後ろの番犬に向きなおる。
「カズも久しぶりだな」
「はい。ヒロさんもお元気そうで」
カズは、本当に素直というか、正直というか。体育会系らしく、俺にきちんと頭は下げるんだが、視線は油断無く周囲を見回している。ご主人様に手を出す不逞の輩がいないか。
まぁ、俺も身に覚えが無い訳でもないから、警戒されるのはわかるけどな。
「あれ、お前も?」
若いカズの手にも、似合わない風呂敷包みが握られていることに気付いて、俺は声を上げる。
「え? もしかして、ヒロちゃんも?」
カウンターの上に乗った包みに、真幸も気付いたらしい。
「上司からの貰い物でさ。でも、俺たち明日から北海道にスキー旅行なんだよ。捨ててもいいとは云われたんだけど、もったいないじゃん」
「お前の上司は、何でそんなものくれたんだ?」
上司なら、真幸が独り者だろうことは知っているだろうが。
「いや、別の部署のゲイカップルなんだよ。あっちも。片方の親から、高級ホテルのオードブルが来たんだって。さすがに親公認だと断りづらかったらしくて。でも独身男が寮に差し入れって訳にもいかなかったみたい」
そりゃそうだ。このコンビニ全盛の昨今に、独身男が正月料理を用意するなど、有り得無いシチュエーションだ。会社関係となると言い訳の仕様も無い。
「せっかくだし、もったいないから、みんなで摘みませんか? どうせ、すぐに年は明けますよ」
圭くんの提案に、周囲にいた連中が盛り上がった。
年末にバーで年越しする連中など、古参の常連か、寂しい独り者に決まっている。
カウンターにそれぞれの包みが広げられると、店中の男達ががやがやと集まってきた。
「おお、古式ゆかしい感じだな」
「すげぇ、超オフクロの味」
英次の御節は非常にスタンダードだ。
芋としいたけの煮しめ、大根なます、小エビのから揚げ、揚げた小魚の酢漬け、昆布巻き、厚焼き玉子、ぶりの照り焼き、黒豆、栗きんとん。
もちろん、俺の好みもあって、嫌いなものは入っていない。
「うわ、こっちはデパートみたいだな」
「高級そう。これ、手作りなの?」
こっちはいかにもな感じの高級感溢れる造りだ。
生ハムの香草巻き、ローストビーフ、鶏肉のごぼう巻き、グラタンかな、カニのチーズ焼きっぽいのがある。色とりどりの野菜の煮こごり。彩りにいくらも入っている。
いかにもな、オードブルって感じだ。
ちょっと英次の御節が見劣りするのは、仕方が無い。
落ち込んでるかと思うと、英次は既にそっちに箸をつけ始めていた。
「さすがに部長サマ。金掛かってるー」
嬉しそうな声を張り上げた、真幸だが、箸をつけたのは、英次の御節の方だった。
「黒豆なんて久しぶりに食った。美味いなぁ。うん、これじゃヒロちゃん餌付けされちゃうよね」
「真幸さん、食べたいですか? あの、英さん、これ後で」
不安そうに真幸の周りをカズがうろうろしている。
「ああ。作り方は教えてやる」
それにクスリと英次が笑った。
「この生ハムのやつくらいならウチでも出来そうだな。お前も食ってみろ」
「あ、いいや。俺、こっちで」
大丈夫だよ。カズ。お前の料理は、お前の真幸に向う愛情がプラスされて美味いんだ。
英次の料理も同じこと。
きっとその部長サマの料理だって。
それぞれはきっとそれなりに美味いだろう。
でも、俺にはお前の作ったものが一番美味い。そっちのオードブルは来年お前が俺に作ってくれ。そうしたら、きっと最高に美味いと思うから。
常は静かな店内は、心地いい喧騒がある。思いも掛けぬ年越しパーティはまだまだ続きそうだ。

<おわり>

次作は「ソルフェース×リベア」【熱い口付け】

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