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庇う背中<専業主夫・金居岳の場合> 

岳と理実が暮らすきっかけ。本編はこちら


玄関先で憂鬱な気分を振り払う。
実際、居心地が悪いことは判りきっているのだが、長男である岳がいずれ面倒をみることになる家族だ。
父親はどう考えているか知らないが、姉や妹は、遠くない内に嫁に行くことになるだろう。婿をとっても、その男とあの時代錯誤の頑固オヤジが上手くやっていける筈もない。
「ただいま」
がらりと扉を開けると、いつもなら飛び出てくる妹も母親も出てこない。
拍子向けしたまま、岳は家の奥へと進んだ。
居間を覗いても誰もいない。今までお茶を楽しんでいたらしく、湯気の立った茶器が三つと、いくつかのせんべいが置かれていた。
「一体、何処へ?」
とりあえず、父親に挨拶をしようと奥の書斎へ向うと、そこに家の女たちが群がっていた。
書斎からは父親の怒鳴り声も聞こえる。
「何だ?」
「あ、お兄ちゃん、おかえりー」
「ただいま。お前ら一体……」
「シッ!」
振り向いた姉は唇に人差し指を立てる。
わけが判らず、とりあえず、書斎に足を進めようとする岳を、今度は母親が止めた。
母親に引きずられるように、廊下の外れに連れてこられる。
「今、不味いわよ。岳。父さんの機嫌、最悪よ」
「みんなで書斎覗き込んで何があったの? 親父も怒鳴ってるし。誰がいるんだ?」
「理実ちゃんよ。子供連れて」
「理実?」
理実というのは、父親の妹の子供だ。早くに離婚した叔母は、この家によく理実を預けていたものだ。岳も幼い理実の面倒をみたこともある。
「ほら、理実ちゃん、随分年上の女の人と一緒だったじゃない?」
綺麗な顔をした理実は、年頃になると女の子にも随分とモテた。数年前からは、年上の女と同棲していた筈だ。子供がいたとは知らなかったが。
「逃げられたんですって」
「へ?」
「それで、働くためにも子供だけでもここに置いて欲しいって云って」
成る程、父親が血管切れそうな話だ。叔母も亡くなっているし、唯一の身内を頼ってきたのだろうが。
「とりあえず、子供だけでも連れ出してくるよ。子供の前で話す話じゃないだろ」
「そんなことしたら、お前まで……」
「いいよ。殴られようが追い出されようが、今更じゃん」
岳はさらりと言い放ち、書斎へと踏み込んだ。
「ただいま。父さん。そんなに怒鳴ってると血管切れるぜ」
「何だ、岳! 何しに帰ってきた!」
じろりと岳を見る父親は、岳に似ていない恰幅のいい格好良さを誇っている。TVに出て来るカッコいい父親がそのまま年をとったような雰囲気だ。ひょろひょろと背ばかり高くて平凡な顔立ちの岳とは大違いである。
その父親の前に膝を揃えて頭を下げている男がいた。幼い子供は怯えて男の背にしがみ付いている。
「新年だからね。佐奈にお年玉くらいは持ってくるよ。あと、仏壇用のお供えも、買ってきたし。墓参り済ませたら帰るよ」
「そうか。母さんにでも預けておけ」
穏やかな調子に、岳は拍子抜けだ。もっとあからさまに怒鳴られるかと思った。
だが、父親は忌々しそうに理実へ向き直る。
「オカマだろうが何だろうが、岳ですら自分で稼いで自分を養っとる! それがお前は何だ? 今まで女に養われてきた挙句に、今度は子供を預かってくれだ? ずうずうしいにもほどがあるわ!」
正確に云えば、オカマではないが、父親にはゲイ=オカマらしい。
岳は子供の横に座ると、あっちへいこうと示す。だが、怯えてしまった子供は、掴んだ理実の服を離そうとせず、いやいやと首を振るだけだ。
「ですから、今日から子供の分まで稼ぎます。でも、知己は幼い。今は面倒を見てくれる人がまだ必要です。仕送りはきちんとします。どうか、俺が独り立ちできるまで知己をお願いします!」
