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お守り<転げ落ちた先に>新年SS祭り 

新年SS祭りアンケート第一位。不動の渥美×鈴木です。
本編「転げ落ちた先に」


「あれ、あんな場所に神社なんてあったんだ?」
読んでいた本から顔を上げた鈴木がそういうのに、渥美は溜息を吐いた。
年明けて、日曜までは休みだ。
今年は小春日和というには、いささか暖かい日が続いていて、ガラス越しの日差しを楽しむために、窓際に一人がけのソファを寄せ、鈴木はそこへ腰掛けて本を読んでいた。
もちろん、椅子を寄せたのは渥美だ。暖かいカフェオレも脇の小さなテーブルに用意されている。
「俺が越して来る前から、あそこにあったがな」
鈴木が見つけた神社は、マンションの向かい側に位置している。あったんだも何も、毎日その前を通って通勤しているはずだ。
今まで、まったく気付いて無かったとは恐れ入る。
まぁ、だが、そこは鈴木だ。興味のあるものはとことん調べるが、興味の無いものは目にも入らない。典型的な理系の男である。
「後で、行ってみようぜ」
「珍しいな。お前が積極的に外出したがるなんて」
渥美は目を丸くした。
女王陛下は、本来面倒なことは一切やらない方だ。だからこそお仕えするものがいなくなった途端に、あの格好だった訳だ。
「いや、これだけ食うだけの生活が、何日も続くとさすがに……」
うんざりとした声を鈴木が上げたのも無理は無い。何を思ったのか、年末に実家から大量の贈り物が届いた。
都内の屈指の高級ホテルの御節セット。生ハム。松坂牛の霜降りのステーキ。生牡蠣。ずわい蟹。山のように届いたそれらを前に、渥美はしばし呆然と立ち尽くした。
自分で用意した御節の処分をどうしようかと思案した結果、同じ会社の宮川に届けた。
電話をすると、幸い宮川は、旅行に出掛けるつもりで、何も用意していないと云う。
食えるものだけでも処分して欲しいと頼むと、行きつけの店(おそらくはゲイバーだろう)に持って行くと云うので、渥美が作った分は無駄にならずに済んだ。
これが正月でなければ、同じ部署の連中を呼んでパーティでも開くところだが、時期が悪い。正月を挟んで十日間の休暇など、ほとんどの連中は都内にいないだろう。
特に東京近郊に勤めているものは、地方民が多い。
松坂牛と、生ハムは半分ほどは寮に届けた。
まだ、寮にも数人が残っていて、宴会だと盛り上がっている。
それでも依然、それなりのものが残ってしまった訳だ。調理に難しいものは、男所帯には押し付けられないし、まったく手をつけない訳にはいかない。
渥美は、格の違う家の嫁に入った気分だった。
大晦日は夕飯が牡蠣鍋と生ハムのサラダ。年越しそばと蟹を肴に夜景を見ながら日本酒を一杯(もちろん、鈴木には舐めさせただけだ)。
新年はステーキを焼いて、高級ホテルの御節をつまみ。
他人が聞いたらうらやましいと思うかもしれないが、さすがに三日も続くと食傷気味だ。
それは鈴木も同じだったのかもしれない。
「そうだな。三が日を過ぎれば人もいないだろうし。行ってみるか」
渥美もちょっとつまらないと思っていたのだ。

