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銀杏の実り<17>完 

「何処から聞きたい?」
穣はベッドの端に座り込むと、俺に缶コーヒーを渡してきた。暖かいそれを受け取りはしたものの口が付けられない。
微妙な顔をしていた所為か、穣はさっと俺の手からコーヒーを取り返し、プルトップを開けて、口を付けた。一口飲んでから俺に渡す。
「別に、疑っているつもりは……」
「解ってるよ。怖いんだろう」
いつまで怯えているのだろう。毒見などさせる気は無かったのに。
「弘毅が俺を疑っていたように、俺も弘毅を疑っていた」
穣が俺の横に座り直し、肩を抱く。身長はさほど変わらない俺は、穣に引き寄せられるまま、横へ納まった。
「疑いを持った元は『遺言状』だよ。志信は俺のことを好きなのかどうか、俺にはまだ解らなかったし、志信が死ぬときまで、俺を傍に置くつもりだったとは俺には思えなかった」
穣の云うことは良くわかる。それに志信が自殺だとされたのは、あの遺言の所為なのだ。
「柊以外、誰も信じてなかった。それが、きっと柊を勘違いさせた」
俺の肩を抱く、穣の手が震えている。それに俺は手を重ねた。
「弘毅が突き飛ばされたときに俺は気付いたんだ。弘毅は怯えてきっていた。演技だとは俺には思えなかった。だとすると、誰が弘毅を殺そうとした? マキさんか? いきなりそこに結びつくには何がある?」
「それで警察へ行ったのか?」
穣はうなずいた。
「俺では弘毅を守り切れない。仕事を休んで弘毅に張り付くにも限界がある」
渡されたコーヒーは話をする間に冷え切っている。それを一口、含んだ。
「マキさん、安田さん、そして志信、弘毅。全部と接触があるのは、俺を除くと柊だけなんだ」
「マキと安田は、元々俺やシノが煙たかっただろうが、シノは?」
ストーカーっぽくなっているようなタイプは、自分に都合のいい妄想に浸りがちだ。俺やシノが穣に付きまとっているとでも云えば、簡単に排除の方向へと動くだろう。しかも、運がよければ大怪我をするかも、くらいの行動だ。
実際は、未必の故意は殺人と何ら変らないが、軽く見なしがちになる。
「志信は俺への想いだよ。逆手に取られたのは」
シノは今度こそ本気だったんだ。いつもみたいに軽く恋を囁いて、去るもの追わずには出来なかった。
「俺へ本気を示すためだと云って、柊は遺言状を書かせた」
「俺へ郵送したのは、遺言の執行を頼むよりも、穣を紹介する気だったんだな」
むしろ、浮かれていたと上司の三輪は云っていたじゃないか。
『恋人にプロポーズする気になったのかと云ったら、当たらずとも遠からずなんて笑っていた』
三輪の言葉を思い出す。
男同士で遺言を残したところで、揉めるのは目に見えている。揉めない方法は、唯一、養子縁組だ。
「遺言状は、シノから穣へのプロポーズだったんだ」
「志信……」
呆然となった穣の目から、一筋涙が落ちる。やっと穣は泣くことが出来たのだ。
俺は穣を抱き寄せ、涙を舌で拭う。穣は俺にされるまま、ただ泣き続けていた。

「では、遺言通り、深海志信さんの遺産はお受け取りになりますね?」
「はい」
一週間後、穣は俺の勤める法律事務所に来ていた。シノの遺言の執行と、それに伴う諸手続きのためだ。
「弘毅。俺がこれを受け取った後、どうするかは俺が決めていいんだよな?」
実印を点いた穣が顔を上げる。
「ええ。そうです。貴方の自由にしてくださって構いません」
穣は普段通りの口調だが、俺は一応勤め先だ。
「これ、志信の両親に受け取って欲しいんだ。俺は、志信の気持ちだけで構わないから」
「椎名さん?」
「その手続きを取って欲しい。俺、法律的なことは何も判らないから」
きっぱりと顔を上げた穣の表情は晴れやかで、もう立ち直ったことを示していた。
「それが椎名さんのお気持ちならば」
寂しい気持ちを抑えて、俺は立ち上がる。もう、穣が俺の部屋へ来ることも無いだろう。
「それと、もうひとつ」
「はい?」
「ここって、弘毅以外にも弁護士さんっているんだよな?」
俺は怪訝な心地で振り返った。
「私ではおっしゃりにくいことでしょうか?」
「じゃなくて。俺、死んだ後に弘毅に遺産譲りたいんだけど。それって、弘毅に頼めるの? まぁ、今はそんなたいした額じゃないけど」
そんなことが出来たら、法律事務所は詐欺の温床だ。
「お、お待ちください。今、別の弁護士を連れてまいります」
動揺しまくりのまま、俺はドアを開ける。
「あの、所長。同席していただきたいのですが」
「あら、何も難しいことではなかった筈だけど?」
女教師のような老所長がメガネをくいっと上げた。その仕草も何処か教師っぽい。
「いえ、新しい案件を頼みたいと申されていまして。その、私自身に関わることなので」
「まぁ!」
所長は妙に嬉しげだ。ゲイであることは事件で芋づる式にばれた。そして、この聡いひとに隠し事はまず、無理だ。
弾んだ調子で部屋へと入っていく所長の後ろに付いていきながら、穣が何故にこんなことを云いだしたのか判って、俺は一人で赤くなっていた。
穣はシノと同じ事をしているつもりなのだ。
俺が穣を信じないから。
『コーキ。頼んだぜ』
シノの声が聞こえた気がした。
「ああ。シノ」
お前の頼みごとは、いつもやっかいの元だ。でも。
俺は自分が笑っていることを知っていた。
シノ、お前の頼み、確かに受けおったぜ。

<おわり>

番外編<守ること>

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