静かに理実が顔を上げる。相変わらず中性的な綺麗な顔は、決意に溢れ、顔の醜悪だけではない美しさがあった。
頭を下げてはいるものの、子供を庇う背筋はぴんと伸びている。
「ほう、それなら売れもせん役者など諦めろ! そうすれば、就職の面倒ぐらいは俺がいくらでも……」
「伯父さん。俺はそれを諦める気はありません。売れなくとも、小さな舞台でもいい。俺がそれを諦めるときは、俺の身体が動かなくなったときです」
確かに、父親はこの田舎町では名士だ。父親に頼めば、いくらでも子供と二人で暮らせるだろう。それをしないのは、父親がそう言い出すだろう事が判っているからだ。
「何だと! そんなことを云ってるから、女に捨てられたりするんだ!」
父親の言葉に、がたりと岳が立ち上がった。頭を下げた理実の前に立つ。
「理実。お前住むところが欲しいだけか?」
「岳兄ちゃん?」
「うちに置いてやる。ただし、子供とお前の食費はきちんと入れろ。子供の面倒もお前が見ろ」
父親と理実の前に立ちふさがるように、仁王立ちした岳を、理実は怪訝そうな表情で見上げた。
「来い。これ以上、親父の具にもつかない怒鳴り声を、ずっと知己に聞かせる気か?」
「岳、お前ッ!」
父親の怒鳴り声を背に、岳は理実の腕を引き上げる。
知己は大きな目をくるくるさせて、理実の後ろに付いていくだけだ。
書斎で一人、怒鳴り散らす父親に、女たちもぞろぞろと岳の後ろに付いてきた。
「岳、あんなこと云って、父さんがまた」
母親はおろおろしている。岳は構わず、カバンを探り出した。
「佐奈。これ、お年玉」
「わーい、お兄ちゃんありがとー」
「それと、母さん、これがお供えで、明日本家に行くんだろ。本家用にお年賀。あんまり、父さんが五月蝿いようなら、三人で温泉でも行ってきなよ」
元々、父と母にはボーナスからいくらか渡すつもりで包んできてある。
「ごめんね、岳。あんたにばかり気を使わせて」
申し訳無さそうな母の肩を、姉が叩いた。
「コイツが女の子だったら、もっと良かったのにね」
ウインクを寄越す姉に、岳が笑った。
「で、岳。あんた大丈夫なの? ワンルームに男三人じゃ、」
「この間、建売買ったんだよ。2SLDKで、二階使ってないし」
「そんな無理して平気なの? 都内でしょう?」
「お兄ちゃん、すっごい。ねぇ、ディズニーランド行くとき、泊めてね!」
姉と妹が口々に云うのに、岳は苦笑いを浮かべた。
「大丈夫だよ。ローンは家賃程度だし、佐奈も泊まりに来い。ただし、ウチよりは確実に狭いぞ」
田舎の元百姓家は、結構な部屋数がある。都心なら邸宅と云えるだろう。
「た、岳兄ちゃん、ホントに大丈夫なのか? 俺のことなら」
「いいって。お前、役者の夢は諦めたくないんだろう? うちは端とは云え、二十三区内だし。それともさっきの条件も守れないのか?」
急なことに、動揺しているのは理実も同じだ。だが、岳の鋭い問いには即座にうなずいた。
「じゃあ。来い。とりあえず、これ以上居ると、親父がうるせぇからな。とっとと帰るぞ」
岳はさっさと理実と知己を促して、庭先に停めたレンタカーに乗り込む。
ほっとしたのか、車の後ろで知己は眠っていた。
その知己の髪を梳いた、理実が顔を上げる。
「岳兄ちゃん。ありがとう。俺、ちゃんと働くし、きちんと知己も育ててみせるから」
「気にするな。俺は住む場所を提供するだけだ」
あまりに真っ直ぐな瞳に、岳は目線を逸らした。
岳と理実が恋人同士になるには、後、数年の月日が必要だ。

<おわり>

冬イベント用、無料配布SS。春用も出来たので、公開。

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