小さな神社だが、綺麗なお社だ。若い巫女さんが何人か境内の掃除をしている。昨日まではそれなりに賑わっていたらしい。
そんなには寒くないので、鈴木も渥美もシャツの上にロングジャケットをはおり、マフラーを首に掛けているだけだ。
チラチラと巫女さんがこちらを見ているのが判る。
大体、渥美は目立つのだ。背も高く、きっちりと筋肉のついた身体だが、どちらかといえば細身に見える。顔は、ちょっとプロのお姉さんたちが騒ぎそうな感じの、甘さの無い男前だ。
それが鈴木を先に立たせ、自分は一歩下がって、ぴったりとくっついている。
「おい、お参りしたことあるか?」
「一応、作法ぐらいは知ってる」
こんな場所には、まったく興味の無さそうな鈴木だが、渥美が心配するほどでもなかったらしい。
作法どおりに手水舎を使っている。だが、いかんせんハンカチは持ってきていないらしい。視線を彷徨わせる鈴木に、渥美が横からハンカチを差し出した。
礼もなしにそれを使い、渥美が手水舎を使い終えたところでハンカチを返す。こういうところは鈴木らしい。
参拝した後に、参道を歩いていくと、お守りや破魔矢、お札などが売られている。鈴木がふっと足を止めた。
「買って行くか?」
「はぁ?」
振り向いた鈴木に、渥美は本気で問い返す。
「お前が、か?」
「悪いか?」
「いや、悪くは無いが……」
悪くは無いが、鈴木の行動としては奇妙だ。理系な男である鈴木は、全てにおいて理屈っぽい男だ。神事や宗教というものは、結婚式と葬式の儀礼だと考えているような男が、何ゆえにお守り?
渥美の頭はひたすらクエスチョンマークで一杯である。
だが、女王陛下は、臣下のそんな疑問など何処吹く風とばかりに、颯爽と歩いていった。
「その交通安全と、健康祈願でいいのか? 病気しないように、って奴は」
話しかけられた巫女さんがぽっと顔を紅くした。近くで見ないと判らないのが、鈴木の美貌の微妙なところだ。しかも会社に行かないから、髭も剃っていない。
「あ、いえ。今、身体に不調がおありですか?」
「いや、多分、無い」
「でしたら、長寿祈願の方です」
頬を染めた巫女さんが、鈴木と話している横で、渥美は、いや、今でも健康に不安はあるだろうと突っ込みそうになったが、鈴木が満足しているのであれば、それでいい。どうせ気休めだと開きかけた口を閉じる。
目線で金額を確認して財布を開けようとした渥美の手を、鈴木が止めた。
普段、渥美と一緒のときには見ることの無い、鈴木の財布はきちんとブランド物だ。
鈴木は支払いを終えると、お守りをジャケットの内ポケットに無造作に入れ、歩き出した。

「少し、風があるな」
「夕方になると、冷えるな。熱いものにするか?」
「そうだな」
御節はやっと食いつくしたが、蟹がまだある。春菊と水菜、葱を入れて、少量の米を足し、蟹雑炊(というには、蟹がかなり多いのはご愛嬌だ)を作る。
作りながら、渥美はちょっとだけ溜息を吐いた。
おそらくは十日間こもりきりになるなるだろう女王様の為に、目先を変えた料理をあれもこれもと用意していたのだ。
鈴木の親の心づくしが嬉しくない訳では無いが、同時に恨みがましくもある。
しかも、高級食材はやっかいで、一旦解凍してしまうと、もう一度冷凍すれば味が落ちるものばかりだ。
渥美の辞書に燦然と輝く、もったいないと云う精神は、貧乏育ちの渥美の環境を思えば、仕方の無いものではあるが、こんなときにはつくづく育った環境の違いを感じてしまう。
「義彦、出来たぞ」
うだうだ考えていても仕方が無い。渥美は頭を振って、土鍋をリビングへと運んだ。
「ああ。ちょっとだけ出て来る。すぐに戻るから」
「出て来る? 一体、何処に? 後じゃ駄目か?」
振り向くと、鈴木はすでにジャケットを着込み、準備万端だ。
「駐車場までだから。すぐ戻るって」
「忘れ物なら、後から取ってくるぞ」
いやに慌てた鈴木の様子に、何か隠しているなと渥美はぴんと来た。
「とりあえず、座れ。せっかくだから、熱いうちに食べてから行けばいいだろう。俺も付いていく」
「いや、いいって。まぁ、飯は食うけどさ」
渋々ジャケットを脱いで座った鈴木に、渥美は正面に座って、じっと目を見据えた。
居心地が悪そうに視線を彷徨わせる鈴木に、渥美がずいっと身体を乗り出す。
「出せ」
「チッ、」
悔しそうな鈴木が差し出したのは、先ほど神社で買ったお守りだ。
「やるよ。車に付けて来ようと思ってたんだよ」
交通安全のお守り。自動車に付けられるタイプのものだ。
「これもやる。お前にはいつまでも傍にいて欲しいから」
もうひとつ、差し出されたのは長寿祈願。
「義彦……」
「俺だって、お前に何かしてやりたいんだよ。母さんたちに先越されちまったけど」
何も鈴木の親から贈られてくるのは、これが初めてと云う訳でもない。ちょっとした祝い事のたびに、鈴木の分に添えて贈られる。
それを女王陛下なりに、悔しいと思っていたのだろうか?
「つつしんでお受け取りいたします」
差し出されたお守りごと、手を取り、キスを落とした。
照れて赤くなっている鈴木が、渥美にはたまらなく可愛かった。
だが、ベッドの中でご奉仕する前に、きちんと食事をしていただかねば。
「熱いうちに食べよう」
「そうだな。せっかくのお前が作ってくれた飯だ」
顔を見合わせて笑いあう。
駐車場に行くのはきっと、明日の昼を過ぎるに違いない。


<おわり>

新年SS祭りはこれにて終了。
今年もどうぞ、よろしく!

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