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銀杏の実り<11> 

ゲイバー・シャレードの扉をくぐると、一斉に皆がこちらを見た。
颯爽と歩く穣の姿は非常に目立つ。しかも、今日は俺が一緒だ。
「弁護士さん、まだ何か?」
シャレードのマスターは俺に怪訝な目線を向けてくる。
「今日は客だ」
「コーキは志信の友達なんだよ」
「志信の? じゃ、お仲間ってこと?」
マスターが目を丸くする。
「あら、それなら大歓迎よぉ。いい男だなって思ってたのよねぇ」
厳ついマスターは突然しなを作って、俺に顔を突き出してきた。
俺の容姿は、どっちかといえば、こういう連中には受けがいいのだ。
いつもの事で、苦笑いが浮かぶ。俺としては細身で筋肉質で、きちんとした性格の男が好みだ。たとえば……。
そこまで考えて、不毛な考えを振り払う。
「コーキ。何にする?」
穣が身体を寄せてきた。
「止せよ」
俺はちょっと遊びなれた風を装って、いかにもな冷たい男を演じてみせる。正直、くっつかれるのは演技だと判っていても心臓に悪い。
「冷たいな、コーキは」
「穣、そういうのが燃えるんだろ? 志信にも猛アタックだったじゃん」
「まさか、志信が落ちるとは思わなかったもんなぁ」
「俺、いつも報われないんだよ」
周囲の客たちの囃す声に、穣が目を伏せた。それを見たマスターが俺をギロリと睨む。
「アンタ、まさかと思うけど、穣で遊んだりしてないでしょうね?」
注文した酒の味がしないくらいに睨まれたままだ。俺は仕方なく無言を貫くことにした。そうすると俺の雰囲気と相まって、近寄りがたいオーラが出るらしい。
「仕方ないさ。コーキの好みは志信だから」
さらりと爆弾を落とされて、俺は素で穣を振り返ってしまった。
「コーキの初めては志信らしいし」
「シノの野郎、いらんことを!」
唸るように云った俺を、穣が目を見開いて見ている。
「ホント、だったんだ?」
しまったと顔を覆っても無駄なこと。語るに落ちるとはこのことだ。穣はシノのジョークだと捉えていたらしい。
お互いに恋愛感情があった訳では無い。子供の頃の好奇心という奴だ。
「まぁな。ガキの頃の話だ」
「へぇえ?」
ニヤニヤと笑ってマスターが俺を見ている。もう何もしゃべるものか。恋人のフリだけするつもりが、とんでもない恥掻いちまったぜ。
「このオジサン、可愛いじゃないの」
「だろ?」
穣が悪戯っぽく笑うのに、マスターが柔らかい笑みを浮かべた。
「元気そうで安心したわ」
マスターの言葉に、穣は答えない。ただ、柔らかな笑みを浮かべるだけだ。親身になってくれているらしい相手を騙すことに、俺は罪悪感で一杯だった。
俺たちがお互いを恋人だと称した訳ではないが、思いっきり誤解されているのを知りつつ、否定していないことは確かだ。どころか、態と誤解の種を蒔いている。
俺は席を立った、
トイレの個室に入って溜息を吐く。限りなく不毛なことをしているような気がして仕方がない。
「これ、バレたら不味いよな」
事務所の老所長は何と云うだろうか? 考えて、出た妄想を振り払う。その妄想はきっと確実な未来だろう。
「シノの野郎」
お前は死んでからまで、俺にやっかいごとを押し付けやがる。だが、断ることは出来ない。シノは死んでしまったのだ。
「お前の最後の頼み、か」
悪戯っぽく笑って、俺の肩を叩くシノの顔が浮かんだ。
『頼んだぜ。コーキ』
俺は個室を出て顔を洗う。頬をパンと両手で叩いた。しゃきっとしないと。
カウンターへ戻ると、今まで俺が座っていた場所に、別の男が座っている。
「すまないが、そこは俺の席だ」
「コーキ」
穣がほっとしたような声を上げた。
「チッ、」
おそらくは穣を口説いていたらしい男は、俺をギロリと睨みつけると、あからさまに不機嫌な様子で腰を上げる。
「泥棒猫みたいな真似しやがって!」
すれ違いざまに言い捨てるが、俺はしれっとやり過ごした。と、いうか俺の顔を認識した上でああいうことを云ってくる相手は、妙に喧嘩っ早いやっかいな連中が多い。自分の実力も弁えずに喧嘩を売るタイプだ。
弱いくせにイキがっている奴くらい、手に負えないものは無い。
ところが、これに反応したのは、穣だった。
ガタリと立ち上がり、そいつの後を追おうとする穣を、俺は肩を掴んで引き戻す。
「コーキ……」
「相手にするな」
「コーキが馬鹿にされたのに?」
俺は無言で首を振った。
「出るぞ。ケチが付いた」
いい加減、夜も遅い。今日の目的はシャレードの連中に、俺たちが恋仲だと誤解させることだ。目的を果たした以上、長居は無用だった。

「アイツが、マキか?」
「ええ。シノのことも目の敵にしてましたから」
「泥棒猫、ね。奴の頭の中では、シノがいなければ、当然自分が君の恋人になれると思い込んでいた節がある」
妄想タイプのストーカーか、それともイッちまってる口か。だが、思い込むに至った経緯が不明だ。
「君、なんて呼ばないでください」
穣の言葉に顔を上げる。
「俺と貴方は恋人同士でしょう?」
するりと俺の腕に、自分の腕を絡ませ、甘いフリをしながらも、瞳だけは真剣に俺を見つめている。
俺はそれにうなずいた。
「ああ。そうだな」
二人寄り添って歩き出す。
横断歩道を渡ろうとして、赤信号に足を止めた。
週末の繁華街だ。人は多い。俺の後ろを誰かが抜けようとしたので、俺は穣の腕を外し、身体を捻る。
その背に、ドンと衝撃が来た。
思わず、一歩道路に踏み出す。
急ブレーキの音が響いた。